オレの優しい幼馴染

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 コルムはオレが思うほどオレを好きではなかった。
 いや、いいのだ。それはお互いの将来の為にも友情の為にも喜ばしいことなのだ。
 ・・・そうなんだけど、じゃあなんでオレを好きだなんて言ったんだ。どうしてオレを抱こうとしたんだ。性欲か。脳筋は目の前に裸の人間がいたら抱くのか、猿か。後先考えずにそんなことができるほど、コルムにとってオレはそんなに軽い存在だったのか。
 幼少期から信頼し合って、お互い唯一無二の存在だと、誰よりも大切な親友であり幼馴染みだと、・・・思っていたのはオレだけだった。

 あまりにもショックなことがショック過ぎて、だからなのか、ぐちゃぐちゃな胸の内を持て余しながら、逆に何でもないふりで日々を過ごした。あだ名をつけるなら“にこやか仮面”だ。
 コルムはあいかわらずよく気のつく優しい奴で毎日せっせとオレの世話を焼いてくる。頭にくるし、泣きたくなる。
 期末考査が近いのを口実にオレは遅くまで図書館にこもり、部屋に帰ってからも机にしがみつき、コルムを避けた。



「コルム先輩って第4なんですね~、文科と一緒ってやりにくくないですかぁ?ボク、来年騎士科に進むんで第2希望なんです。コルム先輩も来年第2に移りませんか?」
 
 授業と授業の合間の短い休み時間。移動教室の為、アルヴィンと騎士科の棟の近くを通りかかった。コルムの名前が聞こえた気がして自然と足が止まった。
 見ると、少し離れた距離にコルムの背中が見える。相手の姿が見えないのはコルムに隠れているからだろう。つまりコルムより小柄。そして話の内容から相手は1年生で寮のことを話題にしていると思われる。
 ほーん。まぁ、コルムはあの通り面倒見の良い奴だから、そりゃ後輩から慕われるだろう。

「ベイラ?どうした?ひどい顔──あ、あそこにいるのコルムじゃない?」

 立ち止まったオレにアルヴィンが振り向き戻って来た。ひどい顔とは。

「おーいコルムー!ひっさしぶり~」

 状況も分からずいきなり呼ぶな!
 ワタワタしているとあっという間にコルムがそばに来た。

「ベイラ、どうしてこっちに?」
「・・・移動教室」
「そっか」

 じゃあ、とその場を離れたかったがそうはいかなかった。

「お、ちんまいの連れてるね。君、一年生?」
「はい!ボク、ショーン=シルヴァっていいます。コルム先輩に騎士科のことを色々教わってました!」
「来年騎士科に入るんだ?」
「はい!」
「違うだろ。公務科志望だろ」

 どうでもいい世間話が始まった。
 プラチナブロンドの髪と明るい緑の大きな瞳をした元気のいい一年生は物怖じすることなく会話をしてくる。

「もしかして、そちらの方はコルム先輩と同室のベイラ=マクローリン先輩ですか?」

 真っ直ぐな目でこちらを・・・。え、もしかして睨まれてる?オレ。

「そう、だけど。なんで知ってるんだ?」
「すごく有名だからです。コルム先輩を弄んでいるって」
「「はあ!?」」

 コルムとアルヴィンの声がかぶった。オレはあまりのことに何も言えずにいた。弄ぶとは・・・。

「バカなことを言うな」

 呆れたようにコルムが言う。

「えー?違うんですか?大勢の前でコルム先輩を振って恥をかかせたくせに、好かれているのをいいことに、従者みたいにあれこれ使っているって皆んな言ってますー」
「なんか悪意のある噂だね。怖いねえ。まあ、でも事実とも言える、かな?」

 アルヴィン、お前はどちら側なんだ?

「俺は使われてなんかいない。ショーン、そんな噂、真に受けるな。ほら、もう授業が始まるぞ。教室に帰れ。ベイラたちも」
 
 色々反論したかったがコルムに押されるままその場を離れた。

「・・・使ってなんか、いないし。コルムは誰にでも優しいんだよ」

 オレ、色々出来るようになったし。それにオレ、大勢の前でコルムを振っただろうか。よく覚えていない。
 でも、コルムがそういう話題を出してくるのはなぜか学園にいるときだけなので、勢いで振っているような気もする。

「まぁまぁ、気にするなって。噂はあくまで噂なんだからさ。けど悪いのはコルムだよな~、ベイラにだけ優しいからそんな噂が出るんだよ」
「オレだけ?そんなことはないだろ」

 オレだけ特別扱いしているフリが上手いだけだ。

「当事者はわからないんだよ。けど、同性でここまでコルムにグイグイ行く子ってあの子が初めてじゃない?今までは影で騒がれていたけど」
「・・・え!あの子、コルムが好きなの!?」

 後輩だろ?慕われているだけだろ?
 途端に胸が苦しくなった。痛い。

「コルムがお前に告白したからな~。それで異性より同性だったのか、って周りがなったらしいよ。これから同性からのアピールが増えるかもな。女子は遠巻きに様子をうかがってる感じだし──あ、時間ヤバそう。急ごうぜ」

 そんなこと、知らなかった。

「──先に行ってて」

 オレはくるりと踵を返し駆け出した。気持ちより、体のほうが何をすべきかわかっているみたいだ。
 
「コルム!」

 騎士科近くの廊下へ戻ると、まだあの小柄な子がコルムに寄り添っていて、コルムはその子の頭を撫でているところだった。

 オレは強引に二人に割って入り、コルムの裾を強く掴んだ。
 
 貴族としての矜持とか、嫡男としての将来とか、コルムがオレのこと、もう好きじゃないかもしれないとか、とにかく何もかもどうでもよかった。自分に正直になりたい。ただそれだけだった。

 オレは多分、───ずっと前からコルムのことが好きだ。

「コルムが優しくするのはオレだけがいい!触るのもオレだけっ!オレは、オレはっ、──」

 オレの告白に、コルムの表情が初めて見るほどの嬉しそうな笑顔に変わった。



 ───その日から、オレの優しい幼馴染みは優しい恋人になった。
 あ、違う。“もっと優しい”恋人だ。
 
 貴族の嫡男としての自分が時々顔を出して情けない顔をするが、後悔はしていない。どんな山でも越えることはできるはずだ。

 だがその後、イチャイチャとくっついていた一年生がコルムの母方の従兄弟で、恋愛感情はこれっぽっちもないと聞いたオレは、自分の見苦しい嫉妬による行動にがっくりと肩を落とすのだった。






☆☆☆おしまい☆☆☆
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