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きっかけ、そしてはじまり

しこりに気付いた日

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2009年の年の瀬も迫った頃のこと。

朝、着替えている時に腕が右胸の違和感を知らせた。

ゴリッ。
胸の外側に石が入ってる感覚。

「え?なんだ、これ。いつからこんなの出来てたんだろ…」

大きさは恐らく、5cmくらい。
今日び突然出現する訳がない。
こんな大きさの異物になぜ気付いていなかったのか。

私はこの頃は3つの仕事を掛け持ちしていた。

その内の一つ、補正下着のインストラクターとして
何人もの女性を綺麗にするために沢山の胸を触ってきた。

他人の胸に夢中になり、自分の胸に無頓着になっていたのかもしれない。


しかし、自分だって綺麗な姿でいる必要がある。
原点に返り、自宅の鏡の前でブラジャーを着けている時のあの異物感。
手のひらの感触は今でも鮮明に覚えている。


これまで全く乳がん検診に行かなかった訳じゃない。
むしろ、市から届くがん検診には必ずと言っていいほど受診していた。

でも。
皮肉にも直近のがん検診には
仕事が多忙だったのを理由に受診していなかったのだ。


鳥肌が止まらなかった。

「病院に、婦人科に行かなきゃ…!」

逸る気持ちを抑え、評判のいい婦人科がある、近所の病院に予約の電話をした。

年末ということもあり、受診が出来る最短日は年明けの10日頃との返事。

年末年始の私は言わずもがな
胸のしこりのことで頭の中がいっぱいで、
不安で押しつぶされそうだった。

「がんだったらどうしよう……」
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