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落ちこぼれの魔法事務所
落ちこぼれ魔女ハフィ③
しおりを挟む一瞬で熱さがおさまった。不思議に思ったハフィが顔を上げると、誰かが優しく背中を撫でてくれた。
「よーく頑張った。」
優しい優しい言葉。
あぁ、助かったのだ。誰かが自分達を助けてくれた。でも自分の目は強い炎と煙にやられてうまく機能してくれない。
「あの、ありがとうございます。ほら、助けに来てくれたよ?」
「うわーーーーん!」
男の子がハフィの腕の中から抜け出した感覚。おそらく助けに来てくれた人の所に行ったのだろう。そして、何人かの足音がどんどんこちらに近づいて来る。きっと先生たちが来てくれてのだ。
「ほら、君は先生たちのとこにおいき。」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
男の子が助けに来てくれた人物にお礼を言っている。自分も言わなければと慌てて口を開こうとした。
「こらこら、君がお礼を言うのは僕じゃなくてこの女の子じゃあないのかな?」
「え?」
「君を助けてくれたのは僕じゃない。この女の子の勇気だよ?君を置いて逃げることだってできたのに、助けに戻ったんだ。なかなかできることじゃない。それに火の中でも君のことを励まし続けてた。立派な子だよ。」
「い、いや、私のことはいいんです!あの、助けてくれてありがとうございました。」
こんなに褒められることなんて初めてで、くすぐったくなる。お兄さんと呼ばれた人の言葉を遮って頭を下げた。
「私は何もできなかったからいいんです!」
「そんなことないよ。君が彼を守ってくれたから、彼は火傷ひとつせずに済んでるんだ。君は視力を失ったのにね?」
「え!?!?お姉ちゃん、目が見えなくなっちゃったの?」
助けた男の子の悲鳴が聞こえた。
「だ、大丈夫だよ!見えるよ。君が心配するようなことはないよ。君が無事でよかった。それが何より嬉しいよ。」
腕の中に男の子が戻ってきた。その体がカタカタと震えている。自分のせいだと思い込んでしまっているのだろう。ただでさえ火事がトラウマになるかもしれないのに、これ以上嫌な思い出を増やしたくない。
ハフィは強く男の子の体を抱きしめた。
「大丈夫…大丈夫よ。」
ゆっくりとささやくように言った後、男の子の額を手探りで探し、そこに優しくキスを落とした。
「笑顔になーれ。笑顔になーれ。可愛い笑顔を見せてちょうだい?」
ぽんぽんと優しく背中を叩きながら歌うように呟く。
「お姉ちゃん、ごめんね…。ありがとう!」
男の子がぎゅうっと抱きついてきたので、抱きしめ返す。
「大丈夫さ。僕がいる。さぁ、場所を譲って。」
すると助けに来てくれた男の人が近付いてきて、ハフィの目元に手を添える。
「君は魔力があるね。とっても弱々しくて今にも消えてしまいそうだ。…でもとっても綺麗で透き通ってる。君の優しい心のようにね。ロジィーロ・メフィメフィー…。」
優しい呪文がハフィの体を包み込む。じんわりと目元が温かくなり、見えなくなってしまったはずの光がその瞳に入ってくる。目を開けるように言われて、ゆっくりと瞼を上げる。
「優しい心は魔法使いに最も必要なものだ。君はもう立派な魔女だね。さぁ、行こう。小さな魔女さん。」
目の前では、水色の綺麗な瞳を持つプラチナの髪の青年がにっこりと笑ってハフィの頭を撫でていたのだった。
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