10 / 92
騎士団の洗礼
第1話
しおりを挟む
アリアネスとセレーナが、自分達の部屋の掃除に勤しんでいると、コンコンと部屋の扉をノックする音がした。アリアネスは掃除に夢中になっているようで、音には気付いていない。主人に代わって、セレーナが「はい。」と返事をして部屋のドアを開けた。扉の前にいたのは、まだ幼さが残る栗毛の少年だった。鼻の辺りにはそばかすが散っている。青い大きな瞳が特徴的で、八重歯があるせいか、可愛らしい女の子のようにも見える。しかし、体つきは騎士らしく、鍛え上げられているのか肩幅もある。しかし、今は目を見開いて顔を真っ赤に染めたまま、何も言わずに突っ立っている。青年が何も言わないことに焦れたセレーナが、苛立たしげに眉を上げる。
「何か?」
セレーナが冷たい声で聞くと、少年は我にかえって騎士の礼をとる。
「はっ、初めましてアリアネス様!じっ、自分は第10支団に今年から入団いたしましたリオンです!アリアネス様を食堂までお連れするよう申し付かりました!」
「そうですか、では…。」
セレーナが部屋の方を振り返ると、アリアネスは鼻歌を歌いながらほこりまみれになっていた。今は汚れきっている棚の中を持ってきた布だ綺麗に拭きあげている。主人にそんなことをさせる訳にはいかない。自分が掃除を代わって、アリアネスに先に食堂に行ってもらおうと、セレーナが声をかけようとした時、青年が突然セレーナの腕をとった。
「ちょっと!勝手に触らないで!」
「ではまいりましょう!」
セレーナが文句を言うが、青年は緊張していたせいか話を全く聞いておらず、彼女を外に連れ出してしまった。
「セレーナ、どうかしら?これで少しは綺麗になったんじゃないの?ねぇ、聞こえてるの?……あら?」
アリアネスがセレーナがいないことに気づいたのは、部屋の掃除がひと段落したころだった。
「ちょっと、離してください!」
「あっ、申し訳ありません!」
人の話を聞かず、ぐんぐんと先に進んでいく青年に食堂まで連れてこられてしまったセレーナが怒りの声を上げる。
「何を勝手に!」
「すっすいません!こんなにもきれいなご婦人を見るのは初めてで緊張してしまいました。さすが伯爵令嬢のアリアネス様です!」
「あなた…。」
何を勘違いしているのと続けようとすると、「何を食堂で騒いでいる!」とルイが近づいてきた。
「ルイ副支団長!アリアネス様をお連れしたのですが、強引に連れてきてしまいまして。それで謝罪をしていたところです。」
「アリアネス様?」
ルイが青年の前にいるセレーナを見て目を丸くする。
「お前にはこいつがアリアネス様に見えたのか?」
ルイが問いかけると、「はい!もうひとり部屋にいましたが、ほこりだらけになって部屋を掃除しておりました。おそらくあれが、使用人のセレーナ様になられるんですよね?あまり顔が見えなかったのでどんな方だったかは分かりませんが……。」
青年の言葉に、ルイは無言になって下を向いた後、耐えられないとでもいうように突然大声で笑い出した。
「あーはっはっはっ!セレーナよ!お前の大事なお嬢様は一介の使用人と間違われたようだぞ。美しさだけが取り柄の女なのに、その見た目も通じないとなれば、もはや何の魅力もない女だな!」
腹を抱えて笑うルイにつられるように、ほかの団員も笑い出し、食堂は盛大な笑い声に包まれた。
「そっ、そんな!あれがアリアネス様なんて!ではあなたがセレーナ様…?」
青年が真っ青になっておそるおそる問いかけてくるがセレーナはその質問に返事をすることはなかった。
「何か?」
セレーナが冷たい声で聞くと、少年は我にかえって騎士の礼をとる。
「はっ、初めましてアリアネス様!じっ、自分は第10支団に今年から入団いたしましたリオンです!アリアネス様を食堂までお連れするよう申し付かりました!」
「そうですか、では…。」
セレーナが部屋の方を振り返ると、アリアネスは鼻歌を歌いながらほこりまみれになっていた。今は汚れきっている棚の中を持ってきた布だ綺麗に拭きあげている。主人にそんなことをさせる訳にはいかない。自分が掃除を代わって、アリアネスに先に食堂に行ってもらおうと、セレーナが声をかけようとした時、青年が突然セレーナの腕をとった。
「ちょっと!勝手に触らないで!」
「ではまいりましょう!」
セレーナが文句を言うが、青年は緊張していたせいか話を全く聞いておらず、彼女を外に連れ出してしまった。
「セレーナ、どうかしら?これで少しは綺麗になったんじゃないの?ねぇ、聞こえてるの?……あら?」
アリアネスがセレーナがいないことに気づいたのは、部屋の掃除がひと段落したころだった。
「ちょっと、離してください!」
「あっ、申し訳ありません!」
人の話を聞かず、ぐんぐんと先に進んでいく青年に食堂まで連れてこられてしまったセレーナが怒りの声を上げる。
「何を勝手に!」
「すっすいません!こんなにもきれいなご婦人を見るのは初めてで緊張してしまいました。さすが伯爵令嬢のアリアネス様です!」
「あなた…。」
何を勘違いしているのと続けようとすると、「何を食堂で騒いでいる!」とルイが近づいてきた。
「ルイ副支団長!アリアネス様をお連れしたのですが、強引に連れてきてしまいまして。それで謝罪をしていたところです。」
「アリアネス様?」
ルイが青年の前にいるセレーナを見て目を丸くする。
「お前にはこいつがアリアネス様に見えたのか?」
ルイが問いかけると、「はい!もうひとり部屋にいましたが、ほこりだらけになって部屋を掃除しておりました。おそらくあれが、使用人のセレーナ様になられるんですよね?あまり顔が見えなかったのでどんな方だったかは分かりませんが……。」
青年の言葉に、ルイは無言になって下を向いた後、耐えられないとでもいうように突然大声で笑い出した。
「あーはっはっはっ!セレーナよ!お前の大事なお嬢様は一介の使用人と間違われたようだぞ。美しさだけが取り柄の女なのに、その見た目も通じないとなれば、もはや何の魅力もない女だな!」
腹を抱えて笑うルイにつられるように、ほかの団員も笑い出し、食堂は盛大な笑い声に包まれた。
「そっ、そんな!あれがアリアネス様なんて!ではあなたがセレーナ様…?」
青年が真っ青になっておそるおそる問いかけてくるがセレーナはその質問に返事をすることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる