目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい

そよら

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PHASE 03|通達

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 零式戦域群ぜろしきせんいきぐん/第七作戦会議室

 白倉は端末を操作し、
 投影設定を確認してから一歩下がった。

「では、始めます」

 照明が落とされ、卓上に淡い光が浮かぶ。
 国境線と数値だけが、静かに切り替わった。

 蓮は椅子にもたれ、腕を組んだまま前を見た。
 正面の席には、隊の面々が揃っている。

「昨日中央戦略府で行われた、会議の共有だ。
 必要事項だけ伝える」

 白倉が端末に触れ、
 投影が一枚、切り替わった。

「今回、半自律型支援兵装の導入が決まった」

 蓮の視線を受けて冴木が立ち上がり、説明を引き継ぐ。

「支援は基本的には、判断補助までだから。
 最終決定は、人間側に委ねることになるから注意して」

 冴木が言葉を切ると同時に、ひとり、手が挙がった。

 白倉が端末から視線を上げる。

「機動部隊、羽柴一葉はしばかずは軍曹どうぞ」

 短い栗色の髪に、片耳のピアス。
 機動部隊の若い兵が、視線を冴木に向けたまま手を挙げている。

「要するにAI搭載型っすよね。即実戦投入っすか」

「予定ではね」

「現物も見てないのに?」

 羽柴は眉をわずかに上げ、前のめりに冴木に問い返した。

「実機はもう届いてるはずだよ。この会議が終わったら、全員、武器庫で軽く触ってもらう。実機テストを兼ねた体験、ってとこかな」

 冴木は肩をすくめ、椅子の背に体重を預けた。

 白倉が一歩前に出る。

「他に質問がなければ、
 続いて桐生隊長より、次期任務の概要に入ります」

 蓮は姿勢を崩さず、正面を見る。

「国境接触域希少資源レアアース帯で、
 外国部隊の侵入が確認されている」

 投影が切り替わり、帯状の区域が赤いラインで強調される。

「狙われてるのは資源帯そのものだ」

 蓮の声から、余計な温度が消えた。

「零域が出る」

 遅れて、照明が戻る。
 卓上の淡い光が消え、投影されていた映像が静かに引いていく。

 端末を閉じる音がいくつか重なり、
 隊員たちは順に席を立っていった。

 人の気配が途切れ、
 会議室に二つの気配が残る。

 冴木も端末を抱え、扉の方へ向かった。
 その背中に、

「おい」

 短く、低い声が沈んだ。

「なに?」

 冴木の足が止まる。

「どうかした」

「いや、」

 蓮は視線を逸らしたまま、短く息を吐く。

「ふうん」

 冴木はそう言って、踵を返しかけた足を止めた。

「臆病者」

「誰が」

「蓮が」

 蓮の視界に、薄茶色の髪がかかる。

 近い。

「言いたいことがあるなら、言えば」

 冴木は深く瞬きをして、口元を緩めた。

 誘うみたいな、軽い笑み。

「その顔、やめろ」

「どの顔?」 

 問い返しながら、さらに一歩、間合いを削る。

「前の部署で使ってた顔、嫌いだよね」

 一瞬だけ、冴木の視線が揺れた。

「やめろ、命令だ」

 視線を向けられただけで、絡め取られそうになる。

 そういう種類の、美しさ。

「聞きたいことがあるなら、聞けば」

 冴木は楽しそうに首を傾げる。

「俺は……」

 口をついて出た声は、思ったより低く響いた。

「俺は、何をした」

 冴木は一瞬だけ目を伏せ、すぐに視線を戻す。

 「気にしなくていいよ」

 軽い調子のまま、言葉を継いだ。

 「ああいうの、慣れてるから」

 そのひと言に、胸の奥が冷えた。

 守る側にいるつもりでいたのに、同じ場所に立たされた気がした。

 考えるより先に、距離が消えていた。

 蓮は華奢な肩を掴んだまま一歩踏み込み、冴木の背中を壁に押しつける。

 「他のやつと、一緒にするな」

 声が落ちた拍子に、肩を掴む指が深く食い込む。

 冴木が顔を上げ、視線が正面からぶつかった。

 「じゃあ」

 切り替えた時の感情のない目で、見上げてくる。

 「どう違うって言うの?」

 喉の奥で、呼吸が震えた。

 掴んだままの指先に、余計な力が入り、爪が布越しにまた強く食い込む。

 「責められる理由、ないと思うけど」

 割り切ったような、平坦な声。

「離せば」

 その一言で、指が解けた。

 冴木は一歩退き、背を向けかけて動きを止める。

 刹那、距離が詰まった。 

 冴木は唇を寄せ、触れるだけで離れた。

「……冴木」

「実機テスト、遅れないでね。隊長」

 いつもと変わらない声を残し、会議室を出ていく。

 蓮は力の抜けた手で、唇を拭った。

 触れたか触れないか分からない感触は、消えなかった。

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