必殺のグロースー最弱からの急成長―

ヒラメキカガヤ

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第一章 最弱の始まり

LV.1 努力は報われない

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 努力は報われる。

 ずっとそう信じて、努力してきた。

 誰に何を言われても、決して諦めることなく、頑張ったはずだった。

 でも、世の中、どうにもならないことだってある。
 不条理とも言えるような力の差、才能の有無、格の違い。

 周りの人間たちと足並み揃えてやってきたはずなのに。

 俺だけが、レベル1の雑魚のままだった。




 「おお、俺たちにもとうとうレベルが」


 中学1年生になると頭上にレベルが見える世界。
 俺たちは、都内の学校の体育館で、憧れでもあり、生まれて初めての事態にすっかり興奮しきっていた。
 全ての中学1年生たちの頭上に、レベルが表示されるための『レベリング記念式典』が開催された。
 今日は、体調も素行も不良の人間達も、この一生に一度のイベントだから、体育館に全員が集まっているだろう。
 欠席の生徒にも等しく『レベリング』されるようだが、やはり、人生で最初で最後の行事には死んでも参加したいものだ。

 生徒たちの前に立つ理事長が、ごほん、と咳払いをして、俺たちに告げる。
 
 「君たちは、このレベリング記念式典で、レベルを授けられました。レベルは『魔物』から自分の身を守る盾ともなりますが、人を傷つける剣にもなりえます。くれぐれも使い方を誤らないように」

 理事長の挨拶もそこそこに、人生のビッグイベントが幕を下ろした。


 みんなはこの先の人生に、大きな期待、輝かしい将来を見据えた。もちろん俺もそうだった。
 みんなが魔物を狩り始めるまでは。

 「よっしゃあ!レベルアップ!」

 魔物狩りの授業。支給された直剣を振りかざす男子生徒。頭の上には『LV.5』と表記されている。

 魔物狩りの授業は、入学してからもう5回目を迎えている。

 なのに、俺だけ。

 「あははは、カナト、お前なんでレベル1のまんまなんだよ!」

 「うるせっ!」

 
 そう、俺だけが、レベル1のままだった。というか…。


 「よっしょあ!見てろよお前ら!」

 俺は、目の前の魔物、ゴブリンを見つけて全速力で前進する。直剣をゴブリンの頭に叩きつけて、倒した。

 身体中に青く光る粒子が飛び交う。これがレベルアップの印だ。

 
 「よし、これで」

 レベルが2になったことが、感覚でわかる。青い粒子で分かるだけでなく、レベルを持つ人間は頭上の表示を見なくても、感覚で理解することができる。

 しかし。

 「あっ…」

 レベルが…

 1に戻った。

 「ぷっ、あはははは!!マジかよ!!どんな冗談だよ!!」

 「はあっ!ちょっ!なんでだあ!!」

 意味がわからない。

 今わかっていることは、俺はレベルがいくら上がろうが、しばらくすると1に戻ってしまう体質らしいということだ。


 「だらしねえな、カナト」

 毅然とした佇まいで、俺の前に立ったのは、小学校からのライバル、リョウだった。

 授業の中でも高ランクの魔物をたくさん狩ってきた証明として、頭上には『レベル10』を
乗せている。

 「リョウ、てめえには負けねえからな!」

 「諦めろって。怪我するぞ」

 「このやろ!」

 飛びかかる俺を、リョウが軽くいなす。その勢いで、体勢を崩した俺は、大木の幹に激突した。

 周りの人間たちの、ひそひそと話す声が聞こえる。

 「おお、さすがリョウ」

 「昔から喧嘩も強いし頭もいいし、基本なんでもできるやつだからなあ、こいつは。レベリングでもされたら逆転できると思ったのによお~。まさか、スキル診断で強度の『氷エレメント』の使い手だったんて、マジですげえよ。」

 「それに対して、あいつは…。ガタイも頭も平均的なのに、いつもリョウに突っかかってコテンパンにやられてたもんな。スキル診断の結果だって、地味で弱そうな、『回避』だろ?」

 「ウケるよな~。こいつとはたまに遊んでたけど、俺もう遊ぶのやめるわ。落ちこぼれとつるんでるなんて、だせえし」
 
 『レベリング式典』から、リョウはライバルじゃなくなり、今までつるんでいた仲間とも次第に疎遠になった。


 落ちこぼれの始まり。





 昼休みは、食堂の隅でご飯を食べていた。

 入学当初は、小学校からのやつらと4人グループで食ってたのにな。

 どうして、レベルが1のままってだけで離れていくんだろう。

 みんな結局、自分の価値のために人を選んでいるんだ。

 周りを見渡せば、はっきり分かる。レベルの高い集団の塊とそうでない塊、異性にも人気のありそうなやつらとそうでないやつら。

 明るいやつらは暗いやつらとは付き合いたがらない。自分が根暗に見られるかもしれないから。
 
 レベルの高いやつらは俺のようなレベル1とは付き合いたがらない。自分が低レベルの雑魚に見られるかもしれないから。

 そんなことをぼんやりと考えていると、視界の隅にご飯を入れたトレーが置かれるのを確認できた。

 「よっ!」

 そうやって、中肉中背の俺の背中を軽く叩く。

 見慣れた顔だ。

 黒髪にはっきりと見開いた両目。整った顔立ち。女子なのに俺に届きそうな身長。第一印象は絶対と言っていいくらい、しっかり者と称されるほど、しっかりとした印象。

 ミツキだ。

 物心ついたときからお幼馴染で、家も近いことから、近くの公園でよく遊んでいた。

 「なあに、ショボくれた顔してんの、カナト。また、リョウに負けたの?」

 俺たち3人は、小学校も一緒だったから、俺がリョウとよくやり合ってることも、もちろん知っている。
 リョウに負けた後、悔しがる俺を、茶化しながらもこうやって隣にいてくれる。

 「負けてねえよ」

 強がるのも、いつものことだ。

 「でも、リョウって、ホントにすごいよね。レベリングしてからも相変わらずエリートなんだから。他のやつらも、レベリングしてから見返してやろうと思ってただろうけど、残念ながら、敵わないね」

 「ああ、でも、俺は絶対負けねえから」

 「うん、あとさ、リョウは『生徒会』の人に声かけられたみたいよ。カナトも知ってるよね?スキルの素質を評価された生徒だけが選抜される、学校でも最強の実力と権限を持つ機関。」

 うん、と相槌を打つ。

 『生徒会』は俺ももちろん知ってる。ミツキの言う通り、最強の実力と権限を持つ。発足してから10年余が経った今では、勢力が高く教師たちとほとんど対等な力関係にあるらしい。そして、リョウのような、入ったばかりの一年生を勧誘するのは異例中の異例で、認めたくないけど、あいつは、そんな最強の機関にも期待されているみたいだ。

 「本当にすごいよ。」

 そう言い放つ彼女の表情から、本心でそう言っているのがよく分かった。

 「俺だって、いつかは生徒会に入ってやる、ていうかむしろ、超えてやるよ」

 「そんなの、無理だって。やっぱり、リョウだけは別格だよ。ああいうのを天才っていうんだね」

 「あいつが天才? 大袈裟だろ」

 「いや、大袈裟なんかじゃなくて、本当だよ。リョウは、すごい」
 なんだよ、それ。

 こいつも、いつもリョウのことばっかり。

 昔だって、そうだった。3人でいるときはリョウにばっかり話しかけて、俺と2人でいるときもリョウの話が中心になる。

 ミツキも、女の子なのにケンカが強く、勉強もリョウ以上にできていた。そして、レベリングされた今では、強度の『風エレメント』の使い手。

 リョウだけじゃない、生徒会に目をつけられているのは。

 ミツキも、彼らからの期待値が高いことを、噂で知った。

 どうして、俺だけが、弱いんだろう。

 3人でいるときだって、比べられてきた。なんでこの2人にタケルがいるのか、場違いだ、引き立て役だ、などと言われてきた。

 だから、ある日を境に2人に会うのはやめた。


 「ごちそうさま。先に教室戻るから」

 俺は、そう言って、ミツキの元から離れた。

 知ってたんだ。

 ミツキが、リョウに惚れていることを。

 そして、分かってた。

 俺が、ミツキに惚れていることを。だから、リョウに勝ちたかった。


 クソッ。

 勝ってやる。

 俺のことを馬鹿にするやつらも、『生徒会』も、リョウも。

 トレーを返却スペースに半ば叩きつけるように置いて、拳を握りしめたまま、教室へ帰った。




 リョウとミツキが生徒会に入会したことを、1週間後の全校集会で知った。

 壇上に立つ、生徒会のメンバーとその少し前に立つ2人。

 2人と同じくらい前に立った、生徒会長が、入学して間もない1年を入会した経緯を説明する。

 「みなさん、おはようございます。この度は、我々、生徒会に新たな仲間が加わりました。彼ら2人は、みなさん知っての通り入学してきたばかりの1年生で、戸惑っている方も多いでしょう。しかし、私、いや、私どもは彼らの可能性、将来性を信じることにしました。レベリングして間もない1年生にして、10を超えるレベル。スキルの素質。当会への勧誘以前に彼らの実力そのものが異例であると言えます。」

 リョウに対する評価は、噂で聞くのよりも、直接目にする方がずっと悔しい。

 会長が続ける。

 「この国を支える『双極の結界塔』。魔物の侵入を防ぐ『抗魔塔』と、電気やガスなどの生活に必要な資源が貯蓄されている『生命塔』。先月、この二塔のうちの一つ、『抗魔塔』が破壊された事件から、残る『生命塔』を守る指令が、われわれ生徒会に下りました。それにあたって、生徒会は学校の風紀のみならず外部の活動にも力を入れるべく、彼ら2人を当会に招きました。国の中枢である塔の護衛。1年生には荷が重いことだとは承知ですが、会自体が新たな活動ということもあり、内容を後代に引き継げるように、今のうちに、実力のある1年生に経験を積ませたいという結論に至りました。」

 この国を支えてきた『双極の結界塔』の1つ、『抗魔塔』が破壊された事件以来、多くの魔物がこの国に侵入してきた。『抗魔塔』があったときと無かった時では、国内の魔物の個体数の差が一目瞭然で、だから彼らが新戦力としてリョウとミツキを引き抜いたのだろう。

 その一方で、俺は選ばれなかった。

 俺は、壇上で持て囃される幼馴染2人を、ただ呆然と眺めることしか出来なかった。




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