終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

掴んだ花は

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「救急要請!」
「タンカを! 誰かタンカを!」

校庭は教師や職員や生徒で大混乱になった。
タンカで搬送されるシガル。

あの時の風景を思いだした。
シガルとフアニータの勝負の結果。
あの時の勝敗を決めたのは力の差じゃなくて、2人の覚悟の差。
だから私にもフアニータに勝てるやり方がある。
きっとある。

校長のシガルが長期入院で不在のまま、私の新学期が始まった。
学校ラ エスクエラ」の1年間は9月に始まり、翌年6月に終わる。3年間で卒業して、卒業生の殆どは組織ラ アヘンシアに所属してケダモノと戦うことを決めるらしい。

学校の入学条件は「花乙女の能力に目覚めた人」。学生は高校生ぐらいの年齢が多いけど、フアニータみたいに小学生ぐらいの子もいる。
ただ、私みたいに20代で入学するのは珍しく、100人ちょっとの新入生の中で3人しかいない。

あと気になるのは、花乙女という言葉。男性の花乙子ロス チコス コン フローレスもいるけど、その存在は世界でもとても珍しく、学校全体で2人しかいない。
何となく、男性は花乙女に向いてないみたい。

学校のカリキュラムは高校と似ていて、一般常識と言語と歴史と数学は選択科目。
他の学校と違っているのは、花乙女としての学習と実践の授業があること。これは必修科目。
最後に、体育の代わりに格闘技の時間がある。
これも必修科目。
やだな~。

入学式の後、私達は20人程の5グループに分かれて花乙女としての最初の儀式を行った。
「花見」の儀式。
フアニータみたいに最初から花を持っている子は別にして、新入生の多くはどの花を使うか決まっていない。
そういう子たちはこの「花見」の儀式で自分の花を決める。

自分の好きな花を自己申告して、それを使ってもいいけど、好きな花と使える花は必ずしも一致しないらしい。

だから私達は一人ずつ、この儀式で運命の花を決めることになる。
私はバラやカーネーションが好きだから、どちらかを持てるようになりたい。

儀式担当のアナ先生は、大きな体をかがめるようにして、儀式のための部屋の小さなドアを開けた。
「ジェニファー、目を閉じて部屋ラ アビタシオンにお入りなさい」

真っ暗な部屋。
かすかに、ラベンダーの香り。

私が部屋に入るのを確認して、アナ先生は厳かに言った。
「この部屋は、色々な花が部屋中に落ちてるの。これからドアを閉めるから、完全に閉まったら好きなだけ前に歩いて、花を拾いなさい。それがあなたの運命の花よ。
 拾ったらそれを持ってドアに戻ってノックして」
「わかりました」
「じゃ、幸運をブエナ スエルテ!」

私の背後で重々しくドアが閉まった。
そっと、目を開けてみた。

え?

何も見えない。
完全な暗闇。
鼻の先さえ見えない。
歩くことさえ難しい。

それでも周りの色々な花の香りで、辺り一面に花が落ちているのがわかる。

拾うんだ。
私の、花を。
私の運命の、花を。
前に!

次の瞬間、私は何もない場所でつまずいて、どてっと転んだ。

咄嗟に前に出した掌がぎゅっと掴んだもの。
何か、柔らかくて冷たいもの。

何?
花・・・だ、多分。
何かの花を掴んだ。

私は起きあがると、這うように入り口のドアにたどり着いてノックした。
「アナ先生! 掴んだよ! 私の花! 私だけの花!」


明かりの下でアナ先生は私の掴んだ花をしげしげと見つめた。
白い、可憐な花びら。黄色い花芯。
何の花だろう?

「これはね、白蓮ホワイト ロータスよ」
「白蓮?」

あまり馴染みのない花。
名前を聞いたことはあるけど、よく知らない。

私は指輪端末から開いた掌の中にディスプレイを呼び出し、白蓮について検索した。
水の表面に茎を伸ばして水面に葉を浮かべ、やがて蕾から花を咲かせる花。
輪廻レインカーネーションの泥沼から離れて、悟りの大輪の花を咲かせる仏教の象徴。
それはいいんだけど。

「きもっ!」

何故か知らないけど、どう検索しても蓮の花は濁った水の上に花を咲かせてる。
緑色の池。
匂って来そう。

もしうちにプールがあって、その水がこんな色だったら私は、1秒だって我慢できない。
汚くて気持ち悪い。
なんでこんな気持ち悪い花が私の花なんだろう。

「あの、アナ先生?」
「なあに?」
「あの、この花を他のに替えてもいいですか?」
「え? うーん。それは難しいわね」
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