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解決編⑥
しおりを挟む「クソ!どうして力が!」
「貴方よりも私の方が強いのよ、オルガー。邪神の力を剥がすことぐらい容易いの。」
「がぁっ!」
エルカミニオンがにっこりと笑いながら、ミシュレオンもといオルガーの顎を蹴り上げる。先程から見るエルカミニオンの凶暴な姿に、エールカが目を丸くしているとスイが苦笑しながら「お姉様、結構武闘派なの。」と教えてくれた。
「貴方ねぇ、私のことが好きだからってやっていいことと悪いことがあるでしょう?殺すなんて貴方みたいなひとには全く似合わない事よ。」
「黙れ!」
エルカミニオンが四つん這いになっているオルガーの顎に手をかけて上にあげる。オルガーは苦しそうな表情をしながらも、悪態をつくことを止める気配はなかった。
「お前が!お前が悪いんだ!お前さえいなければ俺は!俺は!」
「はいはい、うるさーい。」
「ぐぅ!!」
今度はエルカミニオンに勢いよく背中に乗られてベシャリと地面に倒れ込むオルガー。
「あの、オルガーって…。」
「あぁ、あの子はね。一応神ではあるのよ?でも力がとても弱くて。植物が花を咲かせるのを助けたり、人の悲しい気持ちを少しだけ和らげたりできるだけなの。」
スイが応えてくれる。
「神様…。」
エールカがオルガーを見つめると、オルガーもこちらを見てくる。
「何を見ている!同情か!馬鹿にするなよ!例え力が弱いと言っても、お前ら人間を殺すくらいはすぐにできる!なんなら今ここで殺してっぐあぁぁ!」
「黙れ。」
アウラの蹴りが顔面に入り、オルガーは顔を抑えて悶絶している。
「殺してやりたいのはこっちだ。女神が頼んでいるから我慢してるだけなんだよ。なんなら今すぐ殺してやろうか?あ?」
柄が悪い。アウラの服を後ろから引っ張って何とか抑える。オルガーの方はエルカミニオンにまた殴られていた。
「ほんとにねー、ほんとにいい神様だったのよ、この子。小さい動物とか精霊たちにすごく好かれていたのに、なんで邪神なんかに。まぁ、理由なんてもうどうでもいいけどねー。私を殺したり、人間たちに迷惑かけたり。もう謝るだけで許される範囲は超えてるの。分かってるわよね?」
「なんだ?殺すか?やれよ、殺してみろ!」
オルガーが絶叫する。
「やれよ女神!俺を殺してみろ!俺を好きだった者がいただと!ふざけるな!俺は!ずっと馬鹿にされ、嘲られてたよ!神であるのに、そんなことしかできないのかとな!お前ら力のある神と違って、何もできない役立たずだ!役立たずが死んだって誰も困らないさ!俺は!お前になりたかったよ!誰からも愛される女神に!」
「開き直るな。」
「おごぉ!」
オルガーはエルカミニオンの、強烈な蹴りで吹っ飛ばされ、そのまま動かなかった。意識がなくなったことを確認すると、エルカミニオンはその胸の辺りに腕を突っ込み、黒い結晶体を取り出した。
「ふぅ、回収完了。」
「それは?」
エールカが尋ねると、「邪神の核よー」と緩く答えてくれた。
「これがある限り邪神が生まれちゃうから、回収したかったの。カイが捨てたものをオルガーが拾っちゃったのね…。まぁ、拾ったっていうよりは拾わされたって言った方がいいかもだけど。」
意味が分からずエールカが首を傾げるとエルカミニオンが笑った。
「邪神の核自体には人格はないの。ただの邪悪な力の塊。でもね生き物の心の弱さに漬け込んで操って、自分を取り込ませるの。そうやって身体を得るのよ、こいつは。」
エルカミニオンは憎々しげにキラリと光る結晶体を睨みつけた。
「じゃあそれがある限り、邪神が生まれちゃうってこと?」
「そうよー!」
「そんな!そんなのだめ!」
またこんな騒動が起きるのか。ミシュレオンのように何も悪いことをしていない人物が操られて犠牲になるのか。
「そう!だから私が復活したのよー!」
そう言ってエルカミニオンはふわりと笑う。
「大丈夫よ、エールカ。あなたの平和は絶対に守る。この結晶体は私が世界の果てまで行って捨ててくるから。虚無しかない場所だから、いくら邪神だって操るものがなければ虚無から出てこられないでしょ?」
「そんな!お姉様!やっと会えたのに!」
「エルカミニオン!」
スイとカイが辛そうな顔でエルカミニオンを見る。世界の果てとは何なのか。分からないエールカに今度はアウラが説明してくれた。
「俺も聞いたことがあるだけなんだが、数多の世界を渡った果ての果てに、世界の残骸、虚無だけが広がった世界の果てがあるらしい。世界を渡ることのできる強い力を持った神でなければ行けないらしいんだが…。まぁ、古の女神ほどの力があれば行けるんだろーな。」
「お姉様が世界の果てなどに行く必要はありません!帰って来られるかも分からない旅です!私が行きます!」
「だーめよー。あなた、力がほとんど残ってないでしょ?一つ世界を渡ったぐらいで死んじゃうわよー。カイも駄目よ。邪神の力もないんだから足手まといよ。」
何かを話そうとしていたカイの先回りをしてエルカミニオンが釘を刺す。スイもカイも辛そうな顔で押し黙ってしまった。
「…2人が行きたいなら、どうか連れて行ってもらうことはできませんか?」
その顔を見ていると、こちらまで悲しくなってくる。なんとかできないかとエルカミニオンに懇願してみると、彼女は驚いたような顔をしてエールカを見た。
「さっきの勢いはどうしたのー?2人は渡さないって言ってたじゃない?」
「い、いえ。あの時は2人が泣いてたから…。でも今は一緒に行きたそうにしてるので、それなら行かせてあげたいなって…。」
「ふーん?なら連れてこうかな?2人とも、もう2度とエールカには会えないけどいいのね?はーい、行くわよー。」
「あっ…。」
エルカミニオンがスイとカイの首根っこを掴んでズルズルと引きずっていく。そうか、もう会えないのか。
「2人とも元気でね!身体に気をつけてね!仲良くするんだよ!大好きだよ」
「「うぅ…!!」」
「泣くぐらいなら最初からそんなこと言わないの。ほんと、駄目ね貴方たち。…置いていくのが心配なぐらいよ。」
突然、スイとカイがボロボロと号泣し出した。訳がわからずエールカが駆け寄ろうとすると呆れ顔をしたアウラに止められた。
「恋敵とはいえ、なんか可哀想になってきたな…。あいつらは眼中なしか。まぁ、俺も似たようなもんだけどなぁ。オルガーとやらの恋心には気付くのに、自分に向けられたものには鈍感なんだよなぁ。」
「あぁ、もう鬱陶しい!」
エルカミニオンがスイとカイの頭をバシバシ叩いた後、エールカの方に向かって背中を蹴った。
「私が帰ってくるまでにエールカの番いを決めときなさいよ。盛大な結婚式をするんだから!スイ、カイ!貴方たち、かなり出遅れてるんだから頑張りなさいよ!」
涙目の2人がブンブンと頷いている。
「…じゃあね、エールカ。貴方と過ごした16年、楽しかったわ。貴方は見えてなかったけれど、ずっと側にいたのよ。スイとカイを救ってくれてありがとう!大好きよ、もう1人の私!」
「えっ?」
エルカミニオンがオルガーの身体を持ち上げて、肩に担ぐ。アウラが「行くのか?」と尋ねると、笑顔で頷いた。
「この子は私が連れて行くわ。殺せって言ってたくらいだからもう死んだも同然。…この世界にはもう居場所もないだろうし。」
エルカミニオンの瞳が光ったかと思うと、空間が歪み、七色に輝く扉が現れた。
「じゃあね!帰ってくる時にまた連絡するわー。」
「お姉様!ご無事で!」
「エルカミニオン!必ず帰ってこい!」
スイとカイの言葉にエルカミニオンが笑顔で手を振る。
「エルカミニオン…、貴方もオルガーを…。」
「私にもいたのよ。大事な大事な幼馴染がね。」
じゃあねと満面の笑みを浮かべ、エルカミニオンとオルガーは扉の向こうに消えて行った。
エルカミニオンside
まだ、自分が幼く力が弱かった時の話。助けたいのに、助けられない。目の前で死んでいく生き物たちを見るのが辛かった。女神として生まれてもまだまだ幼い。まだ敵わない邪な存在に害されていく愛するものたち。非力な自分に腹が立った。何が女神だ。こんな弱くて何も救えないような者が女神なもんか。
隠れて泣いていた。自分を尊敬してくれている妹や生き物たちには見せられない無様な姿。いつだって強い女神でなければならない。そうじゃないとみんなが安心して暮らせないから。
「また泣いてるの、エルカミニオン?」
彼だけが見つけてくれた。どこに隠れても。どれだけ遠くに行っても。
そしてただただ寄り添ってくれた。
「大丈夫、エルカミニオン。そんなに泣かなくて大丈夫だよ。」
彼は下手な慰めはしなかった。ただ大丈夫だと言って笑って側にいてくれた。可愛らしい花を見つけてきては「君に似合いそうなだから」と渡してくれた。その力で私の悲しみを和らげてくれた。
彼こそが本当の女神だと思っていたのだ。
そして、己を鍛え、成長し、誰にも負けない力を得た。
創世の女神として名をあげた後、真似をしたのは彼のやり方だった。
いつだって優しく笑顔で。寄り添って悲しみを和らげる。少しでも彼に近づきたかった。
自分の創った世界を壊そうとする邪神も救おうと思った。優しい彼ならそうすると思うから。自分が強くなるにつれて、彼とは少しずつ距離感ができてしまった。邪神との眠りにつく前にちゃんと気持ちを伝えたい。でもなかなか言えなかった。何が女神だと自分に呆れた。
彼は神だから死ぬことはない。目覚めた時に言おう。自分の気持ちを彼に伝えよう。
自分は間違えた。もっと早く伝えるべきだった。
最後に見たのはケラケラと笑いながらも、目に涙を浮かべている表情。そんな顔をさせたかった訳じゃない。ただ笑っていて欲しかった。邪神を救えば、あなたが笑ってくれるって思ったから。褒めてくれると思ったから。
自分の腹に空いた穴を見て思う。あー、これは治せない。まさか彼に殺されるなんて思ってなかった。完全に油断していた。何が創世の女神だ。
でも嬉しかった。彼の全身全霊をかけた攻撃。攻撃を受けた瞬間、彼の自分に対する恋心が伝わってきたから。
ほんとに馬鹿だ。自分もオルガーも。ただ、言葉で一言伝え合えば良かっただけなのに。それを怠って最悪の最後を迎えてしまった。
でも諦めない。彼を諦めたくない。これから彼は一人で生きていく。孤独に苛まれながら、邪神となって永遠の命を生きていく。
(そんなこと、絶対にさせない。)
だから命が尽きる前に、女神の力を自分に使った。いつか、彼から受けた呪いが薄まった時。きっと生まれ変われるように。彼を救うことのできる新たな自分となって。
諦めない心を持ち生まれてきたエールカ。自分と違い、何の力もない女の子だけど、自分の大切な人たちを救ってくれた。そして、自分に大切な幼馴染と向き合う時間もくれた。
「ありがとう、エールカ。」
もう一度だけお礼を言って、オルガーを横抱きにする。
「こんな色になってしまって…。」
閉じられている瞼の中にあったはずの綺麗な橙色。
「私になりたいだなんて、なんて馬鹿なことを。それで紫の瞳にしたの?あんなに綺麗な橙を捨てて?」
瞼を優しく撫でる。これから長い長い旅に出る。数えきれないほどの世界を渡っていくことになる。スイたちは悲しいことのように言っていたけれど、正直楽しみでたまらない。ずっとずっと彼と一緒にいられるから。それに、きっと他の世界のどこかに、穢れてしまった彼の色を取り戻す方法があるはずだから。
「まぁ、旅時は長いし、その間に気持ちも伝えられるよね?今度はずっと一緒なんだから。」
気を失って口から涎を垂らしている大事な幼馴染。目が覚めたらきっとまた悪態をつくのだろう。エルカミニオンのことが大好きなくせに絶対に認めないオルガー。
「全く。世話が焼けること。」
オルガーの頬に優しくキスをした後、エルカミニオンは最初の世界へと旅立ったのだった。
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