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青い王子と雨の王冠

まどろみの中で①

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 気付けば真っ白な場所にいた。ただただ広くて終わりの見えない白い空間。そこに自分は立っていた。

 まるでまどろんでいるかのようで、意識がはっきりしない。なんだかふわふわしてしまって、この場でそのまま眠ってしまいそうになる。



「寝るの?」


「んあ?」

 丸くなって寝てしまおうとしたら、誰かに声をかけられる。せっかく気持ちよく眠れそうだったのに。イライラしながら少しだけ目を開ける。


「ねぇ、寝るの?」


 真っ黒。とにかく黒い。



 黒すぎてよく分からないものが声をかけてくる。この真っ白な空間に異質な黒。


 けど、そんなことはどうでもいい。とにかく眠いのだ。早く眠ってしまいたい。


「眠ったらダメ。まだ寝る時間じゃない。」


 そんなこと指示されたくない。いつ眠るかなんて自分が決めることだ。苛立たしげにパチンと尻尾を地面に叩きつける。あっちに行けという気持ちも込めてやってみたのだが、黒は全く意に解さない。それどころかこちらの体を揺らして眠らせないようにしてくる。


 うるさい!と一声吠えてみると「やっと起きた」と黒が言う。


 ここで眠ることができないのならもう用はない。さっさと帰ろう。大きなあくびをして立ち上がるとグンと伸びをする。黒はそんな自分の様子を黙って見つめていた。

 帰るために歩き始めた自分を引き止めることもない。


 ただ一言。




「またね。」





 黒が手を振った。







 手は振り返さなかった。

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