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青い王子と雨の王冠

目覚め②

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 ロミィとハフィの話声が聞こえたのか、眠っていた人たちがどんどんと目を覚まし始める。最初に体を起こしたのは村雲だった。


「ん…っお前!起きたのか、ハフィ!」

 少しだけぼんやりしていたが、起きているハフィを見てその目を見開くと、急いでハフィの近くに寄ってくる。

「はい、村雲さん。ご心配をおかけしました。」

「本当にそうだよ!お前、突然倒れたんだぞ!あの黒いやつに攻撃が効いてると思ったらお前が倒れるから、何かされたんじゃないかって心配したんだ!でもお前の師匠って奴が眠ってるだけだから心配ないって。だから、僕は!」

 ハフィの手をぎゅっと握って村雲がうつむく。少しだけ震えていることに気付いて、ハフィは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめんなさい、村雲さん。私、大丈夫ですから。えっと、なんで倒れちゃったのか自分では分からないんですけど…。」


「それはハフィが力を使いすぎたからだよ。僕の魔力を少し分けてあげたからもう大丈夫さ。」

 説明を補足したのはロミィだった。そしてハフィと距離の近い村雲を空中から蹴り飛ばす。

「何するんだ!」

 怒鳴る村雲を気にすることなく、ロミィはケラケラと笑った。

「さっきも言ったでしょ?ハフィと距離が近すぎる。僕はハフィのお師匠様だ。一番弟子にとってお師匠様っていうのは誰よりも大切な存在なんだ。いわば家族みたいなものなんだよ。だから僕がハフィにたかる虫を退治しないといけないんだ。」

「誰が虫だ!僕は王子なんだぞ!」

 ギャアギャアと言い合いをしている2人を放っておいて、ハフィは先ほどのロミィの言葉を噛み締めていた。

「家族…。私とロミィさんが家族…。」


 嬉しさのあまり飛び上がりそうになる。

 家族。

 それはハフィがずっと求めていてたものだ。幼い頃にシスターに強請ったけれど、与えられなかったもの。それを与えてくれる人がいたのだ。


「私…ロミィさんと家族。家族なんですね!」

 喜びで頬を赤くしたハフィがニコニコと笑いながらロミィに話しかける。そんな様子を見たロミィも嬉しそうにハフィに笑いかけた。


「そうだよ、僕とハフィは家族だ。末長くよろしくね。とりあえずハフィの旦那さんにこんな乱暴な男はダメだ。」


「だ!だれがこんなちんくしゃと結婚するか!」

「素直じゃないところもダメだね。」


「人の話をきけーーー!」

 ケンカを再開した2人を見てハフィがクスクスと笑う。





「ハフィ…。」


「あ…、善雨さん。」


 ハフィに声をかけて来たのは目を覚ました善雨だった。
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