九番姫は獣人王の最愛となる

すなぎ もりこ

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【番外編☆側近達の番物語☆フォルクス編】子ぎつねはお団子を食べて恋を知る

復活

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子供部屋からキッチンへ戻ると、妻が鼻歌を歌いながら食器を洗っていた。
柔らかそうな垂れ耳と同じ薄茶色のくるりと巻いた尾がフルフルと揺れている。
どうやら機嫌が良いらしい。
いや、サリエが快活なのはいつもの事だ。
ちょっとした事には動じることなく些細なことだと明るく笑い飛ばす。
大雑把な所が玉にキズだが、人心の機微には聡い。
妻の側はとても居心地が良い。
常に本心を隠し密かに策略を練る普段の自分から解放され、唯一真の姿を晒すことが出来る存在だ。

「フォル君、モモは寝たの?」

洗い物が終わったサリエがエプロンで手を拭きながら訊ねる。

「ああ、例のごとく私の尾を抱きしめながらね」
「モモは本当にパパのしっぽが好きよねぇ」

サリエが笑う。
フォルクスは妻に近付く。
すると、サリエはビクリと身体を揺らし、逃げるように背を向けて保冷庫の扉を開けた。

「えっと、明日の下拵えをしちゃわないと…」
「お見合いパーティーは昨日で終わったし、客足は通常に戻ると思いますよ。明日はお店もさほど混み合わないのでは?」

サリエは実家の甘味屋を手伝っている。
フォルクスの妻であるが、未だ看板娘でもある。
サリエが王の側近を勤める男の番であることを王都では知らぬ者はいない。
しかし、忌々しいことに旅行者に度々口説かれていることも知っている。

明るく美しい妻はかつては街のマドンナで、ライバルもそこかしこにいた。
フォルクスはその中を勝ち抜き、サリエを射止めた。
当時は随分と恨まれたものだ。

「まだ王都に滞在してる若い子達がいるのよ。フォル君は先に寝て良いわよ」

フォルクスは保冷庫を物色する妻の背後から距離を詰める。
そして、ふわっと匂い立つ妻の香りを吸い込んだ。
途端に身体が熱くなる。
フォルクスは歓喜に震える心を落ち着かせ、そっとサリエの肩に手を置いた。
サリエは再び身体を揺らし、カチンと固まった。

「あの、フォル君、気を使わなくて良いのよ。あの事はメルバ婆さんから説明を受けているし、もう貴方を疑ったりはしてないから」
「サリエさんには随分寂しい思いをさせてしまいましたね」
「良いのよ。わかってる。優しいフォル君が悩んでたことも…私こそ申し訳なかったわ」

サリエはフォルクスの手からスっと逃げると、勝手口に向かう。

「野菜を取ってくるわ。明日の朝食用のスープを作っておきたいの」

フォルクスは逃がすまいとその腕を掴む。
サリエは緊張した面持ちで振り返った。

「フォル君、あの、本当に無理しないで」

サリエは顔を伏せ、ポツリと呟いた。
その妻らしからぬ寂しげな仕草に胸が詰まる。
どれほど彼女を傷つけていたのかを改めて思い知る。

「サリエさん、もう良いんです」
「良くないわ。前も言ったけど、薬を飲んでまでする事じゃない。二人目についても焦らなくても良いと思ってるのよ」

王宮改装の際に間違えて壁に塗り込められた薬草が原因で、フォルクスは長く性欲の減退に悩まされた。
愛しい番の側にいてもアソコがまるで役に立たない。
それまでは毎日のように求めていた夫の変化に気付いたサリエは、まさかの浮気を疑った。
身に覚えの全くないフォルクスは必死で弁明するも、その当時は原因が全くわからなかっただけに説得力に欠けたことは否めない。
普段は自分から誘うことは滅多にないサリエが勇気をだして誘惑してくれた事もあった。
しかし、フォルクスの下半身は全く反応しない。
仮にもお互い番と認めた仲であるのに。
サリエが相当に傷付いていることにいたたまれなくなったフォルクスは、薬師に精力剤を処方してもらうことにしたのだが…
それも、また、サリエにバレてしまった。

「そこまでして私を抱くことはないのよ?」

サリエの悲しげに笑う顔に、胸が潰れそうになった。
変わらずサリエを愛しく思うのに、あの素晴らしい営みの感覚も覚えているのに、思い通りにならない身体が腹ただしく、辛かった。

しかし…
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