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青い王子と雨の王冠

善雨と村雲①

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 村雲とお茶を飲んで雑談していたハフィは、村雲の部屋を乱暴にノックする音に驚いて体を震わせた。

「っお休みのところ申し訳ありません。そちらに善雨様の客人がいらっしゃいませんでしょうか?」

 聞こえてきたのは焦ったような静間の声。ハフィは静間たちと別れた時に、夕食を一緒に食べようと話していたことを思い出した。

「あ!ご飯食べるんだった!」

「まさか兄さんとじゃないだろうな!」

 部屋の扉を開けに行こうとした村雲が鬼の形相でハフィを振り返る。

「ひっ!い、いや!あの!」

「…そうなんだな!兄さんと食事するんだな!!!こらーーー!」

「きゃあーーー!」

 怒りに我を忘れた村雲が飛びかかってきて、ハフィの頭をぐちゃぐちゃにかき回す。

「おーまーえー!やっぱり魔法を使ったな!兄さんと食事するなんて!兄さんは絶対に誰かと食事したりしないのにぃーー!」

「きゃあーーー!やめでくだざいーーー!」

「っ!!失礼する!」

「ひゃあ!」

 激しく頭を掻き回されて、ハフィは大きな悲鳴をあげてしまった。その声を聞いて静間が無理やり扉を蹴破り、部屋の中に入ってきた。突然部屋に現れた静間にハフィがまたもや悲鳴をあげる。

「っ!村雲様!善雨様の客人に無体を働くなど許されませんぞ!」

 静間は大きな声で怒鳴りながら大股でハフィと村雲に近付いてくる。いったい何の話かとポカンと口を開けていた2人だったが、自分がハフィに暴力を振るったと勘違いされていることに気付き、村雲は慌ててハフィから離れた。

「ま、待て!僕は何もしてないぞ!そもそもこいつが!」

「こいつは少しボケてるし、抜けてるけどだからって殴るなんてそんなひどいことをするなんて!それに善雨様の客人なんだ!善雨様もこいつを見ると優しいお顔をされるのに!っあんたはどれだけ善雨様を苦しめたら気が済むんだ!」

「っ!」

 静間の言葉に村雲が苦しそうに顔をしかめる。しかし静間はそれに構わずさらに言葉を続けた。

「善雨様のお母様を城から追い出して、善雨様を1人にして!そんなに善雨様が憎いのか!自分が王になりたいからって善雨様を陥れるようなことをするのはやめろ!」

「ま、待って!静間さん!」

 自分のせいでけんかが始まりそうな雰囲気にハフィはなんとか静間を止めようとする。しかし強く抱き寄せられたせいで、顔が静間のお腹に埋もれてしまい満足に声を出すことができなかった。

「これ以上善雨様の邪魔をするのなら俺にも考えがあります!それでは失礼します!」

「あ、待って!」

 静間はハフィを肩に担いで早足で部屋から出ていく。ハフィは村雲に手を伸ばしたが、黙って俯いていた村雲がその手を掴むことはなかった。

 


 
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