6 / 21
赤ずきんの事情①
しおりを挟む
それからもメイジーはジャックに何度も道を選ばせた。ジャックの選択に黙って従い、枝を払って進む後ろをついてくる。先程までの怯えはどこへやら、ジャックのベストを掴み、首を伸ばして覗き込んでくる。橙に近い琥珀の瞳を輝かせ、赤い唇をもむもむと動かしていた。
ジャックは苦笑いをして見下ろす。
「いくら珍しいからって見過ぎだろ」
「ジャックは面白いな。お前のような奴はそういないだろう?」
「別に面白くねぇし、いっくらでもいるよ。まあ、お眼鏡にかなったんなら良かったけどな。俺は合格なんだろ?」
「なぜそう思う?」
ジャックは払った枝を放りながら答えた。
「最初の道以外は、全部メイジーが教えてくれたようなもんだろ」
右か左かと問いながら、メイジーはどちらか一方に視線を定めていた。ジャックはそれを追えばよかったのである。
「私はジャックが気に入った」
「そうかよ」
ジャックは後頭部を掻いた。獣を撃って捌く生業をしているが、元々動物には懐かれる質だ。しかし、女に好かれたためしはない。臭いだのもっさりしているだのと嫌われる。しかし、この少女はジャックの匂いを悪くないと言う。自分よりよほど変わっていると思う。
こんな森深くで人と接することもなく暮らしているのだから、メイジーは獣に近いのかもしれない。動きも俊敏だし、絶えず鼻をひくひくと動かしている。
「なんだか犬ころみてぇだな。しっぽをぶんぶん振っているのが見えるようだぜ」
「しっぽは……ついてない」
「当たり前だろ。例えだ」
「それじゃあジャック、人と獣の違いはどこだと思う?」
背後から投げかけられた問いに、ジャックは即座に返す。
「なんだぁ? なぞなぞか? 考えるのは苦手だって言ったろうが」
「獣だっていっぱい種類がいるのに、ひとくくりにして人間と区別されるのはどうしてだろうなぁ」
脇の下から顔を出して見上げる少女に、ジャックは「知らねぇ」と素っ気なく答えた。メイジーは鼻の付け根に皺を寄せる。
「大人なのに答えられないのか」
「大人にも色々いるんだよ。てか、大人がなんでも知っていると思ったら大間違いだ」
「それはそうだな」
メイジーはすんなりと納得し、歯を見せていひひと笑った。
よく見れば可愛い顔をしているが、やはりどこか普通ではない。肉付きの薄い身体にひび割れた肌。忙しなく動く瞳。頭巾からはみ出した金色の髪はまるで手帚のようにぼさぼさで油気がない。
彼女が荒んだ生活を強いられていることは、あきらかに見て取れる。年頃の少女特有の媚びを売るような目つきやあざとい仕草も、メイジーは知らないのだろう。
ジャックは苦笑いをして見下ろす。
「いくら珍しいからって見過ぎだろ」
「ジャックは面白いな。お前のような奴はそういないだろう?」
「別に面白くねぇし、いっくらでもいるよ。まあ、お眼鏡にかなったんなら良かったけどな。俺は合格なんだろ?」
「なぜそう思う?」
ジャックは払った枝を放りながら答えた。
「最初の道以外は、全部メイジーが教えてくれたようなもんだろ」
右か左かと問いながら、メイジーはどちらか一方に視線を定めていた。ジャックはそれを追えばよかったのである。
「私はジャックが気に入った」
「そうかよ」
ジャックは後頭部を掻いた。獣を撃って捌く生業をしているが、元々動物には懐かれる質だ。しかし、女に好かれたためしはない。臭いだのもっさりしているだのと嫌われる。しかし、この少女はジャックの匂いを悪くないと言う。自分よりよほど変わっていると思う。
こんな森深くで人と接することもなく暮らしているのだから、メイジーは獣に近いのかもしれない。動きも俊敏だし、絶えず鼻をひくひくと動かしている。
「なんだか犬ころみてぇだな。しっぽをぶんぶん振っているのが見えるようだぜ」
「しっぽは……ついてない」
「当たり前だろ。例えだ」
「それじゃあジャック、人と獣の違いはどこだと思う?」
背後から投げかけられた問いに、ジャックは即座に返す。
「なんだぁ? なぞなぞか? 考えるのは苦手だって言ったろうが」
「獣だっていっぱい種類がいるのに、ひとくくりにして人間と区別されるのはどうしてだろうなぁ」
脇の下から顔を出して見上げる少女に、ジャックは「知らねぇ」と素っ気なく答えた。メイジーは鼻の付け根に皺を寄せる。
「大人なのに答えられないのか」
「大人にも色々いるんだよ。てか、大人がなんでも知っていると思ったら大間違いだ」
「それはそうだな」
メイジーはすんなりと納得し、歯を見せていひひと笑った。
よく見れば可愛い顔をしているが、やはりどこか普通ではない。肉付きの薄い身体にひび割れた肌。忙しなく動く瞳。頭巾からはみ出した金色の髪はまるで手帚のようにぼさぼさで油気がない。
彼女が荒んだ生活を強いられていることは、あきらかに見て取れる。年頃の少女特有の媚びを売るような目つきやあざとい仕草も、メイジーは知らないのだろう。
11
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる