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虎穴に入った結果、二つの大収穫!!
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そもそもアルコール除菌スプレーに精油の香りが必要なのだろうか……ということだ。おばあちゃんが精油入りの除菌スプレーを使っていたから、当然精油がいると思っていたが、冷静に考えれば1%未満の精油よりもアルコールの方が『除菌』の役割を果たしているはずだ。
しかし今更ながら、『工場見学は結構です』とは言い出せず、精油に続きフローラルウォーターの製造過程も見学することになった。
「こちらがフローラルウォーターでございます」
ラルフに案内された場所は公開されている工房の裏手に存在した。清潔感のある作業場だが、来客の目に触れることはない。
「先ほども説明しましたが、植物を水蒸気にあてて精油成分を気化させ、冷ますことで油部分を採取し『精油』を作成します」
壁からは一本の管が伸びており、そこに大量の液体が流れ込むのが見えてくる。
「その時、油ではなく水溶性の液体ができるのですが、それをフローラルウォーターと呼びます。精油ほど濃度が高くないのですが一定の効果が期待できますし、香りも豊かですので香水や化粧品などに利用しております」
大量の植物を使って、わずかな精油を作ることを考えると、非常に多くの液体が一度に生産されているのが分かる。副産物的な存在で、利用価値が高いのも理解できるが、結局精油を作らなければ意味がない。
「これを自宅で作りたい場合は、大きな鍋を使えば簡単にできます」
「鍋?」
私の難しそうな表情を察してか、ラルフは再び代替案を提案してくれる。
「大きな鍋にハーブと水を入れ、その上にザルのようなものを置き台を作ります。その上に容器を設置し、蓋をします」
「それだけでできるの?」
「一度沸騰させてから鍋を冷やし、蒸気が液体になり鍋のふたを伝って容器の中に集まればフローラルウォーターでございます。精油よりも簡単に作れるかと存じますが」
「色々教えてくださって本当にありがとうございます」
アルコール除菌スプレーに精油を使わなかったとしても、フローラルウォーターならば今後様々な商品に活用できるに違いない。
「でも、こんな企業秘密教えてしまって本当にいいんですか?」
「とても懐かしい人にグレイス様が似ていたから……つい口が滑ってしまったのですよ」
なんとも妖艶なリップサービスに、思わず苦笑いがもれてしまう。おそらく数日後、私が不在の公爵邸に情報料を回収せんとばかりに、従業員が商品を売りつけに来るにちがいない。
大収穫を得てラルフの店を出ると、そこには所在なさげにしているキースさんが待っていた。
「お待たせしてしまい大変申し訳ございません」
「今、来たところだから、大丈夫だよ。で、どうだった?」
「ええ、大収穫がございました。それでキース様はどちらへ行っていらっしゃったの?」
「骨董市があったから見て回っていたんだ」
広場には週に一度、露店が所せましと並び、週ごとに様々なものが販売されている。日によって、骨董、花、布、本と商品は変わっていく。
「何か掘り出し物でもございましたか?」
「古いもので申し訳ないんだけど、よかったら貰って」
キースさんはそう言うと、私の手のひらに何かを握らせた。不思議に思いながらゆっくりと手を開くと、そこには小さな赤い石が載った指輪があった。
「キース様、こ、これ?!」
「いや、そんな深い意味じゃなくて、その……あれだ。うん、最近、人の出入りも多いし、ここに居る間だけでも付けていた方がいいかな……って」
しどろもどろになるキースさんを前に思わず私は涙があふれてくる。長かった……本当に長かった……。
「だから、婚約指輪じゃないからな!!!!」
指輪を握りながら涙を流す私にキースさんは慌てて弁明するが、時既に遅しだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
HerbMagazine:お鍋で作る手作りハーブウォーター(最終閲覧日:2019年5月16日)
http://www.herb-magazine.com/archives/885
【御礼】
お気に入り登録、本当にありがとうございます。
「面白かった!」「お勧めのおばあちゃんの知恵があるよ!」という方は感想をいただけると嬉しいです。
しかし今更ながら、『工場見学は結構です』とは言い出せず、精油に続きフローラルウォーターの製造過程も見学することになった。
「こちらがフローラルウォーターでございます」
ラルフに案内された場所は公開されている工房の裏手に存在した。清潔感のある作業場だが、来客の目に触れることはない。
「先ほども説明しましたが、植物を水蒸気にあてて精油成分を気化させ、冷ますことで油部分を採取し『精油』を作成します」
壁からは一本の管が伸びており、そこに大量の液体が流れ込むのが見えてくる。
「その時、油ではなく水溶性の液体ができるのですが、それをフローラルウォーターと呼びます。精油ほど濃度が高くないのですが一定の効果が期待できますし、香りも豊かですので香水や化粧品などに利用しております」
大量の植物を使って、わずかな精油を作ることを考えると、非常に多くの液体が一度に生産されているのが分かる。副産物的な存在で、利用価値が高いのも理解できるが、結局精油を作らなければ意味がない。
「これを自宅で作りたい場合は、大きな鍋を使えば簡単にできます」
「鍋?」
私の難しそうな表情を察してか、ラルフは再び代替案を提案してくれる。
「大きな鍋にハーブと水を入れ、その上にザルのようなものを置き台を作ります。その上に容器を設置し、蓋をします」
「それだけでできるの?」
「一度沸騰させてから鍋を冷やし、蒸気が液体になり鍋のふたを伝って容器の中に集まればフローラルウォーターでございます。精油よりも簡単に作れるかと存じますが」
「色々教えてくださって本当にありがとうございます」
アルコール除菌スプレーに精油を使わなかったとしても、フローラルウォーターならば今後様々な商品に活用できるに違いない。
「でも、こんな企業秘密教えてしまって本当にいいんですか?」
「とても懐かしい人にグレイス様が似ていたから……つい口が滑ってしまったのですよ」
なんとも妖艶なリップサービスに、思わず苦笑いがもれてしまう。おそらく数日後、私が不在の公爵邸に情報料を回収せんとばかりに、従業員が商品を売りつけに来るにちがいない。
大収穫を得てラルフの店を出ると、そこには所在なさげにしているキースさんが待っていた。
「お待たせしてしまい大変申し訳ございません」
「今、来たところだから、大丈夫だよ。で、どうだった?」
「ええ、大収穫がございました。それでキース様はどちらへ行っていらっしゃったの?」
「骨董市があったから見て回っていたんだ」
広場には週に一度、露店が所せましと並び、週ごとに様々なものが販売されている。日によって、骨董、花、布、本と商品は変わっていく。
「何か掘り出し物でもございましたか?」
「古いもので申し訳ないんだけど、よかったら貰って」
キースさんはそう言うと、私の手のひらに何かを握らせた。不思議に思いながらゆっくりと手を開くと、そこには小さな赤い石が載った指輪があった。
「キース様、こ、これ?!」
「いや、そんな深い意味じゃなくて、その……あれだ。うん、最近、人の出入りも多いし、ここに居る間だけでも付けていた方がいいかな……って」
しどろもどろになるキースさんを前に思わず私は涙があふれてくる。長かった……本当に長かった……。
「だから、婚約指輪じゃないからな!!!!」
指輪を握りながら涙を流す私にキースさんは慌てて弁明するが、時既に遅しだ。
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【参考文献】
HerbMagazine:お鍋で作る手作りハーブウォーター(最終閲覧日:2019年5月16日)
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