殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

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:第4章 「危険なシゴト」

・4-14 第128話 「部外者」

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・4-14 第128話 「部外者」

 遠目に見ただけだったが、フィーナと一緒に市場で見かけた巫女のことを源九郎は鮮明に記憶していた。
 日本とは異なる文化を持つ異世界、異国の中で、彼女の和装は印象的だった。
 周囲から目立っていたというだけではなく、この異世界にも日本のような場所があるのだと知れて嬉しかったというのもあって、強く心に残ったのだ。
 そして彼女を間近で目にしたことで、その記憶はより強固なものとなった。
 その巫女が、━━━美人だったからだ。
 まず目につくのは、日が当たると翡翠のような色合いの輝きを見せる美しい長い黒髪。足元に届くほど長いそれは、先端の辺りでひとつに束ねられ、彼女が歩(あゆみ)を進めるたびに風雅に揺れる。
 大きな三角錐の形をした菅笠の下からは、上側に赤いアイラインを差して化粧をされた切れ長の双眸がかすかにのぞいている。意志の強そうな、[自分]というものをはっきりと有しているのだと思わされる目をしていた。
 白い小袖と緋袴に包まれた身体は華奢な印象で、しわ一つなく整えられた装束の輪郭線からは彼女の肢体の曲線が想起できる。凹凸は少ないが、姿勢が良く、和装が一番きれいに見えるスタイルの持ち主だった。
 身長は、かなり低い。
 遠目に見ていた時はよくわからなかったのだが、マオをナイフで脅迫していた鼠人(マウキー)と並んで立ってみると、その小柄さがよく比較できる。
 おそらく、150センチあるかないか、というくらいだろう。
 一瞬、子供なのかとも思ったのだが、顔立ちや、落ち着いた立ち居振る舞いからしてそうではなさそうだった。
 20歳前後。それも、学生ではなく、一人ですでに自立して生きている女性だ。

(まぁ……、中世とか、近世の日本人って、身長が低かったっていうしな)

 地球ではよく日本人は小柄だ、などと言われていたものだったが、令和の時代より数百年も昔はもっと小さかったのだということを源九郎は思い出していた。
 顔立ちや雰囲気は美人なのに、身体が小さなためにかわいらしく見えてしまう。
 だが、どこか威風というか、貫禄がある。
 元々ツリ目がちで意志の強そうな雰囲気があったが、赤いアイラインを引いているためにその印象が強まっていて、どこか近寄りがたいような気がしてしまう。
 誰もいないと思っていたところから突然姿をあらわしただけではなく、あまりにも堂々としているその態度と合わさって、マオにナイフを突きつけて脅迫していた鼠人(マウキー)がたじたじとなって後ずさっていく。

「な、なんだ、てめぇはっ!? 」

 キーキー声でナイフを見せつけるようにしながら鼠人(マウキー)が威嚇したが、巫女は動じない。

「どいてくりゃれ」

 ただ、一言。
 よく通るクリアな声で、静かに、しかし有無を言わせない迫力のある言葉でそう命じる。
 すると鼠人(マウキー)は、おそらく無意識に進路を彼女に譲ってしまった。

(なんか、雰囲気あるよな……)

 思わず相手の姿を観察してしまっていた源九郎だったが、彼もまた、少し気圧されるような感覚を抱いていた。
 なぜなのかはわからない。
 だが、もしも巫女からあれをしろ、これをしろ、と命じられれば、思わず従ってしまいそうな気がする。

「なんだ、お前は? トラブルに巻き込まれたくないのなら、大人しく引っ込んでいてもらおうか」

 巫女に半ば圧倒され、半ば見とれていた源九郎と、たじたじとなってしまってどうすることもできずにいる鼠人(マウキー)、そして呆気に取られているマオ。
 しかしラウルだけは違っていて、彼は冷静に、威圧するような声で突然現れた部外者のことを制止する。

「わらわも、厄介ごとは避けたいからのぅ。黙って見ておるつもりであったのじゃが……」

 すると巫女は左手でくいっと笠のすそを持ち上げ、犬頭のことを見上げながら不敵に微笑んで見せる。

「痛めつけるだのどうのと、なにやら物騒なことが聞こえて来たのでな? こうして、出張ってやることにしたのじゃ」

 立ち居振る舞いもそうだったが、声にも威厳があった。
 普段から人に命令することに慣れている。そんな印象がする。

「やれやれ。どうして異邦人っていうのは、こう、人の国の事情に首を突っ込もうとするんだ? 」

 しかし、ラウルも動じない。
 彼は肩をすくめながら、揶揄するようにそう言う。
 だが、どこか少し、嬉しそうでもある。
 その言葉の対象には、どうやら源九郎も含まれている様子だった。
 短いつき合いでしかないマオをあくまで庇おうとするサムライと、厄介ごとは避けようと最初はダンマリを決め込み、壁の向こうにいたのにどんなにマオが扉を開こうとしようとも無視していた巫女のおせっかいさを、犬頭は余計なことだと思いつつも、肯定的に評価してもいる様子だった。

「第一、武器ももたずに? お嬢さん、あなたのようなか弱そうな女性が、丸腰でなにをしようっていうんです? 」

 もちろん彼は、大人しく引き下がるつもりはなかった。
 短剣の切っ先を巫女の方へと向け、少しおどけて警告する。

(実際、あの子、どうするつもりなんだろう? )

 巫女はやたらと自信ありげではあったが、源九郎は心配になって来る。
 一対一で他者の介入なく戦うことができれば、自分の方がラウルよりも強い、とは思っている。
 しかし、刃を交えた結果、犬頭の実力は並外れていると理解することができていたし、華奢な女性が武器もなしになにかできるとは思えなかった。

「案ずるでない。そなたの相手をするのは、わらわではないからのぅ」

 すると彼女は、ニヤリ、と笑った。
 いったいどういうつもりで、と疑問に思う間に、その手は頭上に高く掲げられている。

「小夜風(さよかぜ)! 」

 そう源九郎たちには意味の分からない、おそらくは何者かの名前らしい言葉を叫んだ瞬間だった。
 ━━━上から、何かが勢いよく降って来る。
 四肢から青い燐光を散らしながら、小さな影が、長い大太刀を背負って、空を駆ける。

(あれは、市場で巫女さんと一緒に芸を見せてた……、キツネ!? )

 源九郎は、その生物にも見覚えがあった。
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