捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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騎士団の洗礼

第1話

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 アリアネスとセレーナが、自分達の部屋の掃除に勤しんでいると、コンコンと部屋の扉をノックする音がした。アリアネスは掃除に夢中になっているようで、音には気付いていない。主人に代わって、セレーナが「はい。」と返事をして部屋のドアを開けた。扉の前にいたのは、まだ幼さが残る栗毛の少年だった。鼻の辺りにはそばかすが散っている。青い大きな瞳が特徴的で、八重歯があるせいか、可愛らしい女の子のようにも見える。しかし、体つきは騎士らしく、鍛え上げられているのか肩幅もある。しかし、今は目を見開いて顔を真っ赤に染めたまま、何も言わずに突っ立っている。青年が何も言わないことに焦れたセレーナが、苛立たしげに眉を上げる。

「何か?」

 セレーナが冷たい声で聞くと、少年は我にかえって騎士の礼をとる。

「はっ、初めましてアリアネス様!じっ、自分は第10支団に今年から入団いたしましたリオンです!アリアネス様を食堂までお連れするよう申し付かりました!」

「そうですか、では…。」

 セレーナが部屋の方を振り返ると、アリアネスは鼻歌を歌いながらほこりまみれになっていた。今は汚れきっている棚の中を持ってきた布だ綺麗に拭きあげている。主人にそんなことをさせる訳にはいかない。自分が掃除を代わって、アリアネスに先に食堂に行ってもらおうと、セレーナが声をかけようとした時、青年が突然セレーナの腕をとった。

「ちょっと!勝手に触らないで!」
「ではまいりましょう!」

 セレーナが文句を言うが、青年は緊張していたせいか話を全く聞いておらず、彼女を外に連れ出してしまった。

「セレーナ、どうかしら?これで少しは綺麗になったんじゃないの?ねぇ、聞こえてるの?……あら?」

 アリアネスがセレーナがいないことに気づいたのは、部屋の掃除がひと段落したころだった。


「ちょっと、離してください!」
「あっ、申し訳ありません!」

 人の話を聞かず、ぐんぐんと先に進んでいく青年に食堂まで連れてこられてしまったセレーナが怒りの声を上げる。

「何を勝手に!」
「すっすいません!こんなにもきれいなご婦人を見るのは初めてで緊張してしまいました。さすが伯爵令嬢のアリアネス様です!」
「あなた…。」

 何を勘違いしているのと続けようとすると、「何を食堂で騒いでいる!」とルイが近づいてきた。

「ルイ副支団長!アリアネス様をお連れしたのですが、強引に連れてきてしまいまして。それで謝罪をしていたところです。」
「アリアネス様?」

 ルイが青年の前にいるセレーナを見て目を丸くする。

「お前にはこいつがアリアネス様に見えたのか?」

 ルイが問いかけると、「はい!もうひとり部屋にいましたが、ほこりだらけになって部屋を掃除しておりました。おそらくあれが、使用人のセレーナ様になられるんですよね?あまり顔が見えなかったのでどんな方だったかは分かりませんが……。」

 青年の言葉に、ルイは無言になって下を向いた後、耐えられないとでもいうように突然大声で笑い出した。

「あーはっはっはっ!セレーナよ!お前の大事なお嬢様は一介の使用人と間違われたようだぞ。美しさだけが取り柄の女なのに、その見た目も通じないとなれば、もはや何の魅力もない女だな!」

 腹を抱えて笑うルイにつられるように、ほかの団員も笑い出し、食堂は盛大な笑い声に包まれた。

「そっ、そんな!あれがアリアネス様なんて!ではあなたがセレーナ様…?」

 青年が真っ青になっておそるおそる問いかけてくるがセレーナはその質問に返事をすることはなかった。
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