九番姫は獣人王の最愛となる

すなぎ もりこ

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番外編 「その旋律は永遠に甘く」 

結婚式

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ヴァニラはつま先立ちになり、その柔らかい黄金色の耳に口付けた。
彼女の腰を支え、俯いていた彼が顔を上げる。
青空を映したかのような色の大きな瞳が現れた。
ヴァニラが身を屈めると、今度は彼が、ヴァニラの頭上にある耳に唇を寄せた。
そして、去り際にそっと囁く。

「早く二人っきりになりたい」

ヴァニラは身をすくめ、頬を染めた。
火照った頬に当てた手を、彼が奪い取って握りこんだ。

「こんなに綺麗なヴァニラを不特定多数の男に見られるなんて我慢できないよ」
「レッサード様ったら、それこそ番(つがい)の贔屓目です。私なんて…」
「なんて、は禁止。君は僕の唯一、世界一素敵な人なの。この僕がただ一人崇める天使」

レッサードはヴァニラの頬に口付ける。

「ねえ…こっちを向いて」
「オッホン!!」

熱く語りかけるレッサードの声を咳払いが遮った。
二人が声の方向を見上げると、白い髭を生やし先のとんがった三角帽子を被った主教がじっと見下ろしている。

「レッサード様、神の御前ですぞ」
「はーい」

レッサードは間延びした声で返すと、ヴァニラの手を引いて教会の出口へと向かう。

「祝福の説法がまだですぞ!」
「いーよぉ、もう充分。お爺の話は長いんだもん」
「レッサードっ、この罰当たりがっ」

レッサードは振り向き、白いひげを震わせ憤る主教に向かって舌を出す。
ヴァニラは慌てて主教に頭を下げた。

「レッサード様、良いんですか?!」
「婚姻の誓いは済んだから良いんだよ。あのお爺は放っとくと1日中説法してんだから…とっととお披露目して家へ帰ろう」

レッサードは教会の重い扉を押す。
扉の向こうには、二人の婚姻を祝福する人々が待ち構えている筈だ。

「祝賀会は…」
「そんなのサボっちゃおうよ」
「…歌をお披露目することになったんですけど」

レッサードは手をそのままに、首をクリンと回してヴァニラを見た。
その瞳は驚愕に見開かれている。

「誰がそんな事を!僕の許可も取らずに!!」
「やっぱり勝手にお引き受けしては駄目でしたか…」
「それこそ皆が君の虜になっちまうじゃないかっ!君は僕の専属歌姫なのにーーーっ」

その時、扉が突然左右に開かれて、支える場所を失ったレッサードは前につんのめった。
ヴァニラは目の前に現れた人物を認めて、焦って腰を落とす。

「遅いぞ、レッサード。そして、騒がしい。全部外へ丸聞こえだ。俺の側近たるものが恥ずかしい真似は控えてもらおう」

レッサードは何とか体勢を立て直すとムスッとしながらも頭を垂れた。

「ヴァニラに歌を依頼したのはアナベルだ。王妃の望みは叶えて貰わねば困る」
「わ、わかりました。でも、一曲だけです!それ以上は許可できません!僕だって一度に一曲以上は聞いたことが無いんですから!」
「わかったわかった。良いから外に出て、皆の祝福を受けてくれ」
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