上 下
2 / 96
落ちこぼれの魔法事務所

落ちこぼれ魔女ハフィ②

しおりを挟む
 学校を卒業するまであとひと月に迫っている。ほかの同級生はもうほとんど働く場所が決まっていて、最後の学生生活を楽しんでいるとういのに。

「うー、決まらなかったらどうしよう。どこかでとりあえず働くしかないのかなぁ。」

 仕事が決まらなくても、働かないと生活していけない。学校にいる時は、国が生徒を全面的に援助してくれるので、お金は全くかからない。しかし、卒業してしまえばお金は自分で稼がないといけないのだ。

「うぅ、とにかく働ける場所を探さないと。」

 今までは魔法事務所ばかり回っていたが、普通のお店にも行ってみないと駄目かもしれない。

「魔法使いとして働くの、夢だったんだけどな…。」

 歩き疲れてしまったハフィは目についた石造りの階段に座り込んだ。

 思い出すのはまだハフィが随分と小さかった時のこと。

 ハフィは両親を知らなかった。物心ついた時には孤児院に預けられていて、施設の先生や子供たちと一緒に育ったのだ。親がいなくても、いつもハフィの頭を優しく撫でて抱きしめてくれる先生や、一緒にブランコや追いかけっこで遊んでくれる友達に囲まれて、楽しく生活していた。

 しかし、ある日の晩。孤児院が火事になってしまったのだ。みんな寝ていた時間帯だったので、避難するのが遅れてしまった。気付いた時には、全員が揃って寝ていた部屋は炎に囲まれてしまっていた。

 先生たちは、小さい子供たちを逃すことで精一杯だった。子供たちの中でも年上の方だったハフィは自分で逃げなければならず、急いで窓から外に出ようとした。

「ひぃー…ん!」

 しかし本当に小さな泣き声を聞いて足を止めた。

 この声は確か、最近施設にやってきた男の子の声だ。まだみんなに慣れてなくて、物置の中に隠れてしまう小さな男の子。慌てた先生たちは、男の子のことを忘れてしまっているのだろう。

「っ!」

 駄目だ。置いていけない。

 ハフィは急いで部屋の隅にある物置に駆け寄り、その扉を開ける。案の定、男の子が頭を抱えて泣いていた。

「こっちにきて!」

 男の子をなんとか物置から出したハフィだったが、周りを見ると火の手がすぐそこまで迫っていた。先程出ようとした窓の辺りはもうとっくに火の海だった。

 遠くから先生たちが自分を呼ぶ声が聞こえる。腕の中にいる男の子は熱さのあまり、ワンワンと泣き出した。

「泣かないで!大丈夫だからね!先生たちがすぐに助けに来るよ!」

 なんとか励まそうとするものの、男の子は全く泣き止まない。この状況で助けが来るのは絶望的かもしれない。でも最後まで諦めたくない。せめて最後まで男の子を元気付けてやりたい。

 けれど男の子は泣き止まない。

 自分は無力だ。

 どんどんと周りが熱くなってきて、頭がクラクラしてきてた。

(もう駄目…。)

 意識を手放そうとした時だった。





「ロジィーロ・メフィメフィー!」


 高らかな声が響き渡った。



 


しおりを挟む

処理中です...