愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

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 部屋の蛍光灯が点滅する。昨日、電球を変えたばかりのはずだった。

 瑞穂は床に手をついたまま、リナの顔を凝視した。

 明滅に合わせ、リナの顔が消えたり浮かび上がったりする。

「泣いたら許されると思うな! お前は悪い子だ!」

 リナが細い足で、瑞穂の顎を蹴り上げた。

 瑞穂はそのまま後ろにひっくり返る。

「いたっ」

 瑞穂は上半身を起こし、顎に手を当てた。ぬるっとした感覚があった。自分の手の平を見ると、血がついている。

 小さなリナの、どこにそんな力があるというのか。

 リナが、瑞穂の着ているパジャマの襟首を掴んだ。

 瑞穂は立ち上がろうとしたが、全身の力が抜けて身動きができない。

 リナに襟首を掴まれたまま、瑞穂は床を引きずられていく。

 リナは乱暴に浴室のドアを開け、電気をつけた。そのまま瑞穂を洗い場に引きずっていく。

「お前は悪い子だ。ばい菌だらけの汚い子だ!」

 リナは瑞穂の襟首から手を放し、洗い場に瑞穂を投げ捨てた。

「リナちゃん、やめて」

「うるさい黙れ! 口答えをするな!」

 リナは叫びながら、シャワーを瑞穂に向けた。

「ひゃっ」

 瑞穂は叫んだ。冷たいシャワーが頭から降ってくる。

 瑞穂は手で水をよけながら、リナを見た。

 リナが、シャワーの温度設定を回している。もうすぐ冷水は熱湯に変わる。

「やめて」

「お前は汚いから、熱いお湯で殺菌するんだ」

 リナがバスタブに湯を張り始めた。

 その隙に、瑞穂はシャワーを止める。リナがすぐに気づいて、瑞穂の手をピシャリと叩いた。

 またシャワーを出されるかと思ったが、リナはじっと固まったままだ。

「もう一度聞くけど……」

 リナの声が元に戻っている。

「本当にリナちゃんのお母さんは、帰ってこないの?」

 瑞穂はすぐには答えられなかった。

 浴槽に湯を張る音だけが二人の間を流れる。

 帰ってくるよ。そう嘘をついた方がいいのだろうか。本当のことを言ったら、さっきのように、リナはまた豹変するかもしれない。

 リナを成仏させてあげたい。だが、今は危険すぎる。

「お母さん……きっと帰ってくるよ」

 瑞穂の声がうわずる。

 リナが瑞穂を見下ろしている。

「嘘」

 リナの声がまた低くなった。

 浴槽の湯がもうすぐいっぱいになりそうだ。立ち昇る湯気で浴室内の温度が上昇している。

「マミちゃんばかりママといてずるい。マミちゃんのママも、いなくなればいい」

 浴室から逃げなくては。

 瑞穂は立ち上がろうとした。だが、腰が抜けたように全く力が入らなかった。

 浴槽の縁に手をかけ、瑞穂はなんとか膝立ちになった。

 その瞬間、頭を後ろからグイッと押された。

 瑞穂は浴槽のお湯に頭を沈められた。熱いお湯を大量に飲み込んでしまう。

 瑞穂は浴槽の縁を持つ手に力を込めた。頭を上げようとするが、後ろから押さえつける力が強い。

 瑞穂は激しく抵抗し、プハッと水面から顔を上げる。

「悪い子は死なないと治らん!」

 リナが低い声で叫ぶ。

「嘘つきは死ねばいい!」

 ものすごい腕力で、瑞穂はまた頭を湯に沈められた。

 苦しい。息ができない。何度頭を上げようとしても、リナの手に押し戻される。

 本当にもう、死んでしまうのかもしれない。

 苦しい。哀しい。寂しい。

 あの子もこうやって苦しんだのだろうか。まだ生まれる喜びも知らないあの子に、死の苦しみを与えてしまったのだろうか。

 死にたくないなんて。

 思ってはいけない気がした。

 きっとこれは、自業自得の苦しみなのだ。
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