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番外編②ロイヤル編☆王妃よ、花がほころぶように笑え
笑顔
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ロアンは完璧な仕草で茶を飲む娘を眺めた。
今日も今日とて、カトリーヌ・ガルシアは実にそつなく振舞って見せた。
癖のある要職を事前連絡なしで定例茶会に招く。臨機応変さを量る王妃候補試験の一環である。
いささか意地悪なこの企みの立案者は、勿論ロアンである。
しかし、カトリーヌは少しも動じることなく、その豊富な知識を武器に知識人を喜ばせ、思い上がった輩は黙らせた。少しばかり下品な客人は鮮やかにあしらい、若しくは、それとなく遠ざける。
素晴らしい社交力であった。
しかし、僅かな隙も見せずユーモアさえもマニュアル通り。ふりまく笑顔は明らかに作り物である。
そう、この娘に欠けているもの。
それは、ロアンが描く理想の王妃に必要不可欠なもの。
愛され力、つまり、愛嬌である。
「65点だな」
ロアンの言葉が意外だったのだろう、カトリーヌは僅かに眉を上げた。カップをソーサーに置くと、真っ直ぐと視線をこちらに向ける。
「減点の理由をお聞かせ頂けますか」
「可愛くない」
「可愛らしさなど国母に必要でしょうか」
「国民に愛されねばならん」
「実績がすべてでは?不満が出ぬよう務めることが、最優先だと思われます」
「まず、私が楽しくない」
カトリーヌは無言で顎を上げた。
「私とて王妃を愛でたい。人形を抱くなんてつまらないだろう」
「ご心配には及びません。そっち方面での教育は受けております。殿方の快楽を引き出す術は習得済みにございます」
「……興味はあるが、どちらかと言うと私はされるよりしたい方だ」
「左様でございますか」
カトリーヌは少し考え込む仕草をする。
「愛でたくなる女性とは、例えばどのような」
「こう、少しばかり抜けていて、感情豊かで甘え上手な」
「私とは真逆でございますね。困りました」
ちっとも困っているようには見えないが、彼女にとって克服すべき課題である事は間違いない。
なんたってロアンに気に入られなければ王妃にはなれないのだから。
「そうだなぁ、例えば……カトリーヌ、笑って見せろ」
「かしこまりました」
目の前に展開されたのは計算し尽くされたようなアルカイックスマイルだ。
「完璧だな」
「ありがとうございます」
「しかし、私的には20点だ」
その低すぎる採点にカトリーヌは顎を引く。
ロアンは少しばかり愉快になってきた。ムズムズと悪い癖が騒ぎ出す。
「よく花がほころぶように、と言うだろう。そのように笑って見せろ」
「花がほころぶ……開花するように。その言葉は承知しておりますが、人の顔面は花ではありません」
「そんな事は私だって知っている。比喩だろう?まるで花が咲くように華やかで、瞬時に心が奪われるような笑顔という意味だと思うが……出来ぬのか?」
煽ってみせれば、カトリーヌは僅かにムッとしたように見えた。存外負けず嫌いらしい。
「やってみます」
カトリーヌは背筋を伸ばすと、目を瞑った。
「参ります」
宣言するほどのものだろうか。
ロアンは椅子に身体を預け、正面にいる彼女へと視線を向けた。
正直いって、ロアンはそれほど期待はしていなかった。
ただ、この隙のない娘の、少しでも歪んだ顔を目にすることが出来れば、それで満足だったのだ。
しかし、カトリーヌはロアンの予想を大きく超えてきた。
それを目にした瞬間、ロアンは硬直した。
直後、腹の底からマグマのようにせり上ってきた感情に全身を支配され、盛大に噴火した。
子供のように足を踏み鳴らし、テーブルをバンバンと掌で強打する。
咆哮にも似た奇声が自らの口から発せられるのを聞きながらも止めることは叶わない。やがて呼吸も困難になり、胸を押え、ヒィヒィという頼りない音を立てながらテーブルに突っ伏した。
「陛下、大丈夫ですか」
ちっとも心配そうに聞こえない声が訊ねる。
「ひ、ひぃ、大丈夫じゃない……、なんだその顔はっ……!」
「私が思うところの花がほころぶような顔です」
「ほ、ほころんでないだろう……」
「顔面は花ではございませんので、とりあえず閉じて開く現象を開花とみなし、強調してみたのですが」
「だからって目をそんなに見開き大口を開ける奴があるかっ、その上鼻の穴も限界まで開きおって……うぐっ」
脳裏に先程見た奇面が蘇る。またもや込み上げてきた笑いに翻弄され、もんどりうった。
「申し訳ございません」
謝っとる。謝っとるぞ、この娘。しかも、ちょっと声が不貞腐れておる。
ロアンの笑いは暫く収まることがなかった。その後も幾度となく、思い出しては急に笑い出す後遺症に悩まされたという。
何はともあれ、これ以降、ロアンの心は急速にカトリーヌへと向かうことになる。
カトリーヌとしては、甚だ不本意なきっかけであったと言わざるを得ないのだが。
今日も今日とて、カトリーヌ・ガルシアは実にそつなく振舞って見せた。
癖のある要職を事前連絡なしで定例茶会に招く。臨機応変さを量る王妃候補試験の一環である。
いささか意地悪なこの企みの立案者は、勿論ロアンである。
しかし、カトリーヌは少しも動じることなく、その豊富な知識を武器に知識人を喜ばせ、思い上がった輩は黙らせた。少しばかり下品な客人は鮮やかにあしらい、若しくは、それとなく遠ざける。
素晴らしい社交力であった。
しかし、僅かな隙も見せずユーモアさえもマニュアル通り。ふりまく笑顔は明らかに作り物である。
そう、この娘に欠けているもの。
それは、ロアンが描く理想の王妃に必要不可欠なもの。
愛され力、つまり、愛嬌である。
「65点だな」
ロアンの言葉が意外だったのだろう、カトリーヌは僅かに眉を上げた。カップをソーサーに置くと、真っ直ぐと視線をこちらに向ける。
「減点の理由をお聞かせ頂けますか」
「可愛くない」
「可愛らしさなど国母に必要でしょうか」
「国民に愛されねばならん」
「実績がすべてでは?不満が出ぬよう務めることが、最優先だと思われます」
「まず、私が楽しくない」
カトリーヌは無言で顎を上げた。
「私とて王妃を愛でたい。人形を抱くなんてつまらないだろう」
「ご心配には及びません。そっち方面での教育は受けております。殿方の快楽を引き出す術は習得済みにございます」
「……興味はあるが、どちらかと言うと私はされるよりしたい方だ」
「左様でございますか」
カトリーヌは少し考え込む仕草をする。
「愛でたくなる女性とは、例えばどのような」
「こう、少しばかり抜けていて、感情豊かで甘え上手な」
「私とは真逆でございますね。困りました」
ちっとも困っているようには見えないが、彼女にとって克服すべき課題である事は間違いない。
なんたってロアンに気に入られなければ王妃にはなれないのだから。
「そうだなぁ、例えば……カトリーヌ、笑って見せろ」
「かしこまりました」
目の前に展開されたのは計算し尽くされたようなアルカイックスマイルだ。
「完璧だな」
「ありがとうございます」
「しかし、私的には20点だ」
その低すぎる採点にカトリーヌは顎を引く。
ロアンは少しばかり愉快になってきた。ムズムズと悪い癖が騒ぎ出す。
「よく花がほころぶように、と言うだろう。そのように笑って見せろ」
「花がほころぶ……開花するように。その言葉は承知しておりますが、人の顔面は花ではありません」
「そんな事は私だって知っている。比喩だろう?まるで花が咲くように華やかで、瞬時に心が奪われるような笑顔という意味だと思うが……出来ぬのか?」
煽ってみせれば、カトリーヌは僅かにムッとしたように見えた。存外負けず嫌いらしい。
「やってみます」
カトリーヌは背筋を伸ばすと、目を瞑った。
「参ります」
宣言するほどのものだろうか。
ロアンは椅子に身体を預け、正面にいる彼女へと視線を向けた。
正直いって、ロアンはそれほど期待はしていなかった。
ただ、この隙のない娘の、少しでも歪んだ顔を目にすることが出来れば、それで満足だったのだ。
しかし、カトリーヌはロアンの予想を大きく超えてきた。
それを目にした瞬間、ロアンは硬直した。
直後、腹の底からマグマのようにせり上ってきた感情に全身を支配され、盛大に噴火した。
子供のように足を踏み鳴らし、テーブルをバンバンと掌で強打する。
咆哮にも似た奇声が自らの口から発せられるのを聞きながらも止めることは叶わない。やがて呼吸も困難になり、胸を押え、ヒィヒィという頼りない音を立てながらテーブルに突っ伏した。
「陛下、大丈夫ですか」
ちっとも心配そうに聞こえない声が訊ねる。
「ひ、ひぃ、大丈夫じゃない……、なんだその顔はっ……!」
「私が思うところの花がほころぶような顔です」
「ほ、ほころんでないだろう……」
「顔面は花ではございませんので、とりあえず閉じて開く現象を開花とみなし、強調してみたのですが」
「だからって目をそんなに見開き大口を開ける奴があるかっ、その上鼻の穴も限界まで開きおって……うぐっ」
脳裏に先程見た奇面が蘇る。またもや込み上げてきた笑いに翻弄され、もんどりうった。
「申し訳ございません」
謝っとる。謝っとるぞ、この娘。しかも、ちょっと声が不貞腐れておる。
ロアンの笑いは暫く収まることがなかった。その後も幾度となく、思い出しては急に笑い出す後遺症に悩まされたという。
何はともあれ、これ以降、ロアンの心は急速にカトリーヌへと向かうことになる。
カトリーヌとしては、甚だ不本意なきっかけであったと言わざるを得ないのだが。
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