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第一部
第17話
「あっ、忘れてた。」
勢いよく車から飛び出して歩き出したはいいものの、自分が山頂の暗い駐車場にいることをすっかり忘れてしまっていた。周りを見渡してみるも、車数台があるだけだ。しかし、瀬尾君の車に戻るつもりはない。どうしたものかと途方にくれていると、少し行った所に案内看板があることに気づいた。小走りで近付いて見てみると、どうやら少し歩いた所に展望台があるようだ。
「よし、見よう。」
今はこの状況を打開する術はない。それならば少しぐらい遊んでやろうと大股で歩き出す。展望台までの階段は明かりで照らされていて、上からカップルと思われる人たちが降りてくる。もしかしたら夜景スポットなのかもしれない。そんな場所に一人で向かっている寂しさと、夜景を見るのが楽しみな気持ち半々を抱えて、何とか階段を登りきる。
「うわぁ、すごい…。」
開けた場所に出ると、目の前に美しい夜景が広がっていた。町のほのかな明かりと、工場地帯の激しい明かり。車のランプが連なっている光景は本当に美しくて、口を開けたまま見いってしまった。展望台の縁ギリギリまで身体を乗り出して風景を眺める。
「こんな綺麗な夜景、初めて見たかも。」
まるで心が洗われるようだった。先ほどの瀬尾君から受けたショックで傷ついた心が少しずつ癒されていく。
そう、失恋なんて誰でもすることだ。そこから、みんな立ち直っていく。そうやって大人になっていくのだ。
「俺は人より恋愛経験が少ない分、ショックも大きかっただけだよな。」
自分に言い聞かせるように呟く。まだ冬ではないと言えども、山頂だからから少しだけ冷える。身体がブルリと震えた。
「瀬尾君、追ってこないな…。」
悲しいけれどこれが現実だ。きっと、彼は自分の捨て台詞で目が覚めたのだろう。自分が本当に求めているものは、βではなくて生粋のΩであるということを。そして自分を置いて、運命のつがいである人を迎えに行ったのだ。
「三目君なんだろうなぁ。」
「僕がどうかしたんですか、山口さん?」
「うひゃ!!」
突然隣から声をかけられて飛び上がる。慌てて隣を見ると、だいぶ近い距離で三目君が自分と同じように夜景を眺めていた。会社で見るのとは違うフランクな格好の三目君は、さらに若く見える。ネイビーのノーカラーシャツにブラウンのチノパン。黒の黒縁眼鏡にスニーカーという出で立ちだ。
「な、なんで三目君がこんなところに!?」
「それはこっちの台詞ですよ。一人で夜景見てる人がいるなぁって思ってたら山口さんだし、近寄っても全然気付いてくれないし、あげくのはてに僕の名前を出してくるし。何を一人でたそがれてるんですか?」
三目君がグイグイと迫ってくる。美しい顔面を至近距離で見るのは心臓に悪い。思わず一歩後ろに下がってしまう。
「うわっ!」
「あ、山口さん!!」
段差があったことに気付かず、足を踏み外してしまった。頭から後ろに倒れそうになる。三目君が手を伸ばして助けようとしてくれるが、恐らく間に合わない。衝撃に備えて身体を固くした。
「大丈夫ですか?怪我はなかったですか?」
身体が温かい何かに包まれる。ぎゅっと閉じていた目を開くと、自分を誰かが受け止めてくれていた。ありがとうございますとお礼を言って慌てて振り替えると、そこには自分よりも一回り以上身体の大きい男性が立っていた。身長もさることながら、身体の筋肉が桁外れだ。柔道かラグビーでもしてそうな身体つきだが、全身に筋肉がついていて男から見てもバランスのとれたかっこいい体型だ。しかし、いかつい身体の割には、顔立ちはたれ目で、優しげな風貌だ。顔面が整っているのは間違いないが、柔和な顔立ちのために、フレンドリーな印象が勝つ。ゆっくりとしたしゃべり方も好印象だった。
「あぁ、山口さん良かった!誠也、ありがとう!」
三目君が小走りで駆け寄ってきた。どうやら自分を助けてくれた男は三目君の知り合いのようだ。三目君は彼を褒めるように、肩を叩いている。
「山口さん、こいつは僕の幼なじみの桝田誠也(ますだ・せいや)っていいます。誠也、この人は僕の上司の山口さん。」
「あなたが山口さんですか。海里から話だけは聞いてました。海里がいつもお世話になってます。」
にっこりと笑って桝田君が頭を下げてくる。自分もよろしくと挨拶をして頭を下げた。
「幸尚さん、どこですか!」
すると階段の下から瀬尾君の声が聞こえてきた。階段を上がってきているようでだんだんと声が近くなってくる。今、ここで瀬尾君には会いたくない。夜景で心は少し癒されたと言ってもまだ彼と面と向かって話せるほどの回復はしていないのだから。
「あ、三目君、悪いけど俺はこれで!」
「山口さん、呼ばれてますけど?どこに行くんですか?」
慌ててその場から逃げだそうもするも、三目君に手を掴まれて阻止されてしまった。近くの草むらにでも逃げ込もうとしたが、もうそんな時間はなくなってしまった。
「三目君、俺は!」
事情を説明する時間さえも惜しい。なんとか手を離してくれないかと彼の顔を見る。
「…こっちに。」
「うわぁ!!」
突然今度はもう片方の手を引っ張られた。バランスを崩したかと思ったが、すぐに背後から何者かに抱き締められる。
「申し訳ありませんが、しばらく動かないでいただけますか?海里はこっちに。」
「わかった…。」
気づけば展望台の柵と桝田君との間に挟まれていた。そして、そのすぐ横に三目君が身体を寄せてくる。夜景を楽しむためか、極端に明かりが少ない場所のため、こうやって隠してもらうとすっかり自分の身体は見えなくなる。
「…後でたっぷり事情を聞きますからね。」
三目君の低い声にひゃっ!と小さな悲鳴をあげてしまった。
勢いよく車から飛び出して歩き出したはいいものの、自分が山頂の暗い駐車場にいることをすっかり忘れてしまっていた。周りを見渡してみるも、車数台があるだけだ。しかし、瀬尾君の車に戻るつもりはない。どうしたものかと途方にくれていると、少し行った所に案内看板があることに気づいた。小走りで近付いて見てみると、どうやら少し歩いた所に展望台があるようだ。
「よし、見よう。」
今はこの状況を打開する術はない。それならば少しぐらい遊んでやろうと大股で歩き出す。展望台までの階段は明かりで照らされていて、上からカップルと思われる人たちが降りてくる。もしかしたら夜景スポットなのかもしれない。そんな場所に一人で向かっている寂しさと、夜景を見るのが楽しみな気持ち半々を抱えて、何とか階段を登りきる。
「うわぁ、すごい…。」
開けた場所に出ると、目の前に美しい夜景が広がっていた。町のほのかな明かりと、工場地帯の激しい明かり。車のランプが連なっている光景は本当に美しくて、口を開けたまま見いってしまった。展望台の縁ギリギリまで身体を乗り出して風景を眺める。
「こんな綺麗な夜景、初めて見たかも。」
まるで心が洗われるようだった。先ほどの瀬尾君から受けたショックで傷ついた心が少しずつ癒されていく。
そう、失恋なんて誰でもすることだ。そこから、みんな立ち直っていく。そうやって大人になっていくのだ。
「俺は人より恋愛経験が少ない分、ショックも大きかっただけだよな。」
自分に言い聞かせるように呟く。まだ冬ではないと言えども、山頂だからから少しだけ冷える。身体がブルリと震えた。
「瀬尾君、追ってこないな…。」
悲しいけれどこれが現実だ。きっと、彼は自分の捨て台詞で目が覚めたのだろう。自分が本当に求めているものは、βではなくて生粋のΩであるということを。そして自分を置いて、運命のつがいである人を迎えに行ったのだ。
「三目君なんだろうなぁ。」
「僕がどうかしたんですか、山口さん?」
「うひゃ!!」
突然隣から声をかけられて飛び上がる。慌てて隣を見ると、だいぶ近い距離で三目君が自分と同じように夜景を眺めていた。会社で見るのとは違うフランクな格好の三目君は、さらに若く見える。ネイビーのノーカラーシャツにブラウンのチノパン。黒の黒縁眼鏡にスニーカーという出で立ちだ。
「な、なんで三目君がこんなところに!?」
「それはこっちの台詞ですよ。一人で夜景見てる人がいるなぁって思ってたら山口さんだし、近寄っても全然気付いてくれないし、あげくのはてに僕の名前を出してくるし。何を一人でたそがれてるんですか?」
三目君がグイグイと迫ってくる。美しい顔面を至近距離で見るのは心臓に悪い。思わず一歩後ろに下がってしまう。
「うわっ!」
「あ、山口さん!!」
段差があったことに気付かず、足を踏み外してしまった。頭から後ろに倒れそうになる。三目君が手を伸ばして助けようとしてくれるが、恐らく間に合わない。衝撃に備えて身体を固くした。
「大丈夫ですか?怪我はなかったですか?」
身体が温かい何かに包まれる。ぎゅっと閉じていた目を開くと、自分を誰かが受け止めてくれていた。ありがとうございますとお礼を言って慌てて振り替えると、そこには自分よりも一回り以上身体の大きい男性が立っていた。身長もさることながら、身体の筋肉が桁外れだ。柔道かラグビーでもしてそうな身体つきだが、全身に筋肉がついていて男から見てもバランスのとれたかっこいい体型だ。しかし、いかつい身体の割には、顔立ちはたれ目で、優しげな風貌だ。顔面が整っているのは間違いないが、柔和な顔立ちのために、フレンドリーな印象が勝つ。ゆっくりとしたしゃべり方も好印象だった。
「あぁ、山口さん良かった!誠也、ありがとう!」
三目君が小走りで駆け寄ってきた。どうやら自分を助けてくれた男は三目君の知り合いのようだ。三目君は彼を褒めるように、肩を叩いている。
「山口さん、こいつは僕の幼なじみの桝田誠也(ますだ・せいや)っていいます。誠也、この人は僕の上司の山口さん。」
「あなたが山口さんですか。海里から話だけは聞いてました。海里がいつもお世話になってます。」
にっこりと笑って桝田君が頭を下げてくる。自分もよろしくと挨拶をして頭を下げた。
「幸尚さん、どこですか!」
すると階段の下から瀬尾君の声が聞こえてきた。階段を上がってきているようでだんだんと声が近くなってくる。今、ここで瀬尾君には会いたくない。夜景で心は少し癒されたと言ってもまだ彼と面と向かって話せるほどの回復はしていないのだから。
「あ、三目君、悪いけど俺はこれで!」
「山口さん、呼ばれてますけど?どこに行くんですか?」
慌ててその場から逃げだそうもするも、三目君に手を掴まれて阻止されてしまった。近くの草むらにでも逃げ込もうとしたが、もうそんな時間はなくなってしまった。
「三目君、俺は!」
事情を説明する時間さえも惜しい。なんとか手を離してくれないかと彼の顔を見る。
「…こっちに。」
「うわぁ!!」
突然今度はもう片方の手を引っ張られた。バランスを崩したかと思ったが、すぐに背後から何者かに抱き締められる。
「申し訳ありませんが、しばらく動かないでいただけますか?海里はこっちに。」
「わかった…。」
気づけば展望台の柵と桝田君との間に挟まれていた。そして、そのすぐ横に三目君が身体を寄せてくる。夜景を楽しむためか、極端に明かりが少ない場所のため、こうやって隠してもらうとすっかり自分の身体は見えなくなる。
「…後でたっぷり事情を聞きますからね。」
三目君の低い声にひゃっ!と小さな悲鳴をあげてしまった。
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