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ポッコチーヌ様のお世話係

自覚した気持ち①

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「何故そうなりますか。元恋人と団長では違います」
「俺とお前は朝から晩まで行動を共にし、夜だって一緒に寝てる!」

 そう言われてみると、確かに親密な関係だ。
 一般的な恋人、夫婦以上に共に過ごす時間が長いかもしれない。
 しかし、あくまでもゲルダはマクシミリアンの側近であり、世話係である。
 長きに渡るストレスとトラウマによりナルシスト怪人に変わり果てていた彼に、本来の自分を取り戻してもらいたい。そう願う親友のニコライ副団長に依頼され、手を貸すことを引き受けた。いや、半ば押し付けられたのであるが。
 添い寝係など予想外のオプションは発生したが、境界線は未だ死守していると思っている。己の立場をわきまえることを常に念頭に置いているのだから。
 しかし、口付けは明らかにアカンと思う。

「私は団長に親愛の情を持って接しております。お疑いですか?」
 
  ゲルダが胸を張り告げれば、マクシミリアンはベッドから立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
 寝崩れて首元が大きく開いたシャツのまま。
 ゲルダは美青年から漂う全てを拒むように五感を抑制し、身構えた。
 
 マクシミリアンは顔にかかった薄い色味のプラチナブロンドをかきあげる。
 美しく跳ね上がる眉と切れ長の大きな瞳が全貌を現し、挑むようにゲルダを見下ろした。

 ゲルダはふぐ、と息を止める。至近距離に迫る圧倒的な美貌に制御は脆くも揺らぎ始めた。それでも呑まれぬよう、必死に抗う。
 
 やがて、紅く滲む唇がゆっくりと開き、吐息と共に彼の音が吐き出される。
 そしてそれには、初めて聞く艶めかしい色が乗っていた。

「疑ってはいない。……足りないだけだ」



 ゲルダは、咄嗟に鼻と口を覆う。そうしないと何か色々出てしまいそうだった。

 くっそ、この無自覚エロ天使め!!

 ゲルダはマクシミリアンをキッと睨むと、その肩をガシッと掴んだ。そして、物凄い勢いで額に唇をつけると、素早く後方へ飛び退いた。
 突然のことに硬直し、エメラルド色の瞳を見開くマクシミリアンだったが、やがて、それは嬉しそうに微笑んだ。
 まさしく、一斉に可憐な花が綻ぶように。

「ゲルダ、では俺からも……」

 手を伸ばすマクシミリアンから顔を背け、ゲルダは口を覆う。
 頬がとてつもなく熱かった。

「朝食を取って参りますので!」
「後で良いじゃないか……」
「冷めてしまうので!」




 逃げるように部屋を後にした。
 鼓動がびっくりするような速さで打ち、全身を走る血管がどくどくと波打っている。

「マズイマズイ、これは、マズイ……」

 そう呟きながらも、心が、甘くときめき舞い上がるのを止められない。
 ゲルダは遂にヨロヨロと廊下に屈みこんだ。膝に顔を埋めて、長く熱い息を吐く。

 なんて事だ、これはきっと恋だ。

 確実にそうだ。もう誤魔化せない。
 そうだ、マクシミリアンを甘やかせて可愛がる内に、愛しさが積もり積もってしまったのだ。
 それだけでは無い、強くあろうと恐怖に立ち向かう健気な姿、己の矜持に従い正義を為そうとする真っ直ぐな心持ち、誰かを護ろうとする男気……数々のマクシミリアンの行動が、ゲルダの心を急速に引き寄せた。

「どうすんのよ……!」

 こうなったからにはお役目を辞退するしかないのだが、マクシミリアンが承諾するとは思えない。
 ゲルダはマクシミリアンの精神の安定に貢献している、それは疑いようがないからだ。
 しかし、生粋のフィルド人で名門ガルシア家の嫡男と奴隷上がりのシャンピニ女の恋愛など、誰も望まない、祝福しない。お互いにとって危険なだけだ。それどころか、王宮まで巻込む大問題になりかねない。
 ゲルダは、フラフラと立ち上がり、直ぐ近くにある副団長の執務室へと向かう。
 頼れる人物は、彼しかいなかった。
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