落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

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第一部

第5話

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 自宅に帰りついたのは午前0時を少し回った頃。職場に乗り換えなしでいけるこの部屋を自分はとても気に入っている。ワンルームではあるが、部屋は広めで、セミダブルのベッドを置いてもそんなに窮屈な感じはしない。
 シンプルな部屋のほうが大人の男として格好いいのだろうとは思うが、変なカエルの置物やミニチュアのバイクなどをガチャガチャで見かけると買ってきて飾ってしまう。いつまでたっても大人になりきれない自分に苦笑してしまう。

 「あぁー、今日は何だか疲れた!」

  手早くシャワーを浴びて、勢いよくベッドに倒れ込んだ。こだわりのマットレスは自分の体を優しく受け止めてくれる。その柔らかさにほんの少しだけ心が癒された。

「まさか、彼に会うなんて…。」

 思い出すのは先ほど再会した瀬尾くんの同僚のこと。三目君は庇ってくれたが、同僚君の言う通り、なにも言わずに辞めてしまった自分は本当に無責任な人間だ。引き継ぎもほとんど間に合わず、逃げるようにいなくなったため、自分の尻拭いをした人は大変だっただろう。
 しかし、自分がそれほどに追い詰められていたことも確かだった。瀬尾くんたちの言葉が引き金になったのは間違いないが、正直心身ともに限界だったのだ。少しでも無理をすればすぐに立てなくなる脆い身体。やる気だけが空回りして、周りからも白い目で見られる。一、二年目の若手社員にも営業成績を抜かれるようになり、プライドもなにもかもへし折られてしまったのだ。

 「なーんでこんなことになったのかなぁ。」

 努力だけは自分を裏切らないと思っていた。頑張り続けさえすれば、きっと幸せになると思っていた。でもそんなのはお話の中だけ。現実はもっと厳しくて、冷たい。それでも歯をくいしばって
一人で立ち続けなければいけないのだ。

「大丈夫。まだ頑張れる…。」


 だんだんとまぶたが落ちてくる。とりあえず同僚君とはもう会うこともない。連絡をするつもりもないのだから。そのまま襲ってくる睡魔に身を任せた。
 

 「げほっげほっ!!」

 大きな咳が部屋中に響く。お酒を飲んだ翌朝起きてみると、何だか熱っぽいし、おかしな咳も出た。これはヤバイと思い、急いで風邪薬を飲んでみたものの時既に遅し。日曜日には高熱が出てしまい、月曜日の今日も熱が下がらずにお休みをいただくことになったのだ。朝方、三目君にそのむねを連絡すると「僕のせいです!」と泣き声で言われた。確かに金曜日のことが関係しているだろうが、それは三目君のせいではなく、三目君を襲おうとしたあの男が原因なので気にしないようにと念を押した。仕事帰りに何か買っていきます!と三目君が申し出てくれたが、すでに自分で買ってあるので丁重にお断りしておいた。

「あぁ、やばいなぁこれは。」

 しかし、夜になるとさらに熱が上がってきた。土曜日に行ったかかりつけの病院の薬を飲んでいるが、効いてくる気配はない。熱が高いせいか、頭がボーッとしてきて、思考がうまくまとまらない。苦しいということしか考えられない。こんな時に誰か側にいてくれたら。大丈夫?と優しく労ってくれる誰かが側にいてくれたら、こんなに心強いことはないのに。

「せお…く…ん。」

 そんな時、枕元に置いていたスマートフォンが鳴った。のろのろと起き上がって通話ボタンを押す。



『もしもし?山口さんですか?』
「せお…くん?」

 電話の向こうから聞こえてきたのは恋い焦がれている相手。電話など来るはずもない相手だ。

『そうです、瀬尾です。今大丈夫ですか?』

 そう、彼から電話など来るはずかない。彼が自分を気にかけることなどありはしない。だからこれは夢だ。熱に浮かされて見ている幻なのだ。そうならば、何を言っても構わない。自分の好きにしていいはずた。

「あー、瀬尾君。ずっと瀬尾君の声が聞きたかったんだ。」
『…いきなりどうしたんですか?何かあったんですか?』
「会いたいよ瀬尾君。君と一緒にいたい。」

『…逃げたのはあなただ。』


 瀬尾君の拗ねたような声が可愛らしくてクスクスと笑ってしまう。

「逃げてなんてない。俺はずっと君の側にいるよ。」
『嘘だ…。突然いなくなったじゃないですか。』
「いるよ。」
『どこにいるんですか?』

 子供のように必死な声に笑いが込み上げてくる。



「待ってるから。諦めちゃうまでに迎えに来て…。」


 そのまま返事を聞かずに電話を切る。


「あぁー、いい夢だなぁ。」


 最近頑張ったご褒美だろうか。こんなご褒美があるなら、仕事も頑張れる。早く復帰するためにも寝てしまおう。先ほどの余韻に浸りながらゆっくりと目を閉じた。

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