この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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戦いの後

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 セルジュは僕の両腕を掴み、顔を覗き込む。眉間に皺を寄せ懸命に僕を説得した。
「悪いことは言わねぇ、このまま俺の角を持って帰れ。扉の向こうにはあの租チン野郎が待っているんだろう? そろそろ行かないと、しびれを切らして扉を開けちまうかもしれねぇぞ。俺たちが顔見知りなことを知られたら不味い」
 僕はプイと横を向く。
「嫌だね」
「オリバー! お前が危険な目に合うのは嫌だ。大人しく言うことを聞け、なっ?」
 僕はさらに顔を背け、頑として応じなかった。僕の決意は固い。これまで通りなんて絶対に受け入れられない。
 セルジュに身体を揺らされながら、僕は告白した。
「セルジュ、僕はね、勇者に選ばれて嬉しいなんて思わなかった。ただ言われた通りのことをやって、さっさと解放されたらいいとずっと思っていたんだ。遠い未来を思い描くこともなかった。夢なんて持っても無駄だと思っていた。どうせなら、君に負けて死んでしまえば楽なのにと思っていたんだ」
 セルジュは僕を揺さぶるのを止め、そっと手を離す。
 そして、ぼそりと言った。
「――やっぱりそうだったのか。お前、ずっと死にたかったんだな」
 真紅の瞳を揺らし悲痛な表情を浮かべるセルジュに、僕は苦笑いで応える。
「すまない。親友の君にも言えなかった。こんなこと」
「俺がお前を殺すわけがない。死ぬなんて許さない」
「君はそう言うだろうなって、わかってたよ。でもね、実際のところ、勇者が死んで困る人間は大勢いても、僕がいなくなって悲しむ人間なんていないんだ。周りが悪いわけじゃない。僕がそうなるよう望んで生きてきたからだ」
「俺は悲しい。お前は俺にとって特別なんだ。代わりなんていない」
 セルジュは僕を引き寄せ、ぎゅうと抱きしめた。
 僕もそれに応え、折りたたまれた翼の下に手を入れる。肩に頬を乗せ、彼の体温を味わった。
 ずっと、何処より誰より安心できた腕の中。最近では淫らな妄想を掻き立てられ、逆に落ち着かない心地になることが多かったけれど。
 セルジュは色んな感情を僕に教えてくれた。
「僕にとってもセルジュは特別だ。だから、君のために何かをしたいんだ」
「そんなのは必要ねぇ、危ないことはするな、オリバー。俺はそばで守ってやれないし、直ぐに駆けつけることもできねぇ」
「過保護だなぁ、君の親友を信じろよ。こう見えてなかなかやる男だぞ」
 少し茶化して言うが、セルジュは駄目だと言わんばかりにますます腕に力を込めた。僕は駄々っ子のようになってしまったセルジュの背中をさする。いつもとは逆になってしまった立場に戸惑いながらも、少しばかりの嬉しさを感じていた。
「勝手でごめん。でも、どうしてもやりたいんだ」
 僕はセルジュの首を引き寄せ、その濡れ羽色の髪を撫でた。
 腹の中で悪態をつくだけで何もせず、すべて諦めて流される生き方には、もう戻れない。
 僕は気づいてしまったのだ。
 自分のために、引いては誰かのために、力を尽くすことの気持ちの良さに。
 たとえこの恋が成就しなくても、二度と会えなくなっても、君のために奔走する未来はきっと僕を満たしてくれる。
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