上 下
11 / 28

10

しおりを挟む
 相談室から出て、帰ろうと廊下を歩き始めた時だ。

「瑞穂?」

 聞き覚えのある声に呼び止められた。

 立ち止まって声の主を見る。

 白シャツに紺色のカーディガンを羽織った女性。肩までの緩いウエーブのかかった髪に、切れ長の優しそうな目。控えめな薄いピンク色の唇が、嬉しそうにほころぶ。

「やっぱり瑞穂だよね?」

 女性が瑞穂の肩をポンと叩く。

「もしかして菜月?」

「そうだよー。遠山菜月」

 菜月の笑顔に、瑞穂は懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。

「髪伸ばしたんだね。一瞬、誰かわからなかった」

「もしかして会うの、高校卒業以来?」

「うん、6年ぶりくらいかな。もしかして菜月、ここの職員?」

 菜月は首からネームプレートを下げていた。

「そう。就職して2年目……。あれ? 瑞穂、もしかして今そこの相談室から出てきた?」

 菜月が先程の相談室を指さす。

 瑞穂はうなずいた。

「あの件通報してきたのって、もしかして瑞穂だったの?」

 そう聞く菜月の表情が曇る。

「そうだけど……」

「ちょっとちょっと」

 菜月は小声になり、瑞穂の腕を取って廊下を歩いていく。

 瑞穂はそのまま廊下の片隅まで連れていかれた。

「ここだけの話、あの通報、悪戯じゃないかって言われているの」

「えっ」

 瑞穂が驚いて声を上げると、シーっと菜月は人差し指を立てた。

「そんな。わたしは悪戯でそんな電話なんかしない」

「うん、わかってる。瑞穂がそんなことをするわけない」

 菜月がそう言ってくれたおかげで、瑞穂の気持ちは少し落ち着いた。

「よかったら、今日の夕飯一緒にどう?」

 菜月は明るい声でそう言った後に、声のトーンを落として続けた。

「ここじゃ色々話せないからさ」

 もちろん、瑞穂は菜月の誘いに応じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

リンネは魔法を使わない

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:5

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:3,129

女性恐怖症の高校生

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:237

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,440pt お気に入り:3,350

さよなら僕のアルカディア

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:11

演じる家族

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

チョコレート

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:15

虚しくても

Ryu
ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

家の中で空気扱いされて、メンタルボロボロな男の子

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:153

処理中です...