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第2章 世界の異変が大変編

魔物のフィーバータイムは嫌です

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「……なるほど、な。わかった、一応警戒しておくか」

 俺が説明すると、カールがそう頷く。
 周りの皆も一応納得してくれたらしく頷いてくれた。
 スキルのことを話さずに伝えるって難しい……というか回復魔法を使えることを言ってないけどいつ言おうかな。
 魔力察知のことも言ったほうがいいのかな?
 ていうか魔法が使える時点で魔力察知とか魔力操作とか使えるってバレるんじゃ……?
 まあ、そこは仕方ないのかな……でもまだ俺、この世界のこと良く知らないし言っていいものか難しいな。

 そういえば魔力察知といえば、カールって気配感知を持ってるのに魔力察知を持ってないってどういうことだ?派生するはずなのに。うーん?謎だ……。

 俺がそんなことを考えている時だった。


 カンカンカンッ!


 馬車列の前のほうで鐘を叩くような音が響く。

「むっ!魔物の敵襲だな!」

 カールさんがそう言うのと同時にカイルさん達が立ち上がり戦闘態勢に入る。
 げっ!本当に来やがったよ……。
 そういうテンプレいらないんですけど。

「ユウト君はここにいて!」

 魔物に心の中で不満をぶつけていると、カイルさんがそう言って他の冒険者達と出ていってしまった。
 え?放置?どうせなら俺も戦いたかったのに……。
 いや、戦わなくても皆の戦いを見学したかったのに……。

 そう思っていると俺の気配感知に反応があった。
 反応があるのは森の方で先頭の馬車が一番近く、迎え討つ形になるようだ。
 ……ってえ?なにこの数……。
 現在進行形で感知範囲にどんどん入ってくるし、今ですら百体以上いるんじゃない?まずくね?

 俺はゆっくりと馬車から降りてカイルさん達が向かった方を見る。
 向こうからは鳴き声なのか雄叫びなのかわからない音が響いてくる。

 ど、どうしよう?助けにいく?
 それともカイルさんの言う通りここで待ってた方が……。
 うーん……。
 ていうか俺が言って戦力に……いやいや、ある程度は戦えるし……。

 チラッとリョマ達を見ると彼らも警戒しているらしく、鋭く森の向こうを見ている。
 このままリョマ達と待つか、どうしようかと思っていると地響きと共に大きな爆発音が響く。

「え!?なに!?」

 思わず声にしてしまったが仕方ないだろう。
 見ると森のほうから煙が上がっているのが見えた。
 え?大丈夫?いきなり爆発ってなんなの?誰かやられた?

 俺は咄嗟に応援に行こうとしたが……戦いの最中の連携など無理だし、逆に迷惑になるかもしれないと思い、やっぱりここでみんなを待つ事にした。
 ただ、一応警戒のためにナイフを取り出す。

 しばらくして気配感知がこちらに近付く存在を感知した。
 む?人……か?それとも魔物?
 気配感知って人か魔物かって区別出来ないんだよね……。
 そこんとこ不便。

 俺がその方向を見ていると一匹の狼のような生き物が木々の隙間から現れた。
 ……はい!魔物ですありがとうございます!

 って!魔物かい!
 ひぃ!まだ遠いけど狼とかゴブリンとかより怖い!
 ……あれ?というかなんか増えて……なんか三匹になりましたけど?
 分身ですか?俺もそういうスキルほしいなーあははー……。

 俺が現実逃避をしている間にも三匹の魔物は近付いてくる。
 ふっ……仕方ないな、降りかかる火の粉は……って、走ってくるな!!ひぃぃ!リョマ達助けて!!
 魔物達はリョマには近付かず俺に向かってきた。
 なんでやねん!

 俺はナイフを握り構える。
 まさかこっちに魔物が来るとは思ってなかったから心の準備してなかったけど、一応俺には痛覚軽減や再生があるしなんとかなる……いや!してみせる!
 一匹が飛びかかってくる……が、それを横に回避しながらナイフで切る。

「キャイン!」

 切られた魔物はそのまま短い悲鳴をあげながら地面に倒れる。
 残りの二匹は同時に襲ってきたが薙ぎ払うようにして切り裂く。
 その二匹も悲鳴をあげながら倒れた。
 ……あれ?俺強くね?いやいや!ここで慢心したらやられる!謙虚に行かなくては!
 周りを警戒しながらも倒した三匹の魔物を特殊空間にしまっていると、

 ドオンッ!!

 爆発するような音とともに地面が揺れた。
 うわっ!な、なんだ?さっきも似たような爆発あったけど、まさかカールのアースクエイクじゃないよね?レベル4がどのくらいの規模なのかわからないけども……。

 俺がそんなことを考えているとまたもや俺のほうに接近する存在がいた。
 カイルさん達が戻ってきた……感じはしないな……うん。

 森から出てきたのは先ほどの狼みたいな魔物二匹と、少し大きなスライム七匹、それと茶色い猿のような魔物三匹だった。
 え?多くね?もしかしてカイルさん達突破されてるの!?ならまずくね?カールはともかくカイルさん達大丈夫かな?

 魔物達はすぐさまこちらに走ってくる。
 スライムは遅いので対処は後でいいか……狼っぽいのが先にくるからサクッと倒してしまいましょう!
 まず狼っぽい魔物が飛びかかってきたので、さっきと同じようにナイフを――

「うっ……!?」

 顔に何かが当たって一瞬怯んでしまった。
 その瞬間に爪で攻撃され腕に痛みが走る。
  痛い!腕をやられた!早く立て直さないと……!

 俺が急いで前を向くと猿が木の棒のようなものを持っている姿が見えた。

 ……。


 …………!


 お前か!猿!!!ゆるさん!!

 怒りのままに、攻撃してきた狼っぽい魔物を二匹とも切り伏せる。
 猿が木の棒を持ちながらこっちへ向かってきたのでナイフをぶっ刺す。
 そして他の二匹もぶっ刺す。
 ぶっ刺した時に色々攻撃されたが痛覚軽減と再生があるんだから気にしない!
 一息ついたところで、残りのスライムは……と思い、前を見るとまだ数メートル先でポヨンポヨンしてた。

 ぶっ刺した。

 そのあとスライムの核と五匹の魔物を特殊空間にポイして次のやつらを待つ。
 もう怒ったからね?木の棒ぶつけられて平然としてられるわけないだろ!ぶっとばしてやるわ!!
 魔物出てこいや!!

《スキル【威圧】を獲得しました》

 ああん?威圧?
 なんか新しいスキル獲得しちまったよ。
 鑑定さん詳細かもん!

《スキル 詳細

アクティブスキル

威圧
スキル効果
周囲の一定以下の力を持つ生き物を威圧する
しかし威圧は破られることもある
称号からの追加補正
威圧に成功した相手に好意を抱かせる》

 ほうほう……気絶まではしないものの、威圧っていうのは牽制とかにいいかもね!
 ただ!補正のせいで使いづらいのは確かだ!
 ちくしょう!簡単に威圧出来ない!

 そんな事を考えている時、再び頭に声が響いた。

《…一定の経験値を取得しました。
それによりレベルが上がりました。
…一定のレベルに達しました。
 条件を満たしましたためスキルの進化を行います。
…進化完了。
これによりスキル【魔力察知】が【魔力感知】へと進化しました。
…条件を満たしましたスキル【魔力感知】から【危険察知】が派生しました》


 ええ?えええ?レベルアップ?進化?
 色々ちょっと多くね?
 もしかしてレベルが10上がる事に何かスキルが進化するの……?え?凄くね?
 ただ残念なのは鑑定さんが進化しなかったことだけど、まあ仕方ないな。

 そんなことを思っていると再び大きな音と共に地面が揺れた。

 もう!揺れない攻撃は無いの!?ちょっと攻撃派手過ぎません!?

 その揺れからしばらくすると森の中から冒険者が出てきたのが見えた。
 ……やっと終わった?
 よく見ると足を引きずっていたり、他の冒険者の肩を借りたりしている人がいる。
 冒険者達は馬車の近くまで戻ってくると座り込み、その中で怪我をしている人を横にし始めた。
 ……お?これは俺の出番ですかね?

 俺がその集団に近付いていくとその中にいたカイルさんらしき人がこちらを振り向いた。
 うん、カイルさんだね、ボロボロだけど。

「ユウト君!大丈夫かい!?」

 カイルさんは馬車の近くの血と俺が汚れているのを見てすぐに理解したみたいだ。

「大丈夫ですよ」

 俺はそう安心させるように言うが、カイルさんは俺の体をジーッと見たりペタペタ触ったりして確かめている。
 あの……そんなにしなくても大丈夫なんですけど。

 俺は無駄に引っ付いてくるカイルさんから離れて怪我人のところに向かった。
 怪我人は十人以上いるがアレなら関係ない!

 俺は範囲内に怪我人がいることを確かめてから魔法を構築した。
 え?使っていいのかって?そりゃ秘密にしたいけど、やっぱ怪我人みたら助けないわけにはいかないでしょ!
 使ってなんぼの力だし!仕方ない!

 そして発動させるウイルス性――ってやっぱりネーミング変えようかな……って、それはともかく!回復魔法発動!
 魔法を使うと俺の手から淡く光る玉が浮かんで、そしてジワジワと増えていく。
 今のうちに離れよう……コソコソっと……。

 光の玉はこの間よりも早く増えていき、その一つが怪我をした冒険者に触れる。
 するとその光が冒険者を包んでいき、そしてしばらくすると消えていく。
 光に包まれた冒険者は最初困惑していたが、自分の怪我が治っているのをみると驚きに目を見開いた。

 ウイル……癒しの光はそれで終わることはなく、周辺一帯に幻想的な空間を作り続けた。



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