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とわくん小学生のお話~低学年編~

とわくんの夢①

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うーん。うーん。……はぁ。

クラスの廊下側の前の席の辺りから
小さくため息が聞こえてきます。

「とわくん…」

隣の席のあっちゃんは心配そうに
とわくんが絵を描く様子を見ていました。

そう。
とわくんは絵を描くことが苦手なんです。

保育園でも、そのことでクラスの子達に
からかわれた苦い思い出があります。

ちびっこヒーローにだって弱点はあるんですよ。

30分ほどたった頃に佐藤先生は
みんなに絵を描くことをそろそろ終わりにすることを伝えました。

「みんなに絵を見せながら、将来の夢を発表してください」

「わぁ、ドキドキする」

「みんなの発表たのしみだね」

いろいろな声が教室の中で行き交っています。

「さて!今日は窓ぎわの圭太から順番に発表してもらおうかな」

「はい!」
元気に返事をする、けーたくん。


「ふぅ、助かった」
ボソッととわくんは胸を撫で下ろしました。
廊下側からだったら、
とわくんが一番最初の発表になったからです。


けーたくんの将来の夢は何かな?

「ぼくの将来の夢は野球選手になることです!
お兄ちゃんがリトルリーグでピッチャーやっててかっこいいから、ぼくもリトルリーグで頑張りたいです」

おー!パチパチパチと教室から拍手が響きます。

かずまくんも続いて発表しました。

「ぼくは大きくなったらYouTuberになります。おもしろい動画を作りたいです」

佐藤先生は、笑顔で、
今どきの子だなぁと腕を組みました。

サッカー選手、パイロット、お医者さん、動物園の飼育員、トリマー、看護師、保育士、美容師、芸能人、ケーキ屋さん、パン屋さん、堅実に公務員、

さまざまな夢がみんなの口から絵と共に発表されていきました。

残るはあっちゃんと、とわくんの二人です。

あっちゃんの絵は、
白衣を着て沢山のお薬が入っている棚の前に立っている女の子。

「わたしの夢は、薬剤師さんになることです」

ドヨッと教室の空気が変わりました。

「薬剤師さんってなに?」
「お薬売る人なの?」

あっちゃんは恥ずかしくて下を向いてしまったので、
先生が簡単に説明してくれました。

「薬剤師のお仕事はいっぱいあるんだけど、病院とかお薬屋さんで、お医者さんが出した処方箋しょほうせんっていうお手紙を見ながらお薬を用意して患者さんに渡すことかな。
あとはそのお薬の説明をしてあげたりするのもお仕事だね。
要するにお薬で、お医者さんと患者さんのお手伝いをしてくれる人だよ」

「へぇー、そうなんだ!なんか、あっちゃんかっこいいね」

質問していたお友達が拍手すると、
クラスメイトたちも続いて大きな拍手を
あっちゃんに送りました。


「さて!最後は永遠だな」

先生はトリをつとめることになったとわくんに羨望せんぼうの眼差しで指名。

クラスのとわくんファンはドキドキワクワク。

当のとわくんも別の意味でドキドキ……。

「ぼくの将来の夢は…」
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