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青い王子と雨の王冠

犯人②

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「そうさ。君がゼンリューと一緒に戦った時にいたやつだよ。あの気配を思い出して探してごらん。ハフィならきっと見つけ出せるはずだよ。」

 ロミィはハフィのそばまで来ると、その頭を優しく撫でる。

「僕がアドバイスしてあげるから。さぁ、目を閉じて。ドロドロの黒を探すんだ。」

 後ろから優しい声でささやかれる。ハフィはロミィの言う通りに目を閉じてみた。

(ゼンリューさんと見た黒いドロドロ。あれは…。)

 ネチョネチョしていて。

 とんでもなく暗くて。

 とっても重くて。

 とっても悲しげで。


「そう。それを探してごらん。」

 




「いた。」

 
 中庭の隅。震えてうずくまっている睡蓮を見つけたハフィはゆっくりと目を開ける。一瞬だけその瞳が黄金色に光ったが、それを見たのはロミィだけだった。ロミィは何も言わずにニヤリと笑う。

「さぁ、睡蓮とやらをとっ捕まえておいで。…僕は第一王子を何とかしよう。」

 ロミィはハフィの背中を優しく押すと、勢いよく宙に舞い上がる。そして、空に向かって高笑いしながら全身に黒の雨を浴びている善雨の前に現れた。

「何だぁ、お前は!」

 善雨の口からしゃがれた老婆のような声が出る。その声を聞いて村雲は「ひっ!」と小さく悲鳴をあげた。

「やぁ、潤国の第一王子。僕はロミィ。ハフィの大事なお師匠様だよ。依頼があって君を助けにきたんだけど、少し遅かったみたいだ。今の君を完全に救うことは僕にはできない。だからこれ以上君が黒に飲まれないように封印を施すよ。」

「っ!だぁーまぁーれぇー!邪魔するなぁ!」

 善雨が目を吊り上げて口をパカリと開ける。すると細くて長い舌がチロチロと見え隠れした。

「ふむ、今回は蛇か。なるほど、執着心につけ込まれてしまったようだね。」

「きえろぉーーー!」

 善雨が吠えると、空中から黒い水柱が降ってくる。それを難なく避けたロミィはくるりと空中ででんぐり返りをしながら指を振った。

「さぁ、しばし眠っていたまえ。悲しき雨の王子様。」

「ぎゃ!」

 ロミィの指から大量の水が溢れ出たかと思うと、善雨の体に布のように巻きついていく。そしてそれは大きな水球になって善雨の体を取り込んでしまった。
 最初水の中でもがいていた善雨だったが、少したつと穏やかな顔で眠りについたようで、口から規則的に水泡を出しながら体を丸めている。

「ふぅ、封印完了だ。潤国に伝わる古の魔法、なかなか強力だね。」

 潤国の王冠を守ってきた古の魔法を一瞬で真似たロミィが満足そうに胸を張る。

「…さぁ。これからどうするか。」

 ロミィが小さく呟いていると「ロミィさーん!」と元気な声が聞こえてくる。

「おや、あっちも片がついたようだね。」

 村雲と静間に両側からガッチリ捕まえられた睡蓮を連れて、ハフィが小走りで戻ってきたのだった。


 
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