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青い王子と雨の王冠

黒い雨②

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「うわーーーん!ロミィさん!なんでもっと早く来てくれなかったんですかぁー!」

 ロミィが来てくれたことで気が緩んだハフィは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ポカポカとロミィの胸を拳で叩く。ロミィはそんなハフィを抱き止めて「これでもかなり急いで来たんだよ」とハフィの耳元で囁いた。

「ハフィの同級生のオーラスって子がハフィが拐われたっていうから驚いたよ。まさか僕の大事な一番弟子を拐かすやつがいるとは思わなくてね。」

 ロミィはハフィの頭をヨシヨシと撫でる。




「っ、お、お前は何者だ!」

 
 そんな2人に声をかけたのは、ロミィの魔法で元気を取り戻した村雲だった。体を起こしてロミィのことを睨みつけている。

「あっ、村雲さん!この人は!」

「僕はハフィの一番大事な人だよ。そうだよね、ハフィ?」

 ロミィがさらに強くハフィを抱きしめてくる。ハフィはロミィの言葉に少し引っかかったが、間違いではないのでコクリと頷いた。


「っ~~!そんなヘンテコなローブを着てる奴がいいのかお前は!」

「ひぃ!」

 村雲が大きな声でハフィを怒鳴る。ハフィはぴゃっと震え上がってロミィの腕の中に潜り込んだ。

「ふふ。僕の一番弟子は厄介な男たちに好かれやすいね。僕が気をつけてあげないと。」

「い、一番弟子!?」

 ロミィの言葉を聞いて自分が恥ずかしい勘違いをしていたことに気付いた村雲は顔を赤くする。ハフィに謝ろうと村雲が口を開きかけるが、その前に中庭から一際大きな悲鳴が聞こえてくる。

「おぉっと。こんなところで遊んでる場合じゃなかったかな。どうやら黒の脅威が本格的にこの国を蝕もうとしている。早く手を打たないと手遅れになってしまうね。この国も、王子も。」

「王子もって…、まさか善雨さんのことですか!」

 ハフィが顔を上げて問うと、ロミィはコクリと頷いた。

「彼は黒に取り込まれてしまっている。このままじゃ自意識をなくしてこの国を黒で覆ってしまうことになるよ。」

「くそ!どうしてこんなことになってんだ!」

 静間が中庭を悔しげに睨みつける。

「善雨様を王にしたくないものの陰謀に決まっている!王冠を盗み出したのもそいつらだ!すぐに首謀者を探し出さなければ!」

 静間が走り出そうとするが、それをロミィが引き止めた。

「首謀者なんかいくら探しても見つからないさ。」

「どうしてそんなことがお前に分かる!」

 静間がロミィに詰め寄り、胸ぐらを掴む。しかしロミィは慌てもせずに口を開く。

「そんなの簡単さ。王冠を盗み出したのは善雨で間違いないからだよ。」


 
 
 
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