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青い王子と雨の王冠

黒い雨①

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「なに…これ?」

 ハフィが黒い雨に手をかざす。

「っ!今すぐに屋根のあるところへ行け、静間!」

 村雲が鋭い声で指示する。静間はそれに従って急いで中庭から駆け出し、王宮の中へと戻った。村雲と睡蓮も静間の後についてきた。

「っ、くそっ!これは!」

 そして村雲がその場に崩れ落ちる。

「村雲さん!」

 顔を青くしたハフィが慌てて静間の肩から降りると、村雲のそばはと駆け寄る。村雲は息を荒くしてぐったりとしていた。

「大丈夫ですか、村雲さん!」

「っだい…じょうぶ…だ、大きい声を…出すな。」

 村雲が苦しそうな表情をしながらも、ハフィに心配をかけまいと下手くそな笑顔を見せる。ハフィはそんな村雲の優しさにたまらなくなって、ぎゅっと抱きついてしまう。

「やだ!村雲さん死なないでください!村雲さーーん!」

「バカ!だれが…しぬか!」

 ひんひんと泣き始めるハフィの頭を村雲が小突く。その間に睡蓮と静間が指示を出して、医者を呼んでいるが大きな混乱が起きているせいか、なかなか来ない。睡蓮たちが苛立ちながら「医者はまだなのか!」と大声で叫ぶ。




「うん、水力が極端に落ちている。この黒い雨はどうやらこの国の国民が持つ水力を奪い取る力があるみたいだね。」

 村雲に近づいてくる影があった。苦しむ村雲のお腹に手を当てると、その手が光る。すると、荒くなっていた村雲の息が整って来た。

「これは…。」

 村雲が体を起こす。

「僕の魔力を水力に変換して君の体に流したんだ。かなり繊細な魔力コントロールが必要になるから、誰もができることじゃないってことは説明しておくよ。」

 深くローブを被って顔を隠した人物が村雲に言うと、くるりと振り返る。

「やぁ、ハフィ。事務所に帰ってみたらいないんだもの。せっかく初仕事のお祝いに色々買って来たのに。早く食べないと駄目になっちゃうから全部届けに来たんだ。」

「ロミィ…さん?」

 ハフィが小さく、確認するように呟くと、立ち上がってヨロヨロと近づいていく。

「うん、そうだよ。君のたった1人のお師匠様さ。遅くなってごめんね。ミズリィにお祝いのバターケーキを焼いてもらってたんだけど、量が多すぎてなかなか焼けなかったんだ。でもお陰でたくさん持ってこられたから一緒にいっぱい食べようね。」

 ロミィがパチンと指を鳴らすと、空中からどさどさとたくさんのお菓子が降ってくる。

「ハフィ、初めての依頼おめでとう。」

「ロミィさん!!!!」

 ボロボロと涙をこぼしたハフィは勢いよくロミィに抱きついたのだった。


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