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PHASE 04|実機試験
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──零域・第三武器庫奥
届いたばかりの金属ケースに、次々と解除音が走る。
封印が外れ、留め具が順に外されると、新兵器の半自律型支援兵装の実機が姿を現した。
「派手だな」
冴木の隣で、低い声が落ちた。
鍛えられた体躯を壁に預け、火のついた煙草を指先で弾く。
「相変わらず、金かかってんな」
「陸戦近接部隊は、こういうの好きでしょ」
「違わねぇ」
短く返して、陸戦近接部隊副隊長・緋堂鷹臣は笑う。
「蓮が頑張って予算取ってきたからね」
「ああ、なるほどな」
緋堂は煙草を咥え直し、冴木を横目で見る。
「お前、桐生隊長となんかあったろ」
「さぁね」
冴木は手を伸ばし、緋堂の煙草を指で挟んで抜き取る。
「タイプじゃないし」
そのまま吸い、何でもない顔で煙を吐いた。
「よく言うぜ」
「二十代で隊長、副官が何人も逃げる真面目な堅物。最初から対象外だし」
緋堂は新しい煙草に火をつけ、肩越しに笑う。
「それでよく続いてるな、お前」
冴木は慣れた動きで煙を吸い込み、ゆっくり吐いた。
「だって務まるの、俺くらいじゃない?」
緋堂が小さく鼻で笑う。
「物好きだな」
冴木は静かに、煙草の火を落とした。
煙草の火が、コンクリートに押しつけられて消える。
「蓮、煙草の匂い嫌いなんだった」
「お前、分かっててやってるだろ」
緋堂が肩をすくめる。
「なぁ、久しぶりに、今夜、部屋来るか」
「うーん、どうしようかなぁ」
「アカデミーからの腐れ縁だ、今さら、距離感も何もねぇだろ」
「まぁね、じゃあ、今夜」
「その返事は違います!!」
間に割って入った声に、冴木が振り返る。
タブレット端末を抱えた白倉が、眉を寄せてそこにいた。
「このあと実機テストです。副官が抜けてどうするんですか」
「えー、終わってからだよ、白倉くん」
「終わってからも困ります」
白倉は視線をひとつ横にずらして、続けた。
「それと、緋堂中尉。この隊で、余計な火種は作らないでください」
端末を抱え直してから、静かに言う。
「隊長は、余計な刺激を好みません」
「へぇ。白倉くん、蓮のなにを知ってんの」
言い終わる前に、背後の空気が変わった。
「俺が、なんだって?」
通路の影に立っていた蓮は、軍服の襟元を正しく留め、無駄のない立ち姿で倉庫の灯りを遮っていた。
白倉が言葉を飲み込むのが、視界の端でわかった。
緋堂は、指に挟んでいた煙草を足元に弾いて落とす。
「来い」
短く落とされた声に、冴木が目を細める。
「命令?」
「あぁ、命令だ。実機の説明と、テスト始めるぞ」
伸びた手が、何も告げないまま冴木の手首を掴みかけ、触れないまま離れた。
それ以上は言わず、蓮は歩き出す。
「さっきの、聞いてた?」
歩調を合わせたまま問う。
「盗み聞きなどしない」
「ふうん」
*
ケースが開ききった瞬間、隊員たちが一斉に沸いた。
沈んだ音を立てて、兵装ケースから複数の半自律型支援兵装がせり出してくる。
「軽いな」
短銃身のライフルが手に取られ、続けて、装填音がいくつも重なり、倉庫に乾いた金属音が重なり合う。
冴木も蓮の隣で、接近戦用の短刃ブレードを手に取る。
刃を抜かず、重さだけを確かめてから、グリップを握り直した。
白倉が端末を確認し、蓮の方を見た。
「今回のテストですが、想定では実際に対戦形式で行います」
「なら、」
蓮はライフルを戻し、一歩前に出る。
「俺がやろう」
白倉は一瞬、言葉に詰まった。
「隊長が、ですか」
「問題あるか」
「いえ」
短く息を整えてから、白倉は倉庫内に向けて声を張る。
「では、実戦テストを行います。隊長が相手役です。名乗り出る方はいますか」
空気が張りつめた直後、勢いよく手が挙がった。
「はい!はいはい!!」
前に飛び出たのは羽柴一葉だった。
短く刈った栗色の髪に、片耳のピアスが光る。
「俺、行きます!!」
「では、実戦テスト。相手は機動部隊、羽柴一葉軍曹」
冴木はケースの中を覗き込みながら、短く笑った。
「どうしたの。隊長自ら試す気?」
言いながら、冴木は短銃身のライフルを一本引き抜く。
軽く構え、重さだけ確かめて、また戻した。
蓮は別のケースから同型の一丁を取る。
「たまにはいいだろう」
「誰か叩きのめしたい気分にでもなった?」
蓮の視線は揺るがない。
「お前、喋りすぎだ」
安全装置を外しながら、淡々と言葉を落とす。
「人間は、感情を隠したい時ほどよく喋る」
冴木は一瞬だけ瞬きをして、すぐに笑った。
「それ、皮肉?」
「事実だろ」
「これ、終わったらもう一回話す?」
「何をだ」
「会議室の、途中で切れたやつ」
「……」
装填音が一度、倉庫に響いた。
短銃身のライフルを肩口に添え、蓮は一歩、前に出る。
対峙する距離まで歩み出た羽柴が、無意識に息を整えた。
「相手、隊長だぞ」
「終わるの早そうだな」
冷やかす声が混じり、誰かが小さく笑う。
「非致死判定。有効照準が入った時点で終了です」
白倉の声が、静かな倉庫に通る。
「開始!!」
羽柴が一気に踏み込む。
床を蹴る音が弾けた。
同時に、蓮が動く。
半歩だけ位置をずらし、肩に添えたライフルの角度を修正する。
引き金は引かない。
照準だけが、正確に滑った。
ポインターが、羽柴の胸部を捉える。
羽柴は反射的に身を捻ろうとして、静止する。
次の動作に移る前に、即勝負が終わっていた。
「終了。有効照準、確認」
白倉が即座に告げる。
張りつめていた空気が、ふっと緩んだ。
「お疲れ、羽柴」
「瞬殺だったな」
「度胸だけは賞賛に値するな」
周囲から、笑い混じりの声が飛ぶ。
「次、誰か行くか」
誰かが半分冗談みたいに言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、俺が相手しようか」
ざわめき途切れ、武器庫内の空気が締まる。
上がったのは、その場の誰よりも細く見える手首。
視線が、その人物に集まる。
冴木は手を挙げたまま、口元を緩め、蓮を見ていた。
届いたばかりの金属ケースに、次々と解除音が走る。
封印が外れ、留め具が順に外されると、新兵器の半自律型支援兵装の実機が姿を現した。
「派手だな」
冴木の隣で、低い声が落ちた。
鍛えられた体躯を壁に預け、火のついた煙草を指先で弾く。
「相変わらず、金かかってんな」
「陸戦近接部隊は、こういうの好きでしょ」
「違わねぇ」
短く返して、陸戦近接部隊副隊長・緋堂鷹臣は笑う。
「蓮が頑張って予算取ってきたからね」
「ああ、なるほどな」
緋堂は煙草を咥え直し、冴木を横目で見る。
「お前、桐生隊長となんかあったろ」
「さぁね」
冴木は手を伸ばし、緋堂の煙草を指で挟んで抜き取る。
「タイプじゃないし」
そのまま吸い、何でもない顔で煙を吐いた。
「よく言うぜ」
「二十代で隊長、副官が何人も逃げる真面目な堅物。最初から対象外だし」
緋堂は新しい煙草に火をつけ、肩越しに笑う。
「それでよく続いてるな、お前」
冴木は慣れた動きで煙を吸い込み、ゆっくり吐いた。
「だって務まるの、俺くらいじゃない?」
緋堂が小さく鼻で笑う。
「物好きだな」
冴木は静かに、煙草の火を落とした。
煙草の火が、コンクリートに押しつけられて消える。
「蓮、煙草の匂い嫌いなんだった」
「お前、分かっててやってるだろ」
緋堂が肩をすくめる。
「なぁ、久しぶりに、今夜、部屋来るか」
「うーん、どうしようかなぁ」
「アカデミーからの腐れ縁だ、今さら、距離感も何もねぇだろ」
「まぁね、じゃあ、今夜」
「その返事は違います!!」
間に割って入った声に、冴木が振り返る。
タブレット端末を抱えた白倉が、眉を寄せてそこにいた。
「このあと実機テストです。副官が抜けてどうするんですか」
「えー、終わってからだよ、白倉くん」
「終わってからも困ります」
白倉は視線をひとつ横にずらして、続けた。
「それと、緋堂中尉。この隊で、余計な火種は作らないでください」
端末を抱え直してから、静かに言う。
「隊長は、余計な刺激を好みません」
「へぇ。白倉くん、蓮のなにを知ってんの」
言い終わる前に、背後の空気が変わった。
「俺が、なんだって?」
通路の影に立っていた蓮は、軍服の襟元を正しく留め、無駄のない立ち姿で倉庫の灯りを遮っていた。
白倉が言葉を飲み込むのが、視界の端でわかった。
緋堂は、指に挟んでいた煙草を足元に弾いて落とす。
「来い」
短く落とされた声に、冴木が目を細める。
「命令?」
「あぁ、命令だ。実機の説明と、テスト始めるぞ」
伸びた手が、何も告げないまま冴木の手首を掴みかけ、触れないまま離れた。
それ以上は言わず、蓮は歩き出す。
「さっきの、聞いてた?」
歩調を合わせたまま問う。
「盗み聞きなどしない」
「ふうん」
*
ケースが開ききった瞬間、隊員たちが一斉に沸いた。
沈んだ音を立てて、兵装ケースから複数の半自律型支援兵装がせり出してくる。
「軽いな」
短銃身のライフルが手に取られ、続けて、装填音がいくつも重なり、倉庫に乾いた金属音が重なり合う。
冴木も蓮の隣で、接近戦用の短刃ブレードを手に取る。
刃を抜かず、重さだけを確かめてから、グリップを握り直した。
白倉が端末を確認し、蓮の方を見た。
「今回のテストですが、想定では実際に対戦形式で行います」
「なら、」
蓮はライフルを戻し、一歩前に出る。
「俺がやろう」
白倉は一瞬、言葉に詰まった。
「隊長が、ですか」
「問題あるか」
「いえ」
短く息を整えてから、白倉は倉庫内に向けて声を張る。
「では、実戦テストを行います。隊長が相手役です。名乗り出る方はいますか」
空気が張りつめた直後、勢いよく手が挙がった。
「はい!はいはい!!」
前に飛び出たのは羽柴一葉だった。
短く刈った栗色の髪に、片耳のピアスが光る。
「俺、行きます!!」
「では、実戦テスト。相手は機動部隊、羽柴一葉軍曹」
冴木はケースの中を覗き込みながら、短く笑った。
「どうしたの。隊長自ら試す気?」
言いながら、冴木は短銃身のライフルを一本引き抜く。
軽く構え、重さだけ確かめて、また戻した。
蓮は別のケースから同型の一丁を取る。
「たまにはいいだろう」
「誰か叩きのめしたい気分にでもなった?」
蓮の視線は揺るがない。
「お前、喋りすぎだ」
安全装置を外しながら、淡々と言葉を落とす。
「人間は、感情を隠したい時ほどよく喋る」
冴木は一瞬だけ瞬きをして、すぐに笑った。
「それ、皮肉?」
「事実だろ」
「これ、終わったらもう一回話す?」
「何をだ」
「会議室の、途中で切れたやつ」
「……」
装填音が一度、倉庫に響いた。
短銃身のライフルを肩口に添え、蓮は一歩、前に出る。
対峙する距離まで歩み出た羽柴が、無意識に息を整えた。
「相手、隊長だぞ」
「終わるの早そうだな」
冷やかす声が混じり、誰かが小さく笑う。
「非致死判定。有効照準が入った時点で終了です」
白倉の声が、静かな倉庫に通る。
「開始!!」
羽柴が一気に踏み込む。
床を蹴る音が弾けた。
同時に、蓮が動く。
半歩だけ位置をずらし、肩に添えたライフルの角度を修正する。
引き金は引かない。
照準だけが、正確に滑った。
ポインターが、羽柴の胸部を捉える。
羽柴は反射的に身を捻ろうとして、静止する。
次の動作に移る前に、即勝負が終わっていた。
「終了。有効照準、確認」
白倉が即座に告げる。
張りつめていた空気が、ふっと緩んだ。
「お疲れ、羽柴」
「瞬殺だったな」
「度胸だけは賞賛に値するな」
周囲から、笑い混じりの声が飛ぶ。
「次、誰か行くか」
誰かが半分冗談みたいに言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、俺が相手しようか」
ざわめき途切れ、武器庫内の空気が締まる。
上がったのは、その場の誰よりも細く見える手首。
視線が、その人物に集まる。
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