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ポッコチーヌ様のお世話係
過去と罪②
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「お聞かせ出来るほど面白くはございませんが」
『お父さんとお母さんは、どんな人達だったの?兄弟は?』
「両親は生粋のシャンピニです。勤め先で出会って夫婦となりました。兄弟は、兄と妹です」
『お家はどこなの』
「今は郊外のシャンピニ居住区で暮らしていますが、その当時は家族全員でとある貴族の邸宅に住んでいました。庭園の隅に小屋があって、そこで」
ポッコチーヌは黙る。ゲルダは肩を竦めた。
「やっぱり止めましょう。それより、おすすめの御本のお話を……」
「一家で貴族の奴隷を勤めていたのか」
ゲルダは思いがけず話に割り込んできた声に驚き、目を瞬く。マクシミリアンが真っ直ぐにこちらを見ていた。
「そ、そうです。私達が仕えるお宅は比較的奴隷に寛容でしたので、両親の結婚も許されました。父は家の警備を任されておりましたし、主人から信頼されていたようです」
ゲルダと兄弟も、孤児院がボランティアで開いている学校に通うことを許されていた。もちろん、労働が最優先だったが。
「辛い目にはあっていなかったのか」
「ええ。それほどは……」
ゲルダは笑って見せた。恵まれていたのは本当だ。それでも奴隷であることには変わりない。粗相をすれば鞭打たれ、容赦なく蹴り飛ばされた。
シャンピニは丈夫だからこれくらいたいしたことはないだろう、と嘲りながら鞭を振りかざす人物は決まっていた。その家の次男である。常に優秀な長男と比較されて鬱憤が溜まっていたのだろう。その解消先として標的になるのは、たいてい幼い兄妹だった。
「それでも、軽々しく話して聞かせる過去ではないのだな」
「いえ、子供らしい楽しみもありました。ただ、団長と私の暮らしはかけ離れていたでしょうから、共感も得にくいでしょう」
「そうだろうか」
一方的な暴力と抑制された生活。確かにゲルダとマクシミリアンは似ているのかもしれない。
けれど、ゲルダには当たり前に愛情を注いでくれる両親が傍にいた。庇い合える兄妹がいた。暴力に傷つき血を流しても、甘えられる存在がいたのだ。
しかし、マクシミリアンは違う。
孤独の中で暴力に耐え抜くなど、並大抵の事ではない。
親から引き離され、酷い虐待を受け絶望の中で命を終える、ゲルダはそんな仲間を何人も見てきた。
「団長、確かに私の子供時代は自由だったとは言えません。鞭打たれたし、暴力でねじ伏せられることもあった。けれど、私は生きてここにいる。念願の騎士にもなれました。自分で選択した未来を進んでいる自分を誇りに思っています」
「過去はもう、お前を苦しませる事はないのか」
「人生には限りがあります。私は昔を振り返ることを止めたのです。勿体ないので」
「やはり、俺とお前は違う」
マクシミリアンはついと顔を逸らし、膝を抱える。突然の拒絶にゲルダは慌てた。
しまった。そんなつもりはなかったのだが、説教臭く聞こえたのだろうか。
身の程知らずが生意気だと思われたのか?
「も、もちろん!私は奴隷上がりのシャンピニで、騎士とはいえ今は研修生です。高貴な身分の上、文武両道であられる騎士団長とは違います!でも、同じ人間です!」
「違う」
「肌の色も目の色も違うけど、同じく息を吸い、肌の下には血潮が流れています」
「違う。お前には……」
ゲルダはマクシミリアンの腕を掴み、己の胸に押し当てた。
「なっ、何をする……!」
「心の臓が、鼓動を刻んでいるでしょう?同じです!」
マクシミリアンは僅かにたじろぐが、やがて、美しい眉をひそめて目を逸らす。
「お前……、救護教育は受講したのか?」
「は?」
「接触による鼓動、脈拍の確認には心臓は不向きだ。首か手首の内側と学ばなかったのか?騎士試験の必修科目だぞ?」
ゲルダは慌ててマクシミリアンの手を胸から外し、顔を赤らめた。
……しまった、またやらかしてしまった。
『お父さんとお母さんは、どんな人達だったの?兄弟は?』
「両親は生粋のシャンピニです。勤め先で出会って夫婦となりました。兄弟は、兄と妹です」
『お家はどこなの』
「今は郊外のシャンピニ居住区で暮らしていますが、その当時は家族全員でとある貴族の邸宅に住んでいました。庭園の隅に小屋があって、そこで」
ポッコチーヌは黙る。ゲルダは肩を竦めた。
「やっぱり止めましょう。それより、おすすめの御本のお話を……」
「一家で貴族の奴隷を勤めていたのか」
ゲルダは思いがけず話に割り込んできた声に驚き、目を瞬く。マクシミリアンが真っ直ぐにこちらを見ていた。
「そ、そうです。私達が仕えるお宅は比較的奴隷に寛容でしたので、両親の結婚も許されました。父は家の警備を任されておりましたし、主人から信頼されていたようです」
ゲルダと兄弟も、孤児院がボランティアで開いている学校に通うことを許されていた。もちろん、労働が最優先だったが。
「辛い目にはあっていなかったのか」
「ええ。それほどは……」
ゲルダは笑って見せた。恵まれていたのは本当だ。それでも奴隷であることには変わりない。粗相をすれば鞭打たれ、容赦なく蹴り飛ばされた。
シャンピニは丈夫だからこれくらいたいしたことはないだろう、と嘲りながら鞭を振りかざす人物は決まっていた。その家の次男である。常に優秀な長男と比較されて鬱憤が溜まっていたのだろう。その解消先として標的になるのは、たいてい幼い兄妹だった。
「それでも、軽々しく話して聞かせる過去ではないのだな」
「いえ、子供らしい楽しみもありました。ただ、団長と私の暮らしはかけ離れていたでしょうから、共感も得にくいでしょう」
「そうだろうか」
一方的な暴力と抑制された生活。確かにゲルダとマクシミリアンは似ているのかもしれない。
けれど、ゲルダには当たり前に愛情を注いでくれる両親が傍にいた。庇い合える兄妹がいた。暴力に傷つき血を流しても、甘えられる存在がいたのだ。
しかし、マクシミリアンは違う。
孤独の中で暴力に耐え抜くなど、並大抵の事ではない。
親から引き離され、酷い虐待を受け絶望の中で命を終える、ゲルダはそんな仲間を何人も見てきた。
「団長、確かに私の子供時代は自由だったとは言えません。鞭打たれたし、暴力でねじ伏せられることもあった。けれど、私は生きてここにいる。念願の騎士にもなれました。自分で選択した未来を進んでいる自分を誇りに思っています」
「過去はもう、お前を苦しませる事はないのか」
「人生には限りがあります。私は昔を振り返ることを止めたのです。勿体ないので」
「やはり、俺とお前は違う」
マクシミリアンはついと顔を逸らし、膝を抱える。突然の拒絶にゲルダは慌てた。
しまった。そんなつもりはなかったのだが、説教臭く聞こえたのだろうか。
身の程知らずが生意気だと思われたのか?
「も、もちろん!私は奴隷上がりのシャンピニで、騎士とはいえ今は研修生です。高貴な身分の上、文武両道であられる騎士団長とは違います!でも、同じ人間です!」
「違う」
「肌の色も目の色も違うけど、同じく息を吸い、肌の下には血潮が流れています」
「違う。お前には……」
ゲルダはマクシミリアンの腕を掴み、己の胸に押し当てた。
「なっ、何をする……!」
「心の臓が、鼓動を刻んでいるでしょう?同じです!」
マクシミリアンは僅かにたじろぐが、やがて、美しい眉をひそめて目を逸らす。
「お前……、救護教育は受講したのか?」
「は?」
「接触による鼓動、脈拍の確認には心臓は不向きだ。首か手首の内側と学ばなかったのか?騎士試験の必修科目だぞ?」
ゲルダは慌ててマクシミリアンの手を胸から外し、顔を赤らめた。
……しまった、またやらかしてしまった。
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