落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

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第二部

第7話

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「いや、逃げ出してどうすんだよ俺ぇ。」

 瀬尾君に捨て台詞を吐いてそのまま駆け出した自分。全速力で走って息が切れて立ち止まって、そしてすぐに後悔した。

「うあーー!恥ずかしい!思春期の高校生か俺は!」

 10歳程年下の男に言われた正論に傷ついて、自分を好いてくれている男に当たり散らす。

「ぎゃーーー!」

 穴があったら入りたいが、いかんせん穴がない。絶叫しながらその場にうずくまる自分を見て、通行人たちは「関わり合いになりたくない」とばかりに早足で通り過ぎて行く。

「うぅ…。恥ずかしい。こんなメンタル弱弱男で恥ずかしい。」

 体が弱くなったことは仕方ない。でもそれに引きずられてメンタルまで弱くなるのはいただけない。だてに33年間、努力し続けた訳ではない。

「うぅ。このまま家に帰っても何か落ち込みそうだしなぁ。」




「それなら筋トレですよ!!!!山口さん!」

「ひぃ!」

 突然肩を激しく叩かれる。体を大きくびくつかせて声の主を振り返ると、そこにはニコニコ顔のジムのインストラクター、朝桐さんが立っていた。

「朝桐さん、どうしてこんなところに?」

「え?ここ、ジムのすぐ前ですよ山口さん!」

「え!?」

 慌てて顔を上げると確かに目の前に自分が通っているジムがあった。

「最近山口さん来てくれないなーって思ってた矢先にジムの前でうずくまってるから体調が悪いのかって心配しちゃいました。声をかけようと思って近づいたら、家に帰りたくない、メンタル弱いってブツブツおっしゃってたので!そんな時こそ筋トレですよ!!!!」

「は、はぁ。」

 朝桐さんの熱意に少し引き気味になってしまうが、朝桐さんはグイグイと距離を詰めてくる。

「いいですか、山口さん。メンタルが落ちてる時こそ筋トレなんです。筋トレはどんな問題でも解決してくれるんですよ。」

「そ、そうなんですか。」

「そうなんです!さぁ、行きましょう!今日は私がつきっきりでトレーニング指導させてもらいます。体をばちばちに虐め抜いて、健全な精神と肉体を手に入れましょう!!!!」

「えっと、お手柔らかにお願いします…。」

 これは断ることができない。曖昧にヘラっと笑いながら、朝桐さんに手を引かれてジムへ入っていったのだった。






「うぅ、体痛い。もう歩けない。動けない。膝ガクガク…。」

「はい、山口さん。お疲れ様でした。今日はばちばちに素晴らしかったですよ!また来る時は私と体を虐めに虐め抜きましょう!!」

 自分よりも激しくトレーニングしたはずなのに、元気ピンピンで駆けていく朝桐さんを虚な目で見送った。結局1時間程度、トレーニングに費やしたが、もう体がボロボロになってしまった。

「うぅ…アラサーにこのメニューはキツすぎる…!」

 でも朝桐さんの言う通り、何だが心はスッキリしたような気がする。別に何も解決はしていないのだが、先ほどのように答えの出ない問いに頭がグルグルなることはない。
 αとΩとβ。確かにαとΩには強い結びつきがあるのかもしれない。けれどβがαやΩを愛してはいけないというルールはないのだ。

「…誰だって好きな人と好きなように恋愛する権利はあるはずだ。」

 Ωだからと言って小鳥遊君に命令される言われもない。自分は1人の人間として瀬尾君と三目君を好いているのだ。そこにαもΩも関係ない。そして自分がβであることも。恋心には関係ないことなのだ。

「…さぁーて、シャワーでも浴びるかな。」

 やはり筋トレは全てを解決する。1人で何度も頷きながら、タオルを持ってシャワールームへと向かったのだった。





「うわ…すごい着信量。」

 筋トレを終えてシャワーを浴び終わったところで、自分のスマートフォンを確認する。すると50件を超える着信があり、驚いてスマホを地面に落としそうになってしまった。

「うわ…、三目君と瀬尾君が半々だ。」

 メッセージもとんでもない量が届いていて、やれ「どこにいますか?」だの「連絡ください」だの「今から家に行きます」だの。

「過保護だなぁ、あの子達。」

 ロッカールームで着替えながら、なんと返事をしようか考えている間にもスマホに着信があった。名前を確認すると瀬尾君だった。いつもならすぐ電話にでて安心させてやるところだが、何だか意地悪したい気分になってきた。

「…あんな可愛い子が近くにいて、瀬尾君も満更じゃないんじゃないの?」

 勝手にそう想像するとむかついてきた。


「えーっと、1人で飲んでるので気にしないでっと。」

 それぞれ瀬尾君と三目君にメールを送ってスマホをポケットにねじ込む。

「さぁて!本当に飲みにいくか!」

 最近は瀬尾君と三目君が家に来るのであまり外で飲んでいない。久しぶりに行きつけの店に行ってみようと、ルンルンな足取りでジムを出る。







「…。」

「「こんばんは、幸尚さん。」」



 ジムの前には、ニコニコ顔の瀬尾君と三目君が仁王立ちで待ち構えていたのだった。
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