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死ぬ前の私に会いに行きなさい、って。
死ぬ前の私に、会って、どうしろっていうんだろうか。少なくとも、私には得がない。これっぽっちも。今となっちゃ、私がどうして死んだのかさえ、どうでもいい。私にはどうでもいい。そんなことは。自分を大事に思ってないわけじゃない。ただちょっと、見苦しいんだよね。自分のことについて考えて、あれこれ悩んでしまうのは、時間がもったいない気がする。そんなつれないこと言わないでさ、前髪を上げて、空を見上げてみなよ、って、自分に言い聞かせてもさ、帰ってこないんだよ。返事が。喉元から出したはずの声が、空高く舞い上がる前に潰れて、地面に落ちる。翼をもがれた天使みたいに。私の言葉が、ちゃんと心の中で聞こえているはずなのに、私からの返事はない。今日まで、ずっと。
出したラブレターの返事が、いつまで経っても返ってこないみたいに。
そんな「私」に会いに行くって?そんなばかなことしない。私は別に私に会いたくはない。でも生き返るという条件が、私に会うということだった。住所もわかる。電話番号もわかる。好きな色も、その形さえも。
でもだからって、ベルを鳴らして、私は私に会いに行きたくはない。私は私を裏切った。一つの身体と心の中に繋がっていたはずの「私」という人間を、壊してしまったのは私だ。割れたガラスは、二度と元の形には戻らないことを、現実の世界は知っている。私に会いたくないという気持ち、それから、私が私自身に向ける視線の冷たさ。そんなもの、みんな吹き飛ぶくらいに、一番強い感情を持って、私は言いたい。それは私が、決意したあの瞬間。屋上から飛び降りるあの瞬間の、ほどけた魂のため息が、私自身の中にあるかと思うとゾッとするんだ。目を背けてはいけない現実から、フィルムに焼け付くかのような明るい世界の情景を背にして、心臓を握りしめた瞬間に、吐息が漏れる。息をつく間もなく、私は私に対してなにもできなかった、というあの音律。ある意味、澄み切った音。その中心にそびえ立つ悔しさが、どこかに固まってあるはずなのに、私は結局、足を一歩前に踏み出したんだ。机から落下したガラス皿のスピードが、地面に到着するまでの間、一度もそのスピードを緩めなかった。その、私に対する振り下ろされたナイフの切れ味。肉体を割く力の源が、何よりも深いところにあると感じて怖かった。だから、私は私に対して会いたくないという口実を作るんだ。会って、また、私を殺すんじゃないかと怯えながら。
そうやって、言い訳を立てて、神さまに強く訴えかけるように、目を向けた。そしたら神さまは、まるで話を聞いてなかったみたいに、訴えかけるんだ。何度も、そう、私に会いに行きなさい、って。結局そればかり。
死ぬ前の私に、会って、どうしろっていうんだろうか。少なくとも、私には得がない。これっぽっちも。今となっちゃ、私がどうして死んだのかさえ、どうでもいい。私にはどうでもいい。そんなことは。自分を大事に思ってないわけじゃない。ただちょっと、見苦しいんだよね。自分のことについて考えて、あれこれ悩んでしまうのは、時間がもったいない気がする。そんなつれないこと言わないでさ、前髪を上げて、空を見上げてみなよ、って、自分に言い聞かせてもさ、帰ってこないんだよ。返事が。喉元から出したはずの声が、空高く舞い上がる前に潰れて、地面に落ちる。翼をもがれた天使みたいに。私の言葉が、ちゃんと心の中で聞こえているはずなのに、私からの返事はない。今日まで、ずっと。
出したラブレターの返事が、いつまで経っても返ってこないみたいに。
そんな「私」に会いに行くって?そんなばかなことしない。私は別に私に会いたくはない。でも生き返るという条件が、私に会うということだった。住所もわかる。電話番号もわかる。好きな色も、その形さえも。
でもだからって、ベルを鳴らして、私は私に会いに行きたくはない。私は私を裏切った。一つの身体と心の中に繋がっていたはずの「私」という人間を、壊してしまったのは私だ。割れたガラスは、二度と元の形には戻らないことを、現実の世界は知っている。私に会いたくないという気持ち、それから、私が私自身に向ける視線の冷たさ。そんなもの、みんな吹き飛ぶくらいに、一番強い感情を持って、私は言いたい。それは私が、決意したあの瞬間。屋上から飛び降りるあの瞬間の、ほどけた魂のため息が、私自身の中にあるかと思うとゾッとするんだ。目を背けてはいけない現実から、フィルムに焼け付くかのような明るい世界の情景を背にして、心臓を握りしめた瞬間に、吐息が漏れる。息をつく間もなく、私は私に対してなにもできなかった、というあの音律。ある意味、澄み切った音。その中心にそびえ立つ悔しさが、どこかに固まってあるはずなのに、私は結局、足を一歩前に踏み出したんだ。机から落下したガラス皿のスピードが、地面に到着するまでの間、一度もそのスピードを緩めなかった。その、私に対する振り下ろされたナイフの切れ味。肉体を割く力の源が、何よりも深いところにあると感じて怖かった。だから、私は私に対して会いたくないという口実を作るんだ。会って、また、私を殺すんじゃないかと怯えながら。
そうやって、言い訳を立てて、神さまに強く訴えかけるように、目を向けた。そしたら神さまは、まるで話を聞いてなかったみたいに、訴えかけるんだ。何度も、そう、私に会いに行きなさい、って。結局そればかり。
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