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:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」
・1-4 第19話 「冒険の始まり」
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・1-4 第19話 「冒険の始まり」
大小の刀を差すと、源九郎はその場で姿勢を正し、まっすぐに前を見つめた。
自分の力で鍛え抜いた剣術の腕で、自分の意志に従い、自由に生きる。
それが、立花 源九郎というサムライだ。
だから、源九郎は過去のことでくよくよと悩んだりはしない。
なぜなら源九郎にとっての過去とは、自分の意志で選択し、決断した出来事の積み重ねだからだ。
自分自身の両足で、しっかりと大地を踏みしめて立ち、目の前に立ちはだかるあらゆる障害は、その刀で斬り開く。
だから源九郎は、いつでも前を向いている。
自分の進んで行くべき方向がどこなのか、自分がどんなふうに生きるべきなのか。
その刀で、なにを斬り、なにを守るべきなのか。
そのことを見定めようとするように、いつも、遠くを、未来を見つめているのだ。
『さぁ、源九郎。
旅立つのです。
あなたにはやっていただきたいことはありますが、ひとまず、どこに向かうのか、私からはなにも申し上げないようにいたしましょう。
あなたの、意志で。
自由に。
この世界を、旅するのです』
そんな源九郎に、神は、励ますような明るい口調でそう告げた。
『ここからさほど遠くない場所に、小さな村があります。
あなたと同じ、人間たちが暮らしている村です。
まずは、そこに向かうとよいでしょう。
旅を始めるのに必要そうな道具は、一応、ご用意もしておきましたので』
神の言うとおり、刀が置かれていた地面の近くに、源九郎の旅荷物がご丁寧なことに風呂敷に包まれて置かれていた。
中を確認してみると、1セット分の着替えと、刀を手入れするための道具、干飯と味噌などの保存できる携帯食料、竹製の水筒に入った真水など、確かに旅をするのに必要そうな最低限のものがそろっていた。
それだけではなく、あまり多くはないが砂金の詰まった小袋まであった。
金は、どんな場所でも高い価値があると見なされる貴金属だった。
世の中には多種多様な硬貨があるが、その価値は多くの場合、そこに含有される貴金属の割合で決定されるから、金そのものである砂金であれば、どこに行っても取引に使うことができるだろう。
「ああ、神様、さすがに用意がいいな!」
源九郎は、これから始まる異世界での冒険にウキウキと胸を弾ませながら、風呂敷を包みなおし、旅荷物を背負う。
「それで、神様。その、村っていうのは、どっちに行けばいいんだ? 」
『こちらです』
そして源九郎がニコニコとした楽しそうな笑顔で確認すると、白い光の球体として空中に浮かんでいた神は、ふよふよと漂い、進むべき方向を示す。
『この方向に進めば、細いですが、道があります。
獣道よりは少しはっきりとしているはずですので、すぐにわかると思いますよ。
その道に突き当たって、左にずっと行けば、村にたどり着くでしょう。
きっと、迷うこともないでしょう。
さぁ、源九郎、あなたの冒険を始めるのです。
私は神で、他にもやらねばならないことがありますから常にあなたの側にいられるわけではありませんが、なにかあれば、呼んでいただければ必ず姿をあらわしましょう。
少なくとも、あなたが自分の旅の目的を見出し、私の手助けを必要としなくなる時までは』
「おう、わかったぜ!
いろいろと、本当にありがとうな! 神様! 」
神の言葉に、源九郎は笑顔で感謝の言葉を述べ、それから、神が指し示してくれた進むべき方向を見すえる。
そして大きく、肺をめいっぱいに広げて息を吸い込むと、両手を真っ青な空に向かって突き上げ、叫ぶ。
「ィよっしゃぁっ! 冒険、するぞーっ! 」
そうして、異世界へと転生を果たした立花 源九郎は、意気揚々と歩きだしていた。
────────────────────────────────────────
神と別れ、元気に弾んだ足取りで源九郎が進んで行くとすぐに、細い道に突き当たった。
神が言っていたように、狭い道で、舗装もされていないただ地面がむき出しになっているだけの小道だったが、明らかに獣道ではない。
なぜなら、馬車かなにかがかつて通ったことがあるのか轍の痕跡が確かに残っていたし、馬の蹄)の跡らしきものも残っていたからだ。
轍を残すような動物は、さすがにここが異世界とは言っても、いないはずだ。
その小道が今も使われている、生きた道であることを知り、人の暮らしの気配を感じ取った源九郎は、神に言われていた通り左に進路をとって、その小道を進み始める。
旅の始まりは、順調なものだった。
当面必要そうなものはすべてそろっていて心配する必要がないし、これさえあれば、と頼もしく思えるような武器も手元にある。
天気は晴れ渡っており、旅の始まりを祝福しているかのようだった。
気温も、ちょうど良かった。
春を思わせる暖かさで、源九郎が転生する前に感じていた、凍えるような寒さなど少しも感じさせない。
辺りは、心地よい若草の香りに包まれている。
そよそよと吹く風にのって運ばれてくるその匂いは、ここが、源九郎が賢二として暮らしていた日本ではなく、まったく異なる世界であることを教えてくれる。
暖かな春の気配に柔らかく包み込まれていると、この世界へとやって来た源九郎のことを歓迎してくれているのではないかとさえ思えてくる。
源九郎は歩き出した時と少しも変わらない意気揚々とした足取りで進み続け、開けた広場のようになっていた草原から、森の中へと入って行った。
この先にあるという村は、どんな場所なのか。
そこで自分は、どんな人々に会うことができるのか。
まったく、なにもわからない!
この世界のすべてが、源九郎にとっては未知のものだった。
大小の刀を差すと、源九郎はその場で姿勢を正し、まっすぐに前を見つめた。
自分の力で鍛え抜いた剣術の腕で、自分の意志に従い、自由に生きる。
それが、立花 源九郎というサムライだ。
だから、源九郎は過去のことでくよくよと悩んだりはしない。
なぜなら源九郎にとっての過去とは、自分の意志で選択し、決断した出来事の積み重ねだからだ。
自分自身の両足で、しっかりと大地を踏みしめて立ち、目の前に立ちはだかるあらゆる障害は、その刀で斬り開く。
だから源九郎は、いつでも前を向いている。
自分の進んで行くべき方向がどこなのか、自分がどんなふうに生きるべきなのか。
その刀で、なにを斬り、なにを守るべきなのか。
そのことを見定めようとするように、いつも、遠くを、未来を見つめているのだ。
『さぁ、源九郎。
旅立つのです。
あなたにはやっていただきたいことはありますが、ひとまず、どこに向かうのか、私からはなにも申し上げないようにいたしましょう。
あなたの、意志で。
自由に。
この世界を、旅するのです』
そんな源九郎に、神は、励ますような明るい口調でそう告げた。
『ここからさほど遠くない場所に、小さな村があります。
あなたと同じ、人間たちが暮らしている村です。
まずは、そこに向かうとよいでしょう。
旅を始めるのに必要そうな道具は、一応、ご用意もしておきましたので』
神の言うとおり、刀が置かれていた地面の近くに、源九郎の旅荷物がご丁寧なことに風呂敷に包まれて置かれていた。
中を確認してみると、1セット分の着替えと、刀を手入れするための道具、干飯と味噌などの保存できる携帯食料、竹製の水筒に入った真水など、確かに旅をするのに必要そうな最低限のものがそろっていた。
それだけではなく、あまり多くはないが砂金の詰まった小袋まであった。
金は、どんな場所でも高い価値があると見なされる貴金属だった。
世の中には多種多様な硬貨があるが、その価値は多くの場合、そこに含有される貴金属の割合で決定されるから、金そのものである砂金であれば、どこに行っても取引に使うことができるだろう。
「ああ、神様、さすがに用意がいいな!」
源九郎は、これから始まる異世界での冒険にウキウキと胸を弾ませながら、風呂敷を包みなおし、旅荷物を背負う。
「それで、神様。その、村っていうのは、どっちに行けばいいんだ? 」
『こちらです』
そして源九郎がニコニコとした楽しそうな笑顔で確認すると、白い光の球体として空中に浮かんでいた神は、ふよふよと漂い、進むべき方向を示す。
『この方向に進めば、細いですが、道があります。
獣道よりは少しはっきりとしているはずですので、すぐにわかると思いますよ。
その道に突き当たって、左にずっと行けば、村にたどり着くでしょう。
きっと、迷うこともないでしょう。
さぁ、源九郎、あなたの冒険を始めるのです。
私は神で、他にもやらねばならないことがありますから常にあなたの側にいられるわけではありませんが、なにかあれば、呼んでいただければ必ず姿をあらわしましょう。
少なくとも、あなたが自分の旅の目的を見出し、私の手助けを必要としなくなる時までは』
「おう、わかったぜ!
いろいろと、本当にありがとうな! 神様! 」
神の言葉に、源九郎は笑顔で感謝の言葉を述べ、それから、神が指し示してくれた進むべき方向を見すえる。
そして大きく、肺をめいっぱいに広げて息を吸い込むと、両手を真っ青な空に向かって突き上げ、叫ぶ。
「ィよっしゃぁっ! 冒険、するぞーっ! 」
そうして、異世界へと転生を果たした立花 源九郎は、意気揚々と歩きだしていた。
────────────────────────────────────────
神と別れ、元気に弾んだ足取りで源九郎が進んで行くとすぐに、細い道に突き当たった。
神が言っていたように、狭い道で、舗装もされていないただ地面がむき出しになっているだけの小道だったが、明らかに獣道ではない。
なぜなら、馬車かなにかがかつて通ったことがあるのか轍の痕跡が確かに残っていたし、馬の蹄)の跡らしきものも残っていたからだ。
轍を残すような動物は、さすがにここが異世界とは言っても、いないはずだ。
その小道が今も使われている、生きた道であることを知り、人の暮らしの気配を感じ取った源九郎は、神に言われていた通り左に進路をとって、その小道を進み始める。
旅の始まりは、順調なものだった。
当面必要そうなものはすべてそろっていて心配する必要がないし、これさえあれば、と頼もしく思えるような武器も手元にある。
天気は晴れ渡っており、旅の始まりを祝福しているかのようだった。
気温も、ちょうど良かった。
春を思わせる暖かさで、源九郎が転生する前に感じていた、凍えるような寒さなど少しも感じさせない。
辺りは、心地よい若草の香りに包まれている。
そよそよと吹く風にのって運ばれてくるその匂いは、ここが、源九郎が賢二として暮らしていた日本ではなく、まったく異なる世界であることを教えてくれる。
暖かな春の気配に柔らかく包み込まれていると、この世界へとやって来た源九郎のことを歓迎してくれているのではないかとさえ思えてくる。
源九郎は歩き出した時と少しも変わらない意気揚々とした足取りで進み続け、開けた広場のようになっていた草原から、森の中へと入って行った。
この先にあるという村は、どんな場所なのか。
そこで自分は、どんな人々に会うことができるのか。
まったく、なにもわからない!
この世界のすべてが、源九郎にとっては未知のものだった。
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