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青い王子と雨の王冠

王①

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「皆、よく来てくれた。」

 いつもとは違い、玉座に背筋を正して座っている天泣が、やってきたハフィたちに声をかける。玉座の間には、天泣と、その側に侍るローブを被った人物だけしかいなかった。

「まずは…、ハフィ殿…目を覚ましたのだな。本当に良かった。」

「は、はい!ありがとうございます。」

 無表情で何を考えているか分からない天泣が優しげな笑みを浮かべているのを見て、ハフィはしばし見惚れてしまった。もじもじとしているハフィをじーっと不機嫌そうな目で村雲が見つめる。

「なぁに、照れてるんだよお前は。まさか父様のことを好きになったんじゃないんだろうな!」

「んなっ!そ、そんなことある訳ないんじゃないですか!なんてこと言うんですか!」

 ハフィが顔を真っ赤にして村雲に掴み掛かる。村雲は不貞腐れたような声音で「僕だって大人になったらあんな風に…。」とブツブツ呟いている。

「ふーん、ハフィは権力者が好きなのかい?まぁ、第一王子か第二王子に比べれば王の方がいいかもしれないけど、少し歳が離れすぎてるかもなぁ。」

「ロミィさんまでやめてください!」

 思案顔のロミィにハフィが大声で注意する。そんなやりとりを黙って見ていた天泣は小さく笑って「そろそろ話を続けても良いか?」と続けた。王の前で騒いだことが恥ずかしくてハフィと村雲が恥じるように俯いた。

「ふむ…。続けるぞ。ハフィ殿、そなたのおかげでこの国は救われた。この国の王として礼を言いたい。本当にありがとう。」

「えぇ!ちょ、やめてください!私は何もしてないんですぅ!!

 自分に向かって頭を下げる天泣を見て、ハフィは混乱のあまり泣きそうになる。一方でロミィは「そうだそうだ。うちの一番弟子が頑張ったんだぞ!ハフィ、報酬はたんまりもらうんだよ?なにせ王様なんだからなんだって持ってるさ。」と煽ってくるので気が気ではない。

「報酬なんていいんです!私は本当に何もしてないんですから!黒いドロドロだって村雲さんが慈愛の雨を降らせることができたからいなくなったんですよ!」

 ハフィの言葉に天泣がコクリと頷いた。

「そうだ。村雲は慈愛の雨を降らせることができた。…これはつまり潤国の王に相応しいということを意味する。」

 天泣の言葉に、村雲がハッと顔を上げる。天泣は王ではなく父親の顔で、村雲に笑みを向けた。

「よくやった村雲。父としてお前を誇りに思う。…今までお前の体を思っていたとはいえ、王に相応しくないと思っていたが、それは間違いだった。」



 天泣の声が玉座の間に響く。




「潤国の次の王はお前だ。」
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