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3.勇者
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アルシア奪還戦は短期間で終結した。
敵側の主力が不在だったことも大きいが、的確な偵察でそれを察し陽動と内部撹乱で早期壊滅に追い込んだ。見事な手腕と迅速な勝利に国は沸き返った。
こちら側の犠牲者は少数。
死の国側はほぼ壊滅。
そしておそらくむこうの想定より早い陥落に違いない。
領土奪還は時間の問題となった。
今回の功績で祖国の英雄、故郷奪還の立役者として祭り上げられた。
後日シバルス城塞で凱旋パレードが催された。
笑顔が溢れ、兜の中にまで歓声がこだまする。
群衆は熱狂に包まれていた。
自分に向けられる大量の視線。
まるでボクをみんなでよってたかって串刺しにしているかのようだ。
いっそ皆殺しにして平穏を得ようかと本気で考えてしまうぐらい耐え難い。
ボクは必死に自制して空を仰ぎ、このセレモニーが早く終わることを祈った。
***
春が訪れ、命が芽吹く頃。
ついに領土奪還を果たし、シの国へ逆侵攻するまでになった。
やっとだ。
やっと奴らの故郷を襲える。
兵隊どもだけではない。
村も、街もすべて破壊し、住人は皆殺しだ。
自分たちがやったことを思い知るがいい。
充分な準備を終え、いよいよシの国への侵攻が開始された。
いざ進軍を開始したものの国境付近は無人地帯だった。
斥候の報告によると敵は戦力を王都付近へ集中したのか辺境は放棄された様子。
見捨てられた辺境の村は哀れだった。
…白旗をあげて、降伏するつもりらしい。
バカにするんじゃない。
ボクたちには降伏の機会さえなかった。
沸き立つ憎悪が抑えられない。
「ボクが先に村に入る。
火の手があがったら村を囲め。
逃げ出してきた奴らはひとり残らず殺せ。
女は好きにしていいが、必ず殺せ。
以上だ」
ゆっくりと歩いて村に入ってやった。
怯え張り詰めた空気を感じる。
いいざまだ。
村の長らしいがっしりした体格の中年男性が出迎えた。
震えを隠し、気丈に振る舞っている。
「年頃の女を全員集めろ。
我らの陣地でかわいがってやる。
あとの者はこの場で皆殺しだ。
安心しろ、女もあとからお前たちを追う。ひとり残らずだ。保証しよう。
そう…オレは義理堅いんだ」
お前たちはいいよな、と思う。
こうやって会話をし、覚悟を決める時間が持てるのだから。
ボクは慈悲深い。
ヒュッ!
空気を切る音がした。
兜に矢が当たる。
避けてもよかったが、そのまま当たってあげた。
ちょっとした気まぐれだ。
ガインッ!
勢いよく当たり、矢が跳ねた。
「勇気のある無謀者がいるようだ。出てこい」
腕前は確かだった。
ボクでなければ射抜かれて即死だったに違いない。
少し待ったが動きがないので、村長の腕を切り落とした。
ボクがちょっと本気で動けば、常人では何が起こったのか理解でない。
気がつけば腕が落ち、ボクの剣が抜刀されていた、という感じだろう。
「出てくるまで続ける」
言うなり、もう片方の腕も切り飛ばした。
男は両腕を失い、ショックで崩れ落ちた。
みるみる血の海が広がる。
苦しみもがき、叫んで場を盛り上げて欲しかったが、あっさり気を失ったようだ。
ガタイの割につまらない男だった。
「もうやめろ!卑怯者!」
…目の前で死にゆく男の活躍には不満があったが、目的は果たせたようだ。
納屋の影から弓をつがえた青年が姿を現す。
勇ましいが声色に震えがある。
方向、距離から見て本人だろう。
「村は…オレが守る!勝負!」
弓を捨て、剣を抜き放って歩み寄る。
村の家々の窓から期待の眼差しが向けられる。
村一番の使い手なのだろうか。
鍛錬を積み、絞り込まれた肉体。
瞳を燃やし、まっすぐにボクを見据えている。
…その勇気が気に食わない。
ボクにはその無謀さがなかった。
手加減して切り刻んでやろうかと思っていたが、つい力が入りすぎた。
ロクに剣を交えることもなく彼は倒れた。
そうだ。
勇気を口にしたところで実力が伴わなければ無残な屍を晒すだけだ。
この青年のように。
若い女が駆け寄り、亡骸に伏して泣き崩れている。
この青年の恋人か。
ボクが怖くないのか、もう周囲が見えないのか。
うるさいので殺して静かにさせようかと思ったが、部下たちの楽しみを奪うものではないな、と思いなおす。
長が死に、勇者も死んだ。
もはや村をまとめて対話に応じる人物もなく、ボクに歯向かうものもいない。
呆気ないものだ。
適当な家を焼き払うことにする。
これで手はず通り部隊がなだれ込み、この村は終わる。
その日の晩にはだいたい想定通りの結末となった。
上官からは鮮やかな手並みと称賛されたが違う。
次はもっと慎重にやらなければ。
こんな手ぬるいやり方ではみんなの無念が晴れない。
ぼくたちの地獄は、こんなものではなかった。
出立時。
隠してあの女を連れていこうとした部下が居たので始末した。
例外はない。
「皆殺しと命じた。
楽しむのはよいが、命令には従え。
代わりはいくらでも手に入る。固執するな。
ボクらはシの国を根絶やしにしにきたのだ。ゆめゆめ忘れるな」
***
国境沿いの見捨てられた村々を滅ぼし、いよいよ地方主要都市バルザクスへと歩を進める。
ボクの故郷、アルシアのような立ち位置の街だ。
死の国侵攻の橋頭堡となるだろう。
無論、街の破壊は最小限に止め労働力などに従事させる住民は一定数残した方が有利に決まっている。
死の国の奴らは侵攻速度を優先するあまり街を壊滅させていたずらに兵站を伸ばし、防衛がままならず自滅に近い道を歩んだ。
この轍を踏まないほうがいいに決まっているが、司令部は兵士たちの意図を汲みとり殲滅戦と決めた。
兵士には村を焼かれ、家族を殺され復讐に燃える現地採用兵も多い。
このボクのように。
燃え盛る復讐心は小さな村を2つ3つ焼いただけではおさまらない。
わが祖国が受けた屈辱を味あわせる。
奴らは皆殺しにしてやる。
死を恐れぬ復讐鬼とかした兵士たちには殲滅戦こそがふさわしい。
とは言え、真正面からぶつかっては無駄に消耗するだけだ。
まずは出入りの隊商を襲いなりすまし部隊が潜入する。
内部から火を放ち、混乱に乗じて本隊が突撃を行う。
アルシア戦と酷似したこの作戦が骨子と定められた。
アルシアの時と違い、奇襲にならない。
潜入工作も警戒されるに違いない。
激しい抵抗が予想され、この一戦をどれだけ少ない損害で勝利できるかが今後の命運を別けることだろう。
ボクの分隊に命令が下る。
小回りの効く腕利き揃いを集め、なりすましのための隊商確保任務につく。
戦時中だけに警備も多いが問題にならない。
野営を襲い、警備兵を始末する。
数名殺せば言うことを聞く。
怯えながら引きつった笑顔で命乞いをし、なんでも差し出す。
かつてのボクがそうだったように。
しかし残念なことにバルザクスは籠城状態で出入り禁止。
急な措置らしく、おなじように途方に暮れた隊商がいくつもあるらしい。
この報を受け司令部は作戦を転換。
バルザクスに接近する隊商を皆殺しにし、城門前に山積みにすることとなった。
日増しに山は大きくなり、腐敗し、強烈な悪臭を放つようになる。
頃合いをみて簡易なカタパルトで投げ込みを開始。
戦意喪失と伝染病蔓延が目的だ。
急性な籠城では備蓄も満足でない可能性が高い。
敗戦続きで士気も低いと思われる。
しかし時間を稼がれると敵の大部隊が押し寄せてくる可能性もある。
こちらの兵站だって余裕があるわけではない。
このような消極的な手段に訴えている場合ではないだろう。
敵の対応に翻弄され、我軍は決め手を欠いていた。
そんなある日の深夜、攻城側のボクらが夜襲を受けた。
敵の増援だとパニックになり、放たれた火がさらに混乱に拍車をかける。
散々な犠牲を出し、敵兵を仕留め朝を迎えた。
尋問の結果、彼らは増援ではなく秘密の地下道から出撃した部隊らしい。
抜け道は複数存在するようで、夜襲にも警戒が必要になった。
苦しいはずだが指揮能力ではあちらに軍配が上がりそうだ。
2度目の夜襲を待っていた。
1度目の奴らの出現ポイン付近を捜索し、崩された出口を発見してある。
おそらくこれだけの軍勢を送り出す道だから道中は1本で複数の出口を用意しているに違いない。
いつ来るかもしれない敵襲に備えるのは容易ではなかった。
しかし、ついに地面を揺るがす足音を捉えた。
攻撃隊を待ち伏せで始末し、抜け道から逆潜入する。
通路は思いの外狭く大人数で突撃できない。先頭にはボクが立った。
歩いた距離から見て街外れに出たようだ。
2次攻撃隊か防戦隊か不明だが容赦なく斬り殺し進撃を続ける。狭い通路内でボクに敵うわけがない。
ボクの部隊が次々とトンネルを抜けて参戦し、戦線が広がる。
徐々に突入した部隊が増え、ついに火の手があがる。
煮え湯を飲まされ続けたうっぷんを晴らさんとばかりにボクらは殺しまくった。
一刻も早く城門を開放しなければならない。
とにかく主力軍を早く招き入れないとこの抜け道からの進軍だけではいずれ押し戻されてしまう。
しかし戦線が混乱しすぎて状況は誰も正確に把握できなかった。
正門への進軍は部下に任せ、ボクは単独行動に出た。
司令官を探して殺す、と伝えておいた。
ウソではない。
でもその前にやるべきことがある。
片っ端から井戸に毒を投げ入れてやった。
禁止されていたが、知ったことか。
ぼくらの、アルシアの苦しみを思い知るがいい。
その後はひとりの戦士として戦場を楽しんだ。
兵士も市民も関係ない。できるだけいたぶって殺す。
恐怖を与え、涙ながらに命乞いをさせ、じっくりと死を実感させる。
心の傷が癒えるのを感じる。
次々と火を放ち延焼させる。
男も女も老いも若いも家畜もみんな殺した。
ふと気づくと、遠巻きに部下たちがボクを見ていた。
「ああ、すまない。掃討に夢中になりすぎた。
指揮官を探して殺してくるよ」
微笑んでみたが兜で見えないな、と思った。
「大丈夫です。戦闘は終了しました。
敵軍指揮官は死亡し、残りは投降しました。
我軍の勝利であります」
ちょっと間があったが、部下の一人が進み出て報告してくれた。
そうか。
アルシアの無念晴らしに夢中になりすぎていたようだ。
「報告ありがとう。
では引き続き掃討を継続するよ」
はやく。
はやく続きをしなくては。
もっと殺してこのうずく心を落ち着かせたい。
悲鳴を天国のみんなに届けたい。
ボクは生存者を探して歩いた。
声が聞こえれば瓦礫の山から助け出し、そして殺した。
助け出せないときは油をまいて火を放った。
なぜか誰もボクに付いてこなかった。
ずっとひとりだった。
バルザクス攻防戦が終わり、仲間たちは変わってしまった。
どうしたのだろう。
あれだけ燃えていた復讐心はどこへ消えてしまったのか。
バルザクスは井戸も殺したしほぼ全域を焼き払ったのでもはや機能しない。
はずだったがどうも無事だった井戸が発見されたらしい。
城壁はほぼ無傷なので瓦礫を取り除きテントを張ることで野営よりはかなり安全な駐屯地となった。シの国侵攻の前線基地として再建する、と言った気が狂ったような発言もあった。
…話が違う。
投降者にも寛大な措置が下された。
…話が違う。
長引く戦乱に疲れた、と言った声さえ聞こえる。
故郷に戻りたい。愛する家族の元へ戻りたい。
そんな囁きが聞こえる。
領地分割による講和のうわささえある。
…違う。そうじゃない。
おかしなことになってきた。
もう復讐心は満たされたのか?
ボクはまだ心が空っぽのままだ。
今回の戦闘でも、進入路を発見し先陣を切り突破口を文字通り切り開いた。
我ながら目覚ましい活躍だと思う。
しかし表彰もなかった。
むしろみんながボクを避けているようにさえ思える。
講和を望む日和見主義者は臆病者だ。
臆病者は死ねばいい。
あいつらを根絶やしにするまで止まらない。
そう誓いあったではないか。
日増しに強くなるこの力があれば、成し遂げられる。
たとえボク一人でもやり遂げてみせる。
殺す。
ひとり残らず、殺す。
敵側の主力が不在だったことも大きいが、的確な偵察でそれを察し陽動と内部撹乱で早期壊滅に追い込んだ。見事な手腕と迅速な勝利に国は沸き返った。
こちら側の犠牲者は少数。
死の国側はほぼ壊滅。
そしておそらくむこうの想定より早い陥落に違いない。
領土奪還は時間の問題となった。
今回の功績で祖国の英雄、故郷奪還の立役者として祭り上げられた。
後日シバルス城塞で凱旋パレードが催された。
笑顔が溢れ、兜の中にまで歓声がこだまする。
群衆は熱狂に包まれていた。
自分に向けられる大量の視線。
まるでボクをみんなでよってたかって串刺しにしているかのようだ。
いっそ皆殺しにして平穏を得ようかと本気で考えてしまうぐらい耐え難い。
ボクは必死に自制して空を仰ぎ、このセレモニーが早く終わることを祈った。
***
春が訪れ、命が芽吹く頃。
ついに領土奪還を果たし、シの国へ逆侵攻するまでになった。
やっとだ。
やっと奴らの故郷を襲える。
兵隊どもだけではない。
村も、街もすべて破壊し、住人は皆殺しだ。
自分たちがやったことを思い知るがいい。
充分な準備を終え、いよいよシの国への侵攻が開始された。
いざ進軍を開始したものの国境付近は無人地帯だった。
斥候の報告によると敵は戦力を王都付近へ集中したのか辺境は放棄された様子。
見捨てられた辺境の村は哀れだった。
…白旗をあげて、降伏するつもりらしい。
バカにするんじゃない。
ボクたちには降伏の機会さえなかった。
沸き立つ憎悪が抑えられない。
「ボクが先に村に入る。
火の手があがったら村を囲め。
逃げ出してきた奴らはひとり残らず殺せ。
女は好きにしていいが、必ず殺せ。
以上だ」
ゆっくりと歩いて村に入ってやった。
怯え張り詰めた空気を感じる。
いいざまだ。
村の長らしいがっしりした体格の中年男性が出迎えた。
震えを隠し、気丈に振る舞っている。
「年頃の女を全員集めろ。
我らの陣地でかわいがってやる。
あとの者はこの場で皆殺しだ。
安心しろ、女もあとからお前たちを追う。ひとり残らずだ。保証しよう。
そう…オレは義理堅いんだ」
お前たちはいいよな、と思う。
こうやって会話をし、覚悟を決める時間が持てるのだから。
ボクは慈悲深い。
ヒュッ!
空気を切る音がした。
兜に矢が当たる。
避けてもよかったが、そのまま当たってあげた。
ちょっとした気まぐれだ。
ガインッ!
勢いよく当たり、矢が跳ねた。
「勇気のある無謀者がいるようだ。出てこい」
腕前は確かだった。
ボクでなければ射抜かれて即死だったに違いない。
少し待ったが動きがないので、村長の腕を切り落とした。
ボクがちょっと本気で動けば、常人では何が起こったのか理解でない。
気がつけば腕が落ち、ボクの剣が抜刀されていた、という感じだろう。
「出てくるまで続ける」
言うなり、もう片方の腕も切り飛ばした。
男は両腕を失い、ショックで崩れ落ちた。
みるみる血の海が広がる。
苦しみもがき、叫んで場を盛り上げて欲しかったが、あっさり気を失ったようだ。
ガタイの割につまらない男だった。
「もうやめろ!卑怯者!」
…目の前で死にゆく男の活躍には不満があったが、目的は果たせたようだ。
納屋の影から弓をつがえた青年が姿を現す。
勇ましいが声色に震えがある。
方向、距離から見て本人だろう。
「村は…オレが守る!勝負!」
弓を捨て、剣を抜き放って歩み寄る。
村の家々の窓から期待の眼差しが向けられる。
村一番の使い手なのだろうか。
鍛錬を積み、絞り込まれた肉体。
瞳を燃やし、まっすぐにボクを見据えている。
…その勇気が気に食わない。
ボクにはその無謀さがなかった。
手加減して切り刻んでやろうかと思っていたが、つい力が入りすぎた。
ロクに剣を交えることもなく彼は倒れた。
そうだ。
勇気を口にしたところで実力が伴わなければ無残な屍を晒すだけだ。
この青年のように。
若い女が駆け寄り、亡骸に伏して泣き崩れている。
この青年の恋人か。
ボクが怖くないのか、もう周囲が見えないのか。
うるさいので殺して静かにさせようかと思ったが、部下たちの楽しみを奪うものではないな、と思いなおす。
長が死に、勇者も死んだ。
もはや村をまとめて対話に応じる人物もなく、ボクに歯向かうものもいない。
呆気ないものだ。
適当な家を焼き払うことにする。
これで手はず通り部隊がなだれ込み、この村は終わる。
その日の晩にはだいたい想定通りの結末となった。
上官からは鮮やかな手並みと称賛されたが違う。
次はもっと慎重にやらなければ。
こんな手ぬるいやり方ではみんなの無念が晴れない。
ぼくたちの地獄は、こんなものではなかった。
出立時。
隠してあの女を連れていこうとした部下が居たので始末した。
例外はない。
「皆殺しと命じた。
楽しむのはよいが、命令には従え。
代わりはいくらでも手に入る。固執するな。
ボクらはシの国を根絶やしにしにきたのだ。ゆめゆめ忘れるな」
***
国境沿いの見捨てられた村々を滅ぼし、いよいよ地方主要都市バルザクスへと歩を進める。
ボクの故郷、アルシアのような立ち位置の街だ。
死の国侵攻の橋頭堡となるだろう。
無論、街の破壊は最小限に止め労働力などに従事させる住民は一定数残した方が有利に決まっている。
死の国の奴らは侵攻速度を優先するあまり街を壊滅させていたずらに兵站を伸ばし、防衛がままならず自滅に近い道を歩んだ。
この轍を踏まないほうがいいに決まっているが、司令部は兵士たちの意図を汲みとり殲滅戦と決めた。
兵士には村を焼かれ、家族を殺され復讐に燃える現地採用兵も多い。
このボクのように。
燃え盛る復讐心は小さな村を2つ3つ焼いただけではおさまらない。
わが祖国が受けた屈辱を味あわせる。
奴らは皆殺しにしてやる。
死を恐れぬ復讐鬼とかした兵士たちには殲滅戦こそがふさわしい。
とは言え、真正面からぶつかっては無駄に消耗するだけだ。
まずは出入りの隊商を襲いなりすまし部隊が潜入する。
内部から火を放ち、混乱に乗じて本隊が突撃を行う。
アルシア戦と酷似したこの作戦が骨子と定められた。
アルシアの時と違い、奇襲にならない。
潜入工作も警戒されるに違いない。
激しい抵抗が予想され、この一戦をどれだけ少ない損害で勝利できるかが今後の命運を別けることだろう。
ボクの分隊に命令が下る。
小回りの効く腕利き揃いを集め、なりすましのための隊商確保任務につく。
戦時中だけに警備も多いが問題にならない。
野営を襲い、警備兵を始末する。
数名殺せば言うことを聞く。
怯えながら引きつった笑顔で命乞いをし、なんでも差し出す。
かつてのボクがそうだったように。
しかし残念なことにバルザクスは籠城状態で出入り禁止。
急な措置らしく、おなじように途方に暮れた隊商がいくつもあるらしい。
この報を受け司令部は作戦を転換。
バルザクスに接近する隊商を皆殺しにし、城門前に山積みにすることとなった。
日増しに山は大きくなり、腐敗し、強烈な悪臭を放つようになる。
頃合いをみて簡易なカタパルトで投げ込みを開始。
戦意喪失と伝染病蔓延が目的だ。
急性な籠城では備蓄も満足でない可能性が高い。
敗戦続きで士気も低いと思われる。
しかし時間を稼がれると敵の大部隊が押し寄せてくる可能性もある。
こちらの兵站だって余裕があるわけではない。
このような消極的な手段に訴えている場合ではないだろう。
敵の対応に翻弄され、我軍は決め手を欠いていた。
そんなある日の深夜、攻城側のボクらが夜襲を受けた。
敵の増援だとパニックになり、放たれた火がさらに混乱に拍車をかける。
散々な犠牲を出し、敵兵を仕留め朝を迎えた。
尋問の結果、彼らは増援ではなく秘密の地下道から出撃した部隊らしい。
抜け道は複数存在するようで、夜襲にも警戒が必要になった。
苦しいはずだが指揮能力ではあちらに軍配が上がりそうだ。
2度目の夜襲を待っていた。
1度目の奴らの出現ポイン付近を捜索し、崩された出口を発見してある。
おそらくこれだけの軍勢を送り出す道だから道中は1本で複数の出口を用意しているに違いない。
いつ来るかもしれない敵襲に備えるのは容易ではなかった。
しかし、ついに地面を揺るがす足音を捉えた。
攻撃隊を待ち伏せで始末し、抜け道から逆潜入する。
通路は思いの外狭く大人数で突撃できない。先頭にはボクが立った。
歩いた距離から見て街外れに出たようだ。
2次攻撃隊か防戦隊か不明だが容赦なく斬り殺し進撃を続ける。狭い通路内でボクに敵うわけがない。
ボクの部隊が次々とトンネルを抜けて参戦し、戦線が広がる。
徐々に突入した部隊が増え、ついに火の手があがる。
煮え湯を飲まされ続けたうっぷんを晴らさんとばかりにボクらは殺しまくった。
一刻も早く城門を開放しなければならない。
とにかく主力軍を早く招き入れないとこの抜け道からの進軍だけではいずれ押し戻されてしまう。
しかし戦線が混乱しすぎて状況は誰も正確に把握できなかった。
正門への進軍は部下に任せ、ボクは単独行動に出た。
司令官を探して殺す、と伝えておいた。
ウソではない。
でもその前にやるべきことがある。
片っ端から井戸に毒を投げ入れてやった。
禁止されていたが、知ったことか。
ぼくらの、アルシアの苦しみを思い知るがいい。
その後はひとりの戦士として戦場を楽しんだ。
兵士も市民も関係ない。できるだけいたぶって殺す。
恐怖を与え、涙ながらに命乞いをさせ、じっくりと死を実感させる。
心の傷が癒えるのを感じる。
次々と火を放ち延焼させる。
男も女も老いも若いも家畜もみんな殺した。
ふと気づくと、遠巻きに部下たちがボクを見ていた。
「ああ、すまない。掃討に夢中になりすぎた。
指揮官を探して殺してくるよ」
微笑んでみたが兜で見えないな、と思った。
「大丈夫です。戦闘は終了しました。
敵軍指揮官は死亡し、残りは投降しました。
我軍の勝利であります」
ちょっと間があったが、部下の一人が進み出て報告してくれた。
そうか。
アルシアの無念晴らしに夢中になりすぎていたようだ。
「報告ありがとう。
では引き続き掃討を継続するよ」
はやく。
はやく続きをしなくては。
もっと殺してこのうずく心を落ち着かせたい。
悲鳴を天国のみんなに届けたい。
ボクは生存者を探して歩いた。
声が聞こえれば瓦礫の山から助け出し、そして殺した。
助け出せないときは油をまいて火を放った。
なぜか誰もボクに付いてこなかった。
ずっとひとりだった。
バルザクス攻防戦が終わり、仲間たちは変わってしまった。
どうしたのだろう。
あれだけ燃えていた復讐心はどこへ消えてしまったのか。
バルザクスは井戸も殺したしほぼ全域を焼き払ったのでもはや機能しない。
はずだったがどうも無事だった井戸が発見されたらしい。
城壁はほぼ無傷なので瓦礫を取り除きテントを張ることで野営よりはかなり安全な駐屯地となった。シの国侵攻の前線基地として再建する、と言った気が狂ったような発言もあった。
…話が違う。
投降者にも寛大な措置が下された。
…話が違う。
長引く戦乱に疲れた、と言った声さえ聞こえる。
故郷に戻りたい。愛する家族の元へ戻りたい。
そんな囁きが聞こえる。
領地分割による講和のうわささえある。
…違う。そうじゃない。
おかしなことになってきた。
もう復讐心は満たされたのか?
ボクはまだ心が空っぽのままだ。
今回の戦闘でも、進入路を発見し先陣を切り突破口を文字通り切り開いた。
我ながら目覚ましい活躍だと思う。
しかし表彰もなかった。
むしろみんながボクを避けているようにさえ思える。
講和を望む日和見主義者は臆病者だ。
臆病者は死ねばいい。
あいつらを根絶やしにするまで止まらない。
そう誓いあったではないか。
日増しに強くなるこの力があれば、成し遂げられる。
たとえボク一人でもやり遂げてみせる。
殺す。
ひとり残らず、殺す。
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邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
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