落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

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第一部

第22話

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「あ、いや、ちょっとこれは事故で!」

 目を見開いたまま固まった瀬尾君が自分たちを凝視している。このままでは誤解を与えてしまうと思い、急いで三目君の上からどこうとするが、三目君が腰に腕を回してそれを阻止した。


「見て分からないんですか?今せっかく盛り上がってたところなのに邪魔するなんて野暮ですよ?」

「三目君!」


 あることないことを楽しげに話す三目君の口を大慌てでふさぐ。しかし、瀬尾君にはしっかり聞こえていたようで、急に顔色が悪くなり小刻みに震えだした。彼のあまりの顔色の悪さに「瀬尾君?」と声をかけてみるが、彼は黙り込んだままだった。



「三目君、ちょっと待って。」


「・・・山口さんは優しすぎるんですよ。」


 真剣な表情で懇願すると、三目君は大きなため息をつきながらも解放してくれた。立ち上がって、瀬尾君の元へと駆け寄る。

「瀬尾君、気分でも悪いのか?それなら席に戻って少し休もう。お酒、そんなに飲んでるような感じはなかったけど、もしかしたら酔っちゃったのかな?」


 言葉をかけてみるも、やはり瀬尾君はだんまりを決め込んでいる。しかし、手の平に痕が残るほど痛々しいくらに強く握りしめていた。振り払われるかもしれないとは思ったが、その手にそっと自分の手を重ねた。瀬尾君の身体がびくっと跳ねる。

「どうしたんだ?言ってくれないと分からないよ。」


「っ・・・!俺は・・・。」

 瀬尾君が何か話そうと口を開きかけるが、またぎゅっと閉じてしまう。それを何度も何度も繰り返した。彼のこんな姿は見たことがない。こんなにも自信なさげで、今にも泣き出しそうな彼はまるで小さな子供のようにも見える。


「瀬尾君・・・。」


 思わずもっと近づこうとした時。


「はいはい、ストーップ!!だめですよ、こんな典型的な『弱ってるイケメンは可愛い』作戦にひっかかったら!」


「うおっ!」


 突然片腕をとられて後ろに引っ張られてしまう。そしてそのまま三目君の腕の中へと捕まってしまった。三目君は自分の肩にあごを乗せて、瀬尾君を恨めしそうににらみつける。


「全く。これだからαは怖いんですよ。隙あらばつがいを自分のものにしようとしますからね。まぁ、山口さんは瀬尾さんのつがいなんかじゃないですけど。」

 


「…幸尚さんを離せ。」

 

 さっきまでは泣きそうな表情を見せていた瀬尾君の顔がまるで獲物を横取りされた猛獣のように怒りでゆがむ。その態度の違いに唖然としていると三目君が「ほら、やっぱり元気でしょ?」と笑い出した。


「山口さん、あなたはαとかΩに憧れてたかもしれませんけど、僕からしたらβほどうらやましいバースはないですよ。」

 三目君がクスクスと笑いながら予想もしない言葉を口にした。αよりΩよりもβの方が良いなんて。そんなことをΩ本人が思っているなんてそんなことあるはずもないと思っていた。


「そんな・・・、そんな訳・・・。」

「嘘じゃないですよ。僕は本心から言ってるんです。つがいなんてものに捕らわれず、自分で運命の人を見つけようともがくβは本当に綺麗だと思います。容姿が優れてるだけのαやΩなんて、あなたの並々ならない努力に比べたら足下にも及ばないんですよ。」


 三目君の言葉が心にじんわりとしみこんでくる。自分の努力を褒めてもらえることがこんなにうれしいとは。もちろん両親は自分のことを頑張り屋さんだと褒めてくれた。しかし、身内ではない人に言われると格別の嬉しさがこみ上げてくる。


「αやΩの見せかけの美しさや強さに騙されないでください。運命のつがいなんてものも気にしなくて良いんです。人を好きになるのにバースなんて関係ない。αやΩ、βなんて関係なく恋愛して良いはずなんですよ。・・・だから僕だってβのあなたと恋愛できる。」


「三目君・・・。」


 背中にいた三目君が自分の目の前へと移動してくる。そのせいで瀬尾君の姿が隠れてしまった。

 

「っ、幸尚さん!」

 

 瀬尾君の悲鳴のような叫びが聞こえてくるが、視界は三目君でいっぱいで、瀬尾君は見えない。きらきらと輝く髪と瞳。きめ細かいすべすべの肌だけれど、ごつごつしていて男らしさを感じる指が頬を撫でてきた。

 

「山口さん。僕はあなたが好きです。1年目の時に助けてくれた時からずっとあなただけを思っていました。あなたの努力家で一生懸命でかっこよくて、なのにこと恋愛に関しては小学生のような思考になるところが可愛らしくて大好きです。僕は運命のつがいを待つよりも、一人の男としてあなたとお付き合いしたい。」

 

「ひえ・・・。」

 

 彼は本当にあの三目君だろうか。たおやかで、綺麗で、美しい花のように思っていたのに。今、目の前にいる人物は立派な男だった。αに蹂躙されるような、発情期に振り回されるようなか弱い存在ではない。好きな人を手に入れようと必死な雄だった。


「み、三目く・・・ん・・・。」


「あなたが幸せならいいと思っていたのに。αに可愛がられて、愛されて幸せになるならそれでいいって。でもそうじゃないなら、あなたが傷つくなら僕は容赦しません。」

 

「っ!」

 

 とろけるような笑みを自分に向けた三目君が後ろを振り返る。

 

「瀬尾、僕はお前には負けない。」

 

 美しいアルトの声が宣戦布告した。

 
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