36 / 92
嵐
第9話
しおりを挟む
「お嬢様、衣服を入れたカバンはこちらです。」
「ありがとう、セレーナ。もう下がっても大丈夫よ。明日からまたよろしくね。」
「もったいないお言葉です。お嬢様も他国に行くからといってあまり羽目を外されないよう。イグニス様とモリアン様にしっかり目を光らせておくように言われておりますので。」
「…。」
「ご返事を。」
「…わかったわ。」
「それでは失礼いたします。」
礼をして、セレーナはアリアネスの部屋を出る。マゴテリアに行くことが決まり、荷物などを取りに行くため、セレーナととアリアネスは一度屋敷に戻った。
アリアネスの父でたるイグニスと母のモリアンには任務の全容については話せないため、騎士団として他国の視察に行くということになっている。それも、オルドネアとの友好国である小さな国にだ。
「モリアン様に本当のことを言ったら倒れてしまわれるかもしれませんし…。」
これから戦争する国に行くことなど許されるはずがない。
(でもアリアネス様の、命は必ず守ってみせる。)
アリアネスがさらわれてしまった時、セレーナは心臓が止まるかと思った。ラシードがいるから心配ないだろうと思っていたのがいけなかった。
「やっぱりお嬢様を守るのは私しかいない…。」
小さい頃からずっと一緒にいた。今後もそれは変わらない。あのお嬢様のためなら命を失ってもかまわないのだ。
どこで生まれたかも分からない自分。生きていくために何でもしてきた自分を見つけて助けてくれたアリアネスだった。
「男は役に立たない…。私がやるんだ。」
部屋に隠してある武器の手入れを念入りにして寝ようと思い、自室のドアを開ける。
「あ!セレーナさん、おかえりさなさい!」
勢いよく扉を閉める。今、見たくもない人間が自室の窓枠に座っていたような気がする。
「…気のせいね。」
もう一度開ける。
「セレーナさん、閉めるなんてひどいです!」
「なんで私の部屋にいる!」
大きな声を出してしまい、慌てて部屋に入り、ドアを閉める。部屋にいたのはニコニコと笑っているロヴェルだった。
「だってセレーナさん、俺と全然話してくれないから。マゴテリアに行く前に加護を与えないといけないのに、目も合わせてくれないし。」
「それは…。」
思わずうつむいてしまう。アリアネスたちにはばれてしまったが、セレーナは実は妖精が大好きなのだ。まだ路上で生活していた時に拾った妖精に関する絵本を見て、その力と美しさに魅了されてしまった。
ロヴェルが妖精だということが分かって、憧れる気持ちもある。しかし、アリアネスが罵倒されたきっかけを作った男であるという事実から、どちらかと言えば怒りの感情の方が強い。
そんな相反する気持ちが整理できず、結局ロヴェルとまともに話をせずにマゴテリア出発前日になってしまっていた。
しかし、アリアネスをマゴテリアで守るためには妖精の加護は必須だ。
「申し訳ありませんでした。」
セレーナはロヴェルに向かって頭を下げる。
「え?そんな謝らないでくださいよ!俺はそんなつもりじゃ。」
「いえ、私が浅はかでした。お嬢様を守るためにはあなたと協力しないといけないのに。」
「またアリアネス様かー。」
ロヴェルが溜息をつく。
「何か問題が?」
ロヴェルに聞くと「いや、なんでもないです」と答えてきた。
「?」
「無防備に首かしげるのやめてください…。」
ロヴェルがくぅと身悶えしているが訳が分からない。
「とりあえず、今日私の部屋に来たのは加護を与えてくださるためということでよろしいのですか?」
「あ、はい。そうですよ。」
「でしたら早めにお願いします。私も準備がございますので。」
椅子に座りながら言うと、ロヴェルが「え!いいですか?」と身を乗り出して聞いてきた。
「え、えぇ。いつでも構いません。」
あまりの勢いに少し引いてしまったが了承する。
「じゃあいますぐ!!」
ぴょんと窓枠から降りて、ロヴェルが近づいてくる。「立ってもらえますか?」と言われたのでその通りにした。
(妖精が近くに!?)
顔は無表情を保っているが、動悸が激しくなり、緊張してしまう。
「セレーナさん、緊張してますか?大丈夫です、俺にまかせてください。」
「え?ひゃ!!」
突然ロヴェルに腰を抱かれて引き寄せられた。
「それじゃあ…。」
ロヴェルの顔がどんどん近づいてくる。
「え?は!?」
混乱して口から変な声が出る。じたばたと暴れていると「暴れないで…。」と耳元で囁かれた。
「加護を与えるにはキスしないとダメなんですよ。さぁ、リラックスして…。」
「あ、あ!くううう!やめろぉ!」
「ぎゃ!」
緊張がマックスまで達してしまい、ロヴェルの頬を殴ってしまった。
「痛い!ひどいです、セレーナさん!」
「うっ、うるさい!キスするなら別に口じゃなくてもいいはずです!」
「そこに気づいてしまいましたか…。」
あと少しだったのにとロヴェルが悔しそうに言っているのが聞こえたので睨み付けると「ごめんなさい」と謝ってきた。
「それじゃあ手にキスなら許してくれますか?」
地面に座り込んだロヴェルが上目使いで聞いてくるので「まぁ、手なら…。」と了承する。すると優しく右手を握られ、片膝をついたロヴェルがその甲にキスをした。
「セレーナ。俺の加護をあなたに。俺は生涯あなたとともに生き、あなたとあなたに関わるものを守ると誓う。」
その言葉を聞いた瞬間、体に暖かい何かが流れ込んできたような気がしたが、その感覚はすぐに掻き消えた。手の甲から唇を話したロヴェルがこちらを向いてにこっと笑う。
「セレーナさん、これで俺はあなたのために力を振るうことができます。俺、頑張りますから。」
「えぇ、お嬢様を守るためによろしくお願いします。」
頼もしい言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。
「…そういう意味じゃなかったんですけど。でも時間はあるし、俺のこと見てくれるまで頑張るしかないか…。」
ロヴェルが小さな声でぶつぶつと何か言っていたが気にしなかった。
(これでお嬢様を守る準備は万端。)
「それじゃあ明日からよろしくお願いします。」とまだ部屋にいたいと渋るロヴェルを追い出し、早速武器の手入れに取り掛かったのだった。
「ありがとう、セレーナ。もう下がっても大丈夫よ。明日からまたよろしくね。」
「もったいないお言葉です。お嬢様も他国に行くからといってあまり羽目を外されないよう。イグニス様とモリアン様にしっかり目を光らせておくように言われておりますので。」
「…。」
「ご返事を。」
「…わかったわ。」
「それでは失礼いたします。」
礼をして、セレーナはアリアネスの部屋を出る。マゴテリアに行くことが決まり、荷物などを取りに行くため、セレーナととアリアネスは一度屋敷に戻った。
アリアネスの父でたるイグニスと母のモリアンには任務の全容については話せないため、騎士団として他国の視察に行くということになっている。それも、オルドネアとの友好国である小さな国にだ。
「モリアン様に本当のことを言ったら倒れてしまわれるかもしれませんし…。」
これから戦争する国に行くことなど許されるはずがない。
(でもアリアネス様の、命は必ず守ってみせる。)
アリアネスがさらわれてしまった時、セレーナは心臓が止まるかと思った。ラシードがいるから心配ないだろうと思っていたのがいけなかった。
「やっぱりお嬢様を守るのは私しかいない…。」
小さい頃からずっと一緒にいた。今後もそれは変わらない。あのお嬢様のためなら命を失ってもかまわないのだ。
どこで生まれたかも分からない自分。生きていくために何でもしてきた自分を見つけて助けてくれたアリアネスだった。
「男は役に立たない…。私がやるんだ。」
部屋に隠してある武器の手入れを念入りにして寝ようと思い、自室のドアを開ける。
「あ!セレーナさん、おかえりさなさい!」
勢いよく扉を閉める。今、見たくもない人間が自室の窓枠に座っていたような気がする。
「…気のせいね。」
もう一度開ける。
「セレーナさん、閉めるなんてひどいです!」
「なんで私の部屋にいる!」
大きな声を出してしまい、慌てて部屋に入り、ドアを閉める。部屋にいたのはニコニコと笑っているロヴェルだった。
「だってセレーナさん、俺と全然話してくれないから。マゴテリアに行く前に加護を与えないといけないのに、目も合わせてくれないし。」
「それは…。」
思わずうつむいてしまう。アリアネスたちにはばれてしまったが、セレーナは実は妖精が大好きなのだ。まだ路上で生活していた時に拾った妖精に関する絵本を見て、その力と美しさに魅了されてしまった。
ロヴェルが妖精だということが分かって、憧れる気持ちもある。しかし、アリアネスが罵倒されたきっかけを作った男であるという事実から、どちらかと言えば怒りの感情の方が強い。
そんな相反する気持ちが整理できず、結局ロヴェルとまともに話をせずにマゴテリア出発前日になってしまっていた。
しかし、アリアネスをマゴテリアで守るためには妖精の加護は必須だ。
「申し訳ありませんでした。」
セレーナはロヴェルに向かって頭を下げる。
「え?そんな謝らないでくださいよ!俺はそんなつもりじゃ。」
「いえ、私が浅はかでした。お嬢様を守るためにはあなたと協力しないといけないのに。」
「またアリアネス様かー。」
ロヴェルが溜息をつく。
「何か問題が?」
ロヴェルに聞くと「いや、なんでもないです」と答えてきた。
「?」
「無防備に首かしげるのやめてください…。」
ロヴェルがくぅと身悶えしているが訳が分からない。
「とりあえず、今日私の部屋に来たのは加護を与えてくださるためということでよろしいのですか?」
「あ、はい。そうですよ。」
「でしたら早めにお願いします。私も準備がございますので。」
椅子に座りながら言うと、ロヴェルが「え!いいですか?」と身を乗り出して聞いてきた。
「え、えぇ。いつでも構いません。」
あまりの勢いに少し引いてしまったが了承する。
「じゃあいますぐ!!」
ぴょんと窓枠から降りて、ロヴェルが近づいてくる。「立ってもらえますか?」と言われたのでその通りにした。
(妖精が近くに!?)
顔は無表情を保っているが、動悸が激しくなり、緊張してしまう。
「セレーナさん、緊張してますか?大丈夫です、俺にまかせてください。」
「え?ひゃ!!」
突然ロヴェルに腰を抱かれて引き寄せられた。
「それじゃあ…。」
ロヴェルの顔がどんどん近づいてくる。
「え?は!?」
混乱して口から変な声が出る。じたばたと暴れていると「暴れないで…。」と耳元で囁かれた。
「加護を与えるにはキスしないとダメなんですよ。さぁ、リラックスして…。」
「あ、あ!くううう!やめろぉ!」
「ぎゃ!」
緊張がマックスまで達してしまい、ロヴェルの頬を殴ってしまった。
「痛い!ひどいです、セレーナさん!」
「うっ、うるさい!キスするなら別に口じゃなくてもいいはずです!」
「そこに気づいてしまいましたか…。」
あと少しだったのにとロヴェルが悔しそうに言っているのが聞こえたので睨み付けると「ごめんなさい」と謝ってきた。
「それじゃあ手にキスなら許してくれますか?」
地面に座り込んだロヴェルが上目使いで聞いてくるので「まぁ、手なら…。」と了承する。すると優しく右手を握られ、片膝をついたロヴェルがその甲にキスをした。
「セレーナ。俺の加護をあなたに。俺は生涯あなたとともに生き、あなたとあなたに関わるものを守ると誓う。」
その言葉を聞いた瞬間、体に暖かい何かが流れ込んできたような気がしたが、その感覚はすぐに掻き消えた。手の甲から唇を話したロヴェルがこちらを向いてにこっと笑う。
「セレーナさん、これで俺はあなたのために力を振るうことができます。俺、頑張りますから。」
「えぇ、お嬢様を守るためによろしくお願いします。」
頼もしい言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。
「…そういう意味じゃなかったんですけど。でも時間はあるし、俺のこと見てくれるまで頑張るしかないか…。」
ロヴェルが小さな声でぶつぶつと何か言っていたが気にしなかった。
(これでお嬢様を守る準備は万端。)
「それじゃあ明日からよろしくお願いします。」とまだ部屋にいたいと渋るロヴェルを追い出し、早速武器の手入れに取り掛かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない
春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」
それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。
「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」
父親から強い口調で詰られたエルリカ。
普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。
けれどエルリカは違った。
「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」
そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。
以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。
ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。
おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる