捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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マゴテリアへ

第1話

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「…。」

「…。」

「…。」

「いやー、申し訳ないです。俺のせいで。」

「…黙れ。」

「すいません…。」

 ロヴェルの呑気な話ぶりに、キウラが怒りを堪えた表情で睨みつける。


「おい、うるせーぞ、奴隷ども!黙っとけ!」

 前方から男のしゃがれた声が聞こえる。

(どうしてこんなことになったのかしら…。)

 アリアネスは捕えられた荷馬車の中でで深いため息をついた。






 3日前にオルドネアを出発したアリアネス一行。マゴテリアには人目のない森を抜けて侵入し、無事に国境を越えて、最初の街である「スインドーラ」を目指していた。
 そして2日目の夜、森で野宿をしていた時だった。ロヴェルが突然「果物が食べたい」と言い出したのだ。野営に慣れているキウラは「国境近くとは言え、敵国に入ったんだからうろちょろするな。」と指示したのだが、どうしても我慢できなかったのか、ロヴェルはちょっと目を話した隙にいなくなってしまったのだ。そして、しばらくしても戻ってこない。しょうがないので周辺を全員で探していた時。




「おい、ロヴェル!一体何して!」

「うわーん!キウラさーん!」

「お!女がたくさんいるじゃねーか!こりゃラッキーだな。」



 山賊に捕まっていた。


 下品な声で笑う男にイラついたキウラがその横っ面をぶん殴り、アリアネスたちも加勢をして10人ほどいる山賊全員を倒そうとしたのだが、おびえた山賊の1人が、荷馬車中にすでに捕えられていたと思われる女性を引きずってきて、刃物を突きつけたのだ。

「おとなしくしねーと、こいつ殺すぞ!」と脅され、アリアネス達は仕方なく投降したのだ。

「ロヴェル、あなたどうして妖精の力を使わなかったの?」

 アリアネスが小声で聞くと、ロヴェルが「俺、記憶消したり、意識を奪ったりするの苦手なんですよ。全員殺してもよかったらなら話は別ですけど」としょんぼりしている。

「役立たずめ…。」

「そんな…!でも俺攻撃とかそっち系は得意です!」

「今は必要ないですね、役立たたずめ。」

「ひどい…。」

 何を言ってもロヴェルを攻めるセレーナに「それぐらいでやめときない」とアリアネスが声をかける。

「それにしてもこの子、大丈夫なのかしら?」

「ただ眠ってるように思うが…。」

 アリアネスとキウラが心配そうに同じように縄で縛られている女性を見る。それは先ほど刃物を突き付けられた女性で、横になってすーすーと小さな寝息をたてている。

「…こんな状況で寝れるなんてちょっと変わってるな。」

 キウラの言葉にアリアネスも同意した。

「えぇ、そうね…。でも見た目は普通のお嬢さんみたいね。」

(10代後半ぐらいかしら。)

 アリアネスは眠り続ける女性を観察する。栗色のウェーブがかかっている髪を腰のあたりまで伸ばしている。頬にはそばかすが浮いており、健康的な印象を受ける。服装は動きやすい木綿のドレスで、おそらく農民の娘だと推測できた。

(こんは普通の子が山賊に捕まるなんて運がなかったのね。可哀想に。必ず助けてあげるわ。)

 アリアネスが考えていると、荷馬車がガタンと止まった。

「どこかに着いたようだな。」

 キウラが言うと同時に、荷馬車の中を隠していた布がめくられ、男たちが入ってきた。

「よぉ、お嬢さん方。着いたぜ、降りな。」

 一番端に座っていたセレーナが地面に降りようとすると、男のうちの1人が手を差し出してくる。

(あら?)

 セレーナはその手をとることはなかったが、アリアネスは違和感を感じた。しかし「早く降りろ!」と言われ急かされたので思考を終わらせる。

 アリアネス達が連れてこられたのは山賊のアジトのようだった。小さな山1つを自分たちで整備し、利用しているようだ。

「すごい…まるで秘密基地ね。」

 アリアネスが思わず言葉をこぼすと、男の1人が「そうだろ!そうだろ!頑張ったんだよ、俺たち!」と興奮気味に話しかけてきた。

「お頭に言われてさ!朝から晩まで働いたんだぜ!」

「そうなの…、あなたお名前は?」

「俺か?俺はセンドリューだ!」

 にこっと笑う男にアリアネスが「よろしくお願いしますわ」と返そうとすると「何奴隷と話してるんだ馬鹿野郎!」とセンドリューが別の男に殴られた。

「いてぇ!何するんすか!」

 センドリューが涙目で抗議すると「お前が余計な話べらべら話すからだ!」と怒鳴られる。

「いいか、お嬢さん。命が惜しかったら詮索するような真似はやめるんだな。」

 アリアネスへの言葉にセレーナの怒りゲージがふつふつと貯まっていることに気づいたアリアネスは視線で「我慢しなさい」と合図する。

「よーし、ここだ。」 

 随分と上までのぼらされて連れてこられたのは、何とも豪華な部屋だった。棚には金や銀でできた器や宝飾品が多く並べられ、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。

「…随分と儲かってるな。」

 キウラがぼそりとつぶやくと「勝手に喋るな!」と怒鳴られた。

「あなた先ほどからうるさいんですよ。」

 とうとう堪忍袋の緒が切れたのかセレーナが男を睨み付ける。

「あ、なんだと?お前、痛い目にあいたいのか?」

 縛っていることに油断したのか、男がにやにやと笑いながらセレーナに近づく。

「なぁ、お前…。」

「セレーナさんに触るな!」

「ぎゃああ!」

 セレーナが隠していたナイフですでに縄を切っていたのを知っていたアリアネスは、ここからどのように脱出しようか考えていた。しかし、突然男の頭髪が燃え出したことに驚き、飛び退いてしまった。

「何をしたロヴェル!」

 セレーナと同じくすでに縄を切っていたキウラがロヴェルを問い詰める。

「ちょっと力を使っただけです!あの野郎、俺のセレーナさんに触ろうとしやがって!」

「いつから私がお前のものになった!」

セレーナが赤くなって怒鳴り散らす。 

「ちょっとみんな、落ち着きなさい!」

 アリアネスが騒ぐ全員を落ち着かせようと声をかけた時。






「そうだ、一体全体何の騒ぎだい?」

アリアネスが急いで振り返ると、そこにいたのは深い緑の髪と瞳を持つ長身の男だった。軍服のような服を着ていて、体の線は細い。山賊というよりは貴族のような見た目の男だった。

「…どちら様かしら。」 

 アリアネスが警戒しながら尋ねると、男が無言で見つめてきたので居心地が悪くなる。アリアネスの観察を終わらせたのか、男がにっこりと笑う。

「僕の名前はザガルード、山賊の頭領だよ。魅力的なお嬢さん。」

「え?ひゃ!」

 ザガルードは一瞬でアリアネスの傍までより、その体を引き寄せた。

「随分ときれいだな。意思の強そうなところなんて特にタイプだ。僕のお嫁さんにならないかい?そしたらマゴテリアの王女にしてあげるよ?」

「え?」

 アリアネスはぽかんと口を開く。セレーナ達も話について行けず、アリアネスと同じように口を開けて茫然としていた。
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