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ポッコチーヌ様のお世話係
対決②
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周囲がしんと静まり返り、空気がピンと張り詰める。侯爵の後ろで男がおどおどと周りを見回した。身を乗り出したマクシミリアンの肩を押さえ、ゲルダは胸に手を当てて頭を下げた。
「御無礼をお許しください」
「ゲルダ、お前が謝る必要などない。礼儀を欠いているのは父上の方だ」
「マクシミリアン、何故このような卑しい者を側に置いている。お前の、いや、ガルシア家の品格を落とすつもりか」
「ゲルダに謝罪をして下さい」
マクシミリアンは怒りに震え父親を睨む。しかし、侯爵はフンと鼻を鳴らし、ゲルダを打ったハンカチーフを汚いものでも摘むようにヒラヒラと振って見せた。
「身の程知らずの家畜が」
腰に手をやろうとするマクシミリアンの腕を掴み、ゲルダは囁く。
「団長、まだです。堪えてください」
「しかし、許せん!お前のことをあのように……!」
「私は平気です。ここで斬りかかっては計画は頓挫し、団長がお咎めを受けて終わってしまう。それで良いんですか?」
マクシミリアンは歯を食いしばりながらも徐々に身体から力を抜く。ゲルダはその腕を擦り、ふうふうと呼吸を落ち着ける様子を見守った。
そんな息子の心情を慮る事など一切しない父親は、ゲルダの背中に言い放つ。
「貴様、息子から離れろ」
ゲルダは言われた通りマクシミリアンから手を離し、侯爵に向き合った。
「私の前に立つな」
「目に入れば呪われるとでも?」
「お前如きにそんな力は無い。自惚れるな」
侯爵は後ろに顔を向け、顎をしゃくる。ずっと後ろで待機していた男が、引き攣った笑みを浮かべながら進み出た。
「この方はお前と旧知の仲であるそうだな。久しぶりにじっくりと話したいと仰せだ。お相手するが良い」
「何を勝手な……!」
ゲルダはマクシミリアンに目を合わせ言葉を封じると、笑顔で応じた。
「お久しぶりです。お変わりありませんか、ジェレミー様」
その名を呼ぶのは十数年ぶりだ。背中を駆け上がりそうになる怖気を抑え、ゲルダは前へ進み出る。
「あ、ああ、まあな」
ジェレミーはゲルダから目を逸らしボソボソと答えた。侯爵の隣に並ぶと、そのみすぼらしさが一層際立って見える。貴族ではあるようだが、暮らしは決して裕福とは言えぬようだ。
「現在はレスリー子爵を名乗ってらっしゃる。気安くお名前をお呼びするのは失礼だろう。さすが礼儀も知らぬと見える」
「失礼致しました。レスリー様」
「この場でお前の素性を明かしても良いが、息子に恥をかかせる訳にはいかぬからな」
侯爵に背中を押されてジェレミーが仰け反る。身長はゲルダより少し高いようだが、猫背と卑屈な雰囲気のせいでやけに小さく見えた。ゲルダは少し不思議な気分になる。
「さっさと行け」
侯爵は小声でジェレミーを急かした。何をさせようとしているのか予想はつくが、こんな怯えた状態で任務を遂行出来るのだろうか。
「ひ、ひとまず か、会場の外へ出よう。ついてこい」
ジェレミーは、侯爵の顔色を窺いながらゲルダを促した。マクシミリアンは唇を噛み、悔しげにこちらを見ている。ゲルダは安心させるようにそっと微笑むと、ジェレミーの背中を追った。
「御無礼をお許しください」
「ゲルダ、お前が謝る必要などない。礼儀を欠いているのは父上の方だ」
「マクシミリアン、何故このような卑しい者を側に置いている。お前の、いや、ガルシア家の品格を落とすつもりか」
「ゲルダに謝罪をして下さい」
マクシミリアンは怒りに震え父親を睨む。しかし、侯爵はフンと鼻を鳴らし、ゲルダを打ったハンカチーフを汚いものでも摘むようにヒラヒラと振って見せた。
「身の程知らずの家畜が」
腰に手をやろうとするマクシミリアンの腕を掴み、ゲルダは囁く。
「団長、まだです。堪えてください」
「しかし、許せん!お前のことをあのように……!」
「私は平気です。ここで斬りかかっては計画は頓挫し、団長がお咎めを受けて終わってしまう。それで良いんですか?」
マクシミリアンは歯を食いしばりながらも徐々に身体から力を抜く。ゲルダはその腕を擦り、ふうふうと呼吸を落ち着ける様子を見守った。
そんな息子の心情を慮る事など一切しない父親は、ゲルダの背中に言い放つ。
「貴様、息子から離れろ」
ゲルダは言われた通りマクシミリアンから手を離し、侯爵に向き合った。
「私の前に立つな」
「目に入れば呪われるとでも?」
「お前如きにそんな力は無い。自惚れるな」
侯爵は後ろに顔を向け、顎をしゃくる。ずっと後ろで待機していた男が、引き攣った笑みを浮かべながら進み出た。
「この方はお前と旧知の仲であるそうだな。久しぶりにじっくりと話したいと仰せだ。お相手するが良い」
「何を勝手な……!」
ゲルダはマクシミリアンに目を合わせ言葉を封じると、笑顔で応じた。
「お久しぶりです。お変わりありませんか、ジェレミー様」
その名を呼ぶのは十数年ぶりだ。背中を駆け上がりそうになる怖気を抑え、ゲルダは前へ進み出る。
「あ、ああ、まあな」
ジェレミーはゲルダから目を逸らしボソボソと答えた。侯爵の隣に並ぶと、そのみすぼらしさが一層際立って見える。貴族ではあるようだが、暮らしは決して裕福とは言えぬようだ。
「現在はレスリー子爵を名乗ってらっしゃる。気安くお名前をお呼びするのは失礼だろう。さすが礼儀も知らぬと見える」
「失礼致しました。レスリー様」
「この場でお前の素性を明かしても良いが、息子に恥をかかせる訳にはいかぬからな」
侯爵に背中を押されてジェレミーが仰け反る。身長はゲルダより少し高いようだが、猫背と卑屈な雰囲気のせいでやけに小さく見えた。ゲルダは少し不思議な気分になる。
「さっさと行け」
侯爵は小声でジェレミーを急かした。何をさせようとしているのか予想はつくが、こんな怯えた状態で任務を遂行出来るのだろうか。
「ひ、ひとまず か、会場の外へ出よう。ついてこい」
ジェレミーは、侯爵の顔色を窺いながらゲルダを促した。マクシミリアンは唇を噛み、悔しげにこちらを見ている。ゲルダは安心させるようにそっと微笑むと、ジェレミーの背中を追った。
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