九番姫は獣人王の最愛となる

すなぎ もりこ

文字の大きさ
31 / 41
【番外編☆側近達の番物語☆フォルクス編】子ぎつねはお団子を食べて恋を知る

君が素敵な理由

しおりを挟む
サリエとのデートはフォルクスの休日に決まった。
甘味屋へ迎えに出向いたフォルクスの前に、淡いグリーンのワンピースにレースのボレロを羽織ったサリエが現れた。
両サイドの髪は捻って後ろで纏めて、あの白い造花のピンで留めてある。
フォルクスはどこか落ち着かない心地で彼女の隣に立った。

「楽しんでおいで」

いつかと同じように店主に送り出され、フォルクスは気恥ずさを隠しつつ会釈して歩き出す。

「フォル君、今日は楽しみだった?」

傍らから嗅いだことの無い甘い香りを放つサリエが訊ねる。
いつもの醤油を焦がした香ばしい匂いではない。
決して不快なものではないが、胸がザワめく不思議な香りだ。

「はい、漸く謎を解明出来るのかと思うと嬉しく思います」
「はい、駄目~!」

サリエはフォルクスの正面に回り込んで、人差し指を立てて説教をした。

「フォル君、ここは、楽しみだった、会いたかったって言うところよ。その言葉でグンと親密さが増すしこの後も盛り上がる」
「なるほど」

サリエはスタスタと前を歩き、装飾品が売られている店を指差す。

「あの店を見て良い?」
「どうぞ」

フォルクスはサリエの後をついていくが、ふと、気付く。
なぜ、サリエはフォルクスの腕に掴まらないのだろう。
他の雄とはそうしていたのに。

その後もサリエの言われるがままに街を散策するが、サリエはいつまで経ってもフォルクスに触れない。
そのうち、サリエは再びフォルクスに向き合うと、腕を組んでため息をついた。

「フォル君、全然駄目よ」
「サリエさんにずっと従ってましたよ」
「ええそうね。だけど、とても私に興味があるようには思えないわ。何を訊いても“ 良いと思います”しか言わないじゃない」
「でも、サリエさんの選ぶものは全部サリエさんに似合っていました。とても素敵でしたよ?」

サリエはグッと言葉を呑み、僅かにたじろぐ。

「…この天然…」

サリエの呟きに、フォルクスは首を傾げた。

「天然とは?」
「無自覚に異性を引きつける言動を取る獣人の事よ!何だか私が教えるまでもない気がしてきた」

フォルクスは慌ててサリエに向かって踏み出した。

「困ります!まだ全然学んでいませんし、サリエさんの魅力の謎も解明してない」
「私は…基本的に来るもの拒まずだから、人気があるように見えてるだけよ。だからって誰とでも深い仲になる訳じゃないわよ?そこはちゃんと線引きしてるわ」

サリエはフォルクスに背中を向けて歩き出す。
鮮やかな赤毛に咲く髪留めの白い花をフォルクスはじっと見つめる。

「サリエさんは番を探しているんでしょう?」
「それだけじゃないわよ。獣人と話すのが好きなの。雄雌関係なくね。たくさんの人と親しくなりたいの」

フォルクスはサリエに走り寄り、腕を掴む。

「サリエさんは私とは親しくなりたくないんですか」
「は?」

責めるような口調になってしまう自分に戸惑いながらも、止められない。

「だって、サリエさんは私の腕を掴まないじゃないですか」
「へ?腕?」
「他の雄とは腕を組んでいました!」

サリエは唖然としてフォルクスを見上げている。
フォルクスはその視線から逃げるように顔を背けた。

「フォル君、私と腕を組みたいの?」

フォルクスはムスッとして黙り込む。
子供のような態度をとる自分が恥ずかしい。
だが、取り繕えない。
通常装着している筈のそつがない自分が発動しない。

掴んだ腕にそっと触れる感触を感じ、フォルクスはそろそろとサリエに視線を戻す。
サリエはフォルクスを覗き込むように見上げて微笑んでいた。
それを見た瞬間、鼓動が跳ね上がる。

「フォル君、可愛い」

サリエはフォルクスの手をそっと剥がすと、その腕に自らの腕を絡ませた。

「これで良い?」

フォルクスは俯いたまま小さく頷く。
頬がとてつもなく熱くなっている事に気付いていたので、顔を上げることが出来なかった。

その後のことは実は良く覚えていない。

サリエは二人で郊外の公園を散歩して、食事をしたというのだが、フォルクスが覚えているのは、サリエのつむじと時々見上げる眩しい笑顔、それと、腕から伝わるささやかな躍動だけ。

始終ふわふわと夢心地だった。

今から思い返せば、サリエに対して明らかに特別な反応をしていたのだが、当時のフォルクスは全くその可能性に思い至らなかった。


「じゃあね、フォル君、楽しかったわ。今日学んだことを活かして雌を誘ってみてね」

夕暮れの通りを、サリエが手を振って去っていく。
フォルクスはそれに手を上げて応えながら、引き止めたくなる衝動と戦っていた。

これが、サリエの魅力なのか。

フォルクスは通りの真ん中に立ちながら、サリエの良いところをひとつずつ挙げてみる。

良い匂いがする。
髪が綺麗。
どんな表情でも美しい。
心地よい声。
話題が尽きない。
優しい気配り。
····柔らかそうな身体。

「なるほど、非の打ち所がない」

フォルクスは呟く。
これで検証が終わり、胸のモヤモヤからも開放されるはずだった。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。