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青い王子と雨の王冠

目覚め③

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「…。」

 善雨は黙ったままハフィに歩み寄ると、優しくその体を抱きしめた。

「…もう大丈夫なのかい?」

「は、はい!大丈夫です!!」

 耳元でささやかれて、顔を赤くしたハフィが何度も頷くと、善雨は優しく微笑んだ。

「そうか…、それなら良かった。」

 そういったものの、善雨がハフィを離そうとする気配はない。気恥ずかしいハフィが体をよじると、それに気付いた善雨がやっとハフィを解放してくれた。

「すまない。苦しかったかな?」

「い、いえ。苦しくはないんですけど、あの…!」

「ふふ。可愛らしいね、ハフィは。本当に可愛い。」

「ひぃ。」

 甘くとろけるようは声で言われて、ハフィは小さく悲鳴をあげて固まった。善雨はそんなハフィを愉快そうに眺めている。

「ハフィ。君が私のことを助けてくれてんだってね。…愚かにも執着心にまみれて黒に取り込まれてしまった私を。本当にありがとう。」

「そ、そんな!頭を上げてください!」

 頭を下げた善雨にハフィが駆け寄る。

「いや、全て私の責任だ。王子としてこの国を守っていかなければならないのに、個人の感情に囚われて国民を危険に晒してしまった。私はもう王になる資格はないんだよ。」

「善雨さん…。」

 顔を上げてニコリと笑う善雨を見て、ハフィは悲しげに眉を下げる。それを見た善雨は「そんな顔をしないでくれ」とハフィの頭を撫でた。

「いいんだよ。水力があるだけで、私は王に足る決断力やカリスマ性はないんだ。王になったとしても、元老院の操り人形になるだけさ。」

「でもっ!」

「ハフィ。私はね、踊り子の息子なんだ。自由を愛する踊り子のね。だから私も外に飛び出してみたいんだよ。いろんな世界を見に行きたいんだ。」

 善雨が膝をついてハフィには目線を合わせる。善雨はキラキラと輝いて見えるハフィの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「でもね。私は1人が苦手なんだ。だから誰かに一緒に来てもらいたい。愛する誰かと一緒に旅をしたいんだ。…ハフィ、君がそんな誰かになってくれないかい?」


「へ?」


「私は君を愛してしまったみたいだ。」




「へっ!あ、いや!えぇ!!!?」



 にっこりと笑う善雨に、ハフィが目を丸くして慌てる。



「お願いだ、ハフィ。どうか私と!」




「そこまでだよ、第一王子。何を勝手に僕のハフィを口説いてるんだ。魔法でネズミに変えるぞ。」

「っ!」


 突然、頭上から大量の水が降ってきて善雨が水浸しになる。


「…何をするんだ貴様。」

「こっちのセリフだ、バカ王子。君は第二王子より厄介だね。…さて、君も起きたのならみんなで玉座の間に行こう。王がお呼びさ。」

 ロミィがハフィを後ろから抱きしめて言った。
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