43 / 56
第二部
第7話
しおりを挟む
「いや、逃げ出してどうすんだよ俺ぇ。」
瀬尾君に捨て台詞を吐いてそのまま駆け出した自分。全速力で走って息が切れて立ち止まって、そしてすぐに後悔した。
「うあーー!恥ずかしい!思春期の高校生か俺は!」
10歳程年下の男に言われた正論に傷ついて、自分を好いてくれている男に当たり散らす。
「ぎゃーーー!」
穴があったら入りたいが、いかんせん穴がない。絶叫しながらその場にうずくまる自分を見て、通行人たちは「関わり合いになりたくない」とばかりに早足で通り過ぎて行く。
「うぅ…。恥ずかしい。こんなメンタル弱弱男で恥ずかしい。」
体が弱くなったことは仕方ない。でもそれに引きずられてメンタルまで弱くなるのはいただけない。だてに33年間、努力し続けた訳ではない。
「うぅ。このまま家に帰っても何か落ち込みそうだしなぁ。」
「それなら筋トレですよ!!!!山口さん!」
「ひぃ!」
突然肩を激しく叩かれる。体を大きくびくつかせて声の主を振り返ると、そこにはニコニコ顔のジムのインストラクター、朝桐さんが立っていた。
「朝桐さん、どうしてこんなところに?」
「え?ここ、ジムのすぐ前ですよ山口さん!」
「え!?」
慌てて顔を上げると確かに目の前に自分が通っているジムがあった。
「最近山口さん来てくれないなーって思ってた矢先にジムの前でうずくまってるから体調が悪いのかって心配しちゃいました。声をかけようと思って近づいたら、家に帰りたくない、メンタル弱いってブツブツおっしゃってたので!そんな時こそ筋トレですよ!!!!」
「は、はぁ。」
朝桐さんの熱意に少し引き気味になってしまうが、朝桐さんはグイグイと距離を詰めてくる。
「いいですか、山口さん。メンタルが落ちてる時こそ筋トレなんです。筋トレはどんな問題でも解決してくれるんですよ。」
「そ、そうなんですか。」
「そうなんです!さぁ、行きましょう!今日は私がつきっきりでトレーニング指導させてもらいます。体をばちばちに虐め抜いて、健全な精神と肉体を手に入れましょう!!!!」
「えっと、お手柔らかにお願いします…。」
これは断ることができない。曖昧にヘラっと笑いながら、朝桐さんに手を引かれてジムへ入っていったのだった。
「うぅ、体痛い。もう歩けない。動けない。膝ガクガク…。」
「はい、山口さん。お疲れ様でした。今日はばちばちに素晴らしかったですよ!また来る時は私と体を虐めに虐め抜きましょう!!」
自分よりも激しくトレーニングしたはずなのに、元気ピンピンで駆けていく朝桐さんを虚な目で見送った。結局1時間程度、トレーニングに費やしたが、もう体がボロボロになってしまった。
「うぅ…アラサーにこのメニューはキツすぎる…!」
でも朝桐さんの言う通り、何だが心はスッキリしたような気がする。別に何も解決はしていないのだが、先ほどのように答えの出ない問いに頭がグルグルなることはない。
αとΩとβ。確かにαとΩには強い結びつきがあるのかもしれない。けれどβがαやΩを愛してはいけないというルールはないのだ。
「…誰だって好きな人と好きなように恋愛する権利はあるはずだ。」
Ωだからと言って小鳥遊君に命令される言われもない。自分は1人の人間として瀬尾君と三目君を好いているのだ。そこにαもΩも関係ない。そして自分がβであることも。恋心には関係ないことなのだ。
「…さぁーて、シャワーでも浴びるかな。」
やはり筋トレは全てを解決する。1人で何度も頷きながら、タオルを持ってシャワールームへと向かったのだった。
「うわ…すごい着信量。」
筋トレを終えてシャワーを浴び終わったところで、自分のスマートフォンを確認する。すると50件を超える着信があり、驚いてスマホを地面に落としそうになってしまった。
「うわ…、三目君と瀬尾君が半々だ。」
メッセージもとんでもない量が届いていて、やれ「どこにいますか?」だの「連絡ください」だの「今から家に行きます」だの。
「過保護だなぁ、あの子達。」
ロッカールームで着替えながら、なんと返事をしようか考えている間にもスマホに着信があった。名前を確認すると瀬尾君だった。いつもならすぐ電話にでて安心させてやるところだが、何だか意地悪したい気分になってきた。
「…あんな可愛い子が近くにいて、瀬尾君も満更じゃないんじゃないの?」
勝手にそう想像するとむかついてきた。
「えーっと、1人で飲んでるので気にしないでっと。」
それぞれ瀬尾君と三目君にメールを送ってスマホをポケットにねじ込む。
「さぁて!本当に飲みにいくか!」
最近は瀬尾君と三目君が家に来るのであまり外で飲んでいない。久しぶりに行きつけの店に行ってみようと、ルンルンな足取りでジムを出る。
「…。」
「「こんばんは、幸尚さん。」」
ジムの前には、ニコニコ顔の瀬尾君と三目君が仁王立ちで待ち構えていたのだった。
瀬尾君に捨て台詞を吐いてそのまま駆け出した自分。全速力で走って息が切れて立ち止まって、そしてすぐに後悔した。
「うあーー!恥ずかしい!思春期の高校生か俺は!」
10歳程年下の男に言われた正論に傷ついて、自分を好いてくれている男に当たり散らす。
「ぎゃーーー!」
穴があったら入りたいが、いかんせん穴がない。絶叫しながらその場にうずくまる自分を見て、通行人たちは「関わり合いになりたくない」とばかりに早足で通り過ぎて行く。
「うぅ…。恥ずかしい。こんなメンタル弱弱男で恥ずかしい。」
体が弱くなったことは仕方ない。でもそれに引きずられてメンタルまで弱くなるのはいただけない。だてに33年間、努力し続けた訳ではない。
「うぅ。このまま家に帰っても何か落ち込みそうだしなぁ。」
「それなら筋トレですよ!!!!山口さん!」
「ひぃ!」
突然肩を激しく叩かれる。体を大きくびくつかせて声の主を振り返ると、そこにはニコニコ顔のジムのインストラクター、朝桐さんが立っていた。
「朝桐さん、どうしてこんなところに?」
「え?ここ、ジムのすぐ前ですよ山口さん!」
「え!?」
慌てて顔を上げると確かに目の前に自分が通っているジムがあった。
「最近山口さん来てくれないなーって思ってた矢先にジムの前でうずくまってるから体調が悪いのかって心配しちゃいました。声をかけようと思って近づいたら、家に帰りたくない、メンタル弱いってブツブツおっしゃってたので!そんな時こそ筋トレですよ!!!!」
「は、はぁ。」
朝桐さんの熱意に少し引き気味になってしまうが、朝桐さんはグイグイと距離を詰めてくる。
「いいですか、山口さん。メンタルが落ちてる時こそ筋トレなんです。筋トレはどんな問題でも解決してくれるんですよ。」
「そ、そうなんですか。」
「そうなんです!さぁ、行きましょう!今日は私がつきっきりでトレーニング指導させてもらいます。体をばちばちに虐め抜いて、健全な精神と肉体を手に入れましょう!!!!」
「えっと、お手柔らかにお願いします…。」
これは断ることができない。曖昧にヘラっと笑いながら、朝桐さんに手を引かれてジムへ入っていったのだった。
「うぅ、体痛い。もう歩けない。動けない。膝ガクガク…。」
「はい、山口さん。お疲れ様でした。今日はばちばちに素晴らしかったですよ!また来る時は私と体を虐めに虐め抜きましょう!!」
自分よりも激しくトレーニングしたはずなのに、元気ピンピンで駆けていく朝桐さんを虚な目で見送った。結局1時間程度、トレーニングに費やしたが、もう体がボロボロになってしまった。
「うぅ…アラサーにこのメニューはキツすぎる…!」
でも朝桐さんの言う通り、何だが心はスッキリしたような気がする。別に何も解決はしていないのだが、先ほどのように答えの出ない問いに頭がグルグルなることはない。
αとΩとβ。確かにαとΩには強い結びつきがあるのかもしれない。けれどβがαやΩを愛してはいけないというルールはないのだ。
「…誰だって好きな人と好きなように恋愛する権利はあるはずだ。」
Ωだからと言って小鳥遊君に命令される言われもない。自分は1人の人間として瀬尾君と三目君を好いているのだ。そこにαもΩも関係ない。そして自分がβであることも。恋心には関係ないことなのだ。
「…さぁーて、シャワーでも浴びるかな。」
やはり筋トレは全てを解決する。1人で何度も頷きながら、タオルを持ってシャワールームへと向かったのだった。
「うわ…すごい着信量。」
筋トレを終えてシャワーを浴び終わったところで、自分のスマートフォンを確認する。すると50件を超える着信があり、驚いてスマホを地面に落としそうになってしまった。
「うわ…、三目君と瀬尾君が半々だ。」
メッセージもとんでもない量が届いていて、やれ「どこにいますか?」だの「連絡ください」だの「今から家に行きます」だの。
「過保護だなぁ、あの子達。」
ロッカールームで着替えながら、なんと返事をしようか考えている間にもスマホに着信があった。名前を確認すると瀬尾君だった。いつもならすぐ電話にでて安心させてやるところだが、何だか意地悪したい気分になってきた。
「…あんな可愛い子が近くにいて、瀬尾君も満更じゃないんじゃないの?」
勝手にそう想像するとむかついてきた。
「えーっと、1人で飲んでるので気にしないでっと。」
それぞれ瀬尾君と三目君にメールを送ってスマホをポケットにねじ込む。
「さぁて!本当に飲みにいくか!」
最近は瀬尾君と三目君が家に来るのであまり外で飲んでいない。久しぶりに行きつけの店に行ってみようと、ルンルンな足取りでジムを出る。
「…。」
「「こんばんは、幸尚さん。」」
ジムの前には、ニコニコ顔の瀬尾君と三目君が仁王立ちで待ち構えていたのだった。
12
あなたにおすすめの小説
α、β、Ωで結婚したら無敵だった
月田朋
BL
政府の少子化対策のためのお見合いシステム、「マッチングサービス」。α、β、Ωの男三人。
ビッグデータの解析結果によると、三人で結婚すれば相性はバッチリ!!だったら結婚してみよう。恋はその後すればいい。
【登場人物】
鳥飼誠(34歳)α 男性
井岡イオ(31歳)β 男性
淵 流助(21歳)Ω 男性
※結婚後の姓は選択制の世界です。(彼らは別姓を選択しています)
ほたるのうんめい
ruki
BL
長年の『発情期の相手』と言う役目を終えた誠也は、結婚に向けて再び婚活をすることにした。そして新たに入った婚活サイトで出会ったのは、訳がありそうな黒髪美人のオメガだった。
『ほたるのゆめ』の誠也さんのお話です。『ほたるのゆめ』を読んでいなくても楽しめるとは思いますが、そちらも読んでいただけると幸いです。
ちなみに読んでくださるなら
『さかなのみるゆめ』→『ほたるのゆめ』→『ほたるのうんめい』
が分かりやすいかと思います。
君と運命になっていく
やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。
ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。
体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。
マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。
運命の君
沢渡奈々子
BL
【はじめに】このお話はBL(Boy's Love)です。他の投稿作品(NL)から来られた方はご注意くださいませ。【注意】
【オメガバース】設定捏造&造語あり注意。
ごくごく普通のベータである蒼は、ある日超美形のアルファ・鳴海から友達になってほしいと言われ快諾する。それからしばらくして、蒼はオメガと間違えられてアルファの小野塚に襲われるが……。
政略結婚制度に怒っています
河野彰
BL
「政略結婚法」が施行されて十余年。政治家や俳優、高額納税者などの著名人は三十歳までに結婚をしなければならないという法律だ。
主人公末永遥(すえながはるか)はごく一般家庭に育った地味なサラリーマンだったが、ある日一通の通知が政府から届く。それは、高額納税者である久堂清継(くどうきよつぐ)との婚姻が成立したという決定通知だった。
男同士で結婚!? と驚く遥。間違いかと思い、すぐに異議申し立てをしに市役所へ行ったが、そこで事実だと告げられてしまう。トボトボと帰路につく遥の前に清継が現れて……。
ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー
紗々
BL
俺は小さな頃からずっとずっと、そうちゃんのことが大好きだった───。
立本樹と滝宮颯太は、物心ついた頃からの幼なじみ。いつも一緒で、だけど離れて、傷付けあって、すれ違って、また近づいて。泣いたり笑ったりしながら、お互いをずっと想い合い大人になっていく二人の物語です。
※攻めと女性との絡みが何度かあります。
※展開かなり遅いと思います。
【本編完結】期限つきの恋
こうらい ゆあ
BL
神崎葵は、聖桜病院の特別病棟で静かな日々を送っていた。
Ω性特有の難病『フェロモン崩壊症』に冒された彼は、かつてイラストレーターとして活躍していたが、今では病室でひとり、スケッチブックに心を刻む。
余命わずかな時間の中、担当医・佐藤悠真との出会いが、閉ざされた白い病室に温かな光を灯す。
葵の海への憧れ、恋への憧憬が色鮮やかに花開くが、時間は無情にも迫ってくる。
限られた時間の中での、儚い恋のお話。
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる