オレの優しい幼馴染

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コルムの決意

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 「わかった」と頷いた。
 なるべく軽く聞こえるように。
 「オレを好きになっちゃダメだ」と、追い詰められた小動物のように怯えるベイラをこれ以上苦しめたくなかった。



 ニコイチとまで言われる俺たちがこんな風にぎくしゃくし始めたのは、降って湧いたような幸運からだった。

 鍛錬を終えて部屋に帰ったら、ベッドの上に、まるで白い皿に盛られたご馳走のように最愛の人の可愛い尻があったのだ。いやもちろん尻だけじゃなく本体もあったけど。
 俺はフラフラと、ベイラの白く発光しているように見える柔らかそうな尻に引き寄せられた。
 手を出す出さない、じゃない。まるで夢の中にいるような気分だったのだ。神様が俺だけに用意してくれた宝物。その幸運にそっと頬を寄せ、感触にうっとりした。
 俯せる体にぴたりと沿うように体を横たえ、微かな寝息に耳を澄ませた。

 5歳で雷に打たれたかのような衝撃とともに始まった初恋は、今もなお絶賛継続中だ。




 キャンベル領は小さな海辺の町だ。
 そして隣のマクローリン領は大きな港を抱える豊かで広大な領で、隣の領との繋がりを強固にしたい父に連れられ、幼い俺は伯爵令息ベイラに出逢った。

「はじめまちて。コルム=キャンベルでつ。よろしくおねがいちまつ」

 ・・・俺は言葉の遅い子だった。
 あの時の事を話題にされると今でも赤面してしまう。黒歴史だ。
 体の弱い母が心配で四六時中母の居室にいたせいだったかもしれない。

 盛大に噛んだ俺をベイラは笑わなかった。それどころか「ちゃんと名前を言えてエライね」と頭を優しく撫でてくれた。
 その瞬間、俺は雷が落ちたかのような衝撃に直立不動のまま固まった。
 同い年だと聞いた時にも違う意味で固まってしまったが。

 俺の他にもベイラの友達候補というか取り巻きは何人かいた。歳が同じなのは俺だけで、大体が二つ三つ歳が上の子たちが集められていた。爵位でいえばベイラが一番上だった。だが、ベイラも含め、どのご令息も典型的な貴族らしいご令息で、会話はもったいぶった自分自慢ばかりで、俺は少しもついていけなかった。

 人見知る俺はその場にいてもほとんど話せなかったが、それが逆に良かったのか、ベイラのもとに集まるご令息たちは少しずつ減っていき、最後は俺だけが残った。
 ベイラは俺には他のご令息たちにするようなつんけんした態度は取らなかった。
 同い年のくせにあまりにももの知らずだったからだろう。言葉も遅かったし。

 友達候補がどんどん脱落していったもう一つの要因はベイラの飼い犬だ。
 ベイラはルルという可愛い名前の、───子供の体より大きな獰猛な猟犬を飼っていた。この犬に唸られてほとんどの子がベイラに近付くことさえ出来なかった。
 俺は唸られたことはないが、それは人見知りを発動していつも部屋の隅にいたからだと思う。

 そんな情けない俺とベイラが仲良くなるなんて一生ないように思われたが、それでも少しずつ打ち解けていき、手を繋いで歩いたり、郊外へ一緒にルルの散歩に出たりした。
 
 「オレ、コルムのお兄ちゃんになってやる」ベイラはそう言って太陽みたいに笑った。
 宣言通り、ベイラは俺の世話を焼いてくれた。兄というより従者、従者というより乳母のように。
 散歩の時はしっかりと手を繋いでくれたし、口の端にジャムがついていたらハンカチで拭き取ってくれた。そんなベイラの口の端にもジャムがついていたのだが。
 俺はどんどんベイラを好きになり、懐いていった。
 実際、その頃の俺はベイラよりもかなり小さく、傍から見たら仲の良い兄弟に見えたことだろう。
 そんな俺を見て機嫌を良くした父が俺より一つ下の従兄弟もベイラの取り巻きとして送り込もうと画策したが、しっかりと独占欲の育っていた俺はなんとかそれを阻止しようと子供ながらに奮闘した。暗躍した。
 結果、父は従兄弟を送り込むのを断念した。

 友達というより、弟のようにベイラにべったり甘えて過ごしている時が俺の至福の時間だった。
 そんなふうに1年経ち2年経ち───。

 母が亡くなった。

 原因でいえば流行り病だが、冬で体も弱っていたのだろう。熱が下がらないまま1週間後に静かに息を引き取った。

 流行り病だからと俺は母から離された。薬をちゃんと飲んでいればこの病で死ぬようなことは稀だと医者は話した。不安と心細さを抱えながら毎日自室で母のために祈った。
 ───なのに。

 葬儀が終わり、涙も枯れ、ただぼんやりと日々を過ごしていた俺のもとにベイラが訪れてくれた。
 俺の隣に座り、手を握り頭を優しく撫でてくれた。ぎゅっと抱きしめてくれた。それは多分とても長い時間だったようで、ベイラが「今日は泊まっていく」と宣言し、ようやく顔を上げると室内は暗くなっていた。ベイラが明かりを灯すこと、そして護衛には一旦戻って翌日迎えに来るようにと指示を出した。
 
「ずっと、ずーっと、側にいる」 

 ベイラの言葉に枯れていた涙が再び頬を伝った。そしてその時、ようやく気付いた。ベイラと知り合って3年。小さかった自分はベイラと同じくらいの背丈になっていた。
 たいして不思議なことでもない。そもそも同い年なのだ。だが、世界が180°変わった気がした。

 母の死が、自分が今までどれだけ甘ったれていたかを教えた。





 





 
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