捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

文字の大きさ
72 / 92
アリシア

第7話

しおりを挟む
「おめでとうございます!」

「おめでとう!」

 アリシアは階段の上から自分たちを祝福してくれている招待客に向かって優雅に手を振っていた。先ほど始まったアリシアとリィルの婚約パーティーには、マゴテリア国内の有名貴族など多くの人が集まっている。そんな彼らにアリシアとリィルは挨拶をして回らなければならない。

 リィルに手を引かれながらゆっくりと階段を降りるアリシア。それを羨ましそうに見ている人もいれば、忌々しそうに鋭い視線を向けてくるものもいた。恐らくリィルに恋をしている女性たちであろう。人によってはすれ違いざまにあからさまな舌打ちをしてくる女性もいて、アリシアは小さくため息をついた。

「アリシア…。」

 それを見てリィルが辛そうな顔をするので、アリシアは満面の笑みを浮かべて見せた。

「大丈夫よ、リィル。さぁ、またまだ挨拶回りが残っているわ。頑張りましょうね。」

「…すまない。」

「…いいのよ、リィル。」

 アリシアはリィルが自分以外の女性に手を出していたことを知っている。この容姿と凄まじい剣の実力を持つリィルは小さい頃から女性にモテていた。英雄色を好むというし、他の女性と関係を持つことは貴族にはよくあることだ。それに、結婚したら他の女性は全員切ると約束してくれた。

「一番愛しているのはアリシアだ。」

 そう言ってリィルはアリシアを抱きしめてくれた。

 一番ならいい。他の女性に目移りしても。自分を一番に思ってくれるのなら。






(あら?一番なんてもので満足しているの?私はじゃないといやよ。君が一番だなんて言葉で丸め込まれるなんて絶対に許さないわ!)


 心のどこかでそんな声が聞こえてくる。

 でも仕方ない。アリシアにはなんの力もない。貴族の娘ではあるものの、リィルの家よりも格は劣る。美しい容姿はしているが、所詮女は男を飾るアクセサリーにすぎない。男を立てるためには、女が我慢して尽くし続けるしかないのだ。




 それが女の役目だから。







(あらあら!そんな役目誰が決めたのかしら?私は人から決められた役目なんか真っ平ごめんよ!私は強くなるの。男なんかにも負けないほど強くなって、あの方を!)



「アリシア?」

「え?あ、ごめんなさいリィル。少し呆けていたわ。」

「疲れたか?なら少し休む?」

「いえ、大丈夫。」

 リィルの手を握って歩き出そうとした時。






「失礼。美しきアリシア様。どうかご挨拶をさせていただいてもよろしいですか?」



「えぇ、もちろんですわ。」

 後ろから声をかけられ、アリシアがリィルとともに振り返る。

「お初にお目にかかります、アリシア様。わたくし、この国の宝石商をやっておりますライラックと申します。どうかお見知り置きを。」

 アリシアの前で跪き、手を取ってキスをする男。金色の肩まである髪をハーフアップにしていて、耳にはたくさんの宝石がついたピアスを付けている。そして目元を隠すように顔には花の刺繍が施されたマスクをつけていた。

「…えぇ、こちらこそ。」

 アリシアはなんとか答える。会ったこともない、見たこともない人のはずなのに。



 青い瞳に胸が高鳴ってしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない

春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」 それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。 「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」 父親から強い口調で詰られたエルリカ。 普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。 けれどエルリカは違った。 「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」 そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。 以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。 ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。 おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...