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第一章 終わる世界
罠
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穴の中からは返事がない。
無言でパチン、パチンと指を鳴らすケダモノ。
そのたびに、つららが落とし穴の上空に生まれ、いくつもいくつも穴に落ちていく。
つららが穴に落ちるたび、金色の光が穴の中から溢れる。
でもその光の強さが、だんだん弱くなっていく。このままじゃ、フアニータの命の光が消えちゃう。
「このおっ!」
私は野球用バットを構えて、全力でケダモノに向かって走った。
近付いてわかった。
背が高い。
このケダモノ、足が長くてものすごく背が高い。
そうだ!
このバットで長い足を払ったら、ケダモノは穴の中に落ちる!
たとえ死ななくても、ダメージを与えられる・・・あ、ダメだ。
穴の底にはフアニータがいる。
ケダモノが穴の中に落ちたら、下にいるフアニータにぶつかって、彼女は大怪我をしちゃう。
「ジェニファー、やっちゃえ!」
ええっ!?
何?
ガブリエラがこっちを見て叫んでる。
「速く!」
バットを振るマネをしてる。え?
ええっ!?
(何だ、てめえは!?)
振り返ったケダモノ。
ソフト帽の下には、シワと傷とヒゲだらけの顔。
怖い!
「えいっ!」
私は、無我夢中でバットを振った。
ガツンッ!
手ごたえあり!
え?
当たった!
私のバットが、ケダモノの足の、ちようど膝の裏に当たった。
(のわっ!)
ケダモノは、自分の意志と関係なく膝を折り曲げ、そのままバランスを崩して穴に落ちた。
多分、彼自身が仕掛けた罠の、落とし穴。
次の瞬間、
ゴワアッッッ!
穴から金色の大きな炎が立ち上がった。
(ぐわあああああああああああっ!)
金色の炎に体を焼かれ、空に舞い上がるケダモノ。
逃げ場のない空中で、体をジタバタさせながら身を焦がす。
やがて。
灰になったケダモノの身体はボロボロに崩れ、粉になって宙に舞っていった。
しばらくして、フアニータが何もない空中に足を掛け、見えない階段を昇るように穴から出てきた。
これは花乙女の特技。
仮想空間を足元に小さな箱の形になるように展開して、そこに自分の侵入を拒絶しながら踏めば、空中を歩くことができる。
「フアニータ! 大丈夫!?」
「え? 何が?」
きょとんとした顔のフアニータ。
「大丈夫なの? 怪我とかしてない?」
「別に。あんなのどうってことないわよ。だってアレよ。私は最強の花乙女なのよ。
あんなつららぐらいで怪我するわけ、ないじゃない」
「じゃ、金色の光が弱くなっていたのは?」
「作戦よ作戦。ガブリエラに頭使いなさいって言われて、私なりに演技してみたの。ちょっとムカついたけど」
「何よそれ!? 私、何のためにあなたのこと心配したのよ!」
涙が溢れてきた。
自分だけが空回りして心配して、恥ずかしいしフアニータが無事で嬉しいしで、感情がもう、グチャグチャ。
「別に心配してって頼んでないけど?」
フアニータの、白けた声。
いや、そりゃそうだけど。
「ま、なかなか近付かせてくれないケダモノだったから、あんたが落としてくれて助かった。ありがと」
お礼も言えるんだ、フアニータ。
そっぽ向いてるんですけど。
あと声、ちっちゃいんですけど。
ガブリエラが立ち上がった。
「さ、薔薇に帰るよ。主が死んだら宇宙船は機能停止するから」
私以外のみんなボロボロで、立ち上がりながら返事をする気力もない。
朝日が、オークランドの街並みを照らし始めた。
12月。真夏の太陽が街のぐんぐんと気温を上げる。
私たちは、光に照らされはじめた街を見て、息を呑んだ。
何、これ?
街が、土と泥に埋もれている。
家も道路も車も、何もかもが埋もれて、町全体がひどい津波に襲われたように茶色で覆われている。
そうだ。
これはオークランドに着いた時、薔薇の艦橋で見た風景だ。
人も車も、黒い何かに飲み込まれていた、あの正体こそ、この泥と土だ。
あの泥と土の動きは、自然災害じゃない。
意志を持った動き、ケダモノだ。
ガブリエラが闘った、雷のケダモノ。
フアニータが倒した、つららと霧のケダモノ。
そのどちらでもない、泥と土のケダモノ。
簡単な話。
ケダモノは最初から、三体いた。
次の瞬間、圧倒的な力を持った真っ黒な塊が、私たちの体を奈落の底に突き落とした。
無言でパチン、パチンと指を鳴らすケダモノ。
そのたびに、つららが落とし穴の上空に生まれ、いくつもいくつも穴に落ちていく。
つららが穴に落ちるたび、金色の光が穴の中から溢れる。
でもその光の強さが、だんだん弱くなっていく。このままじゃ、フアニータの命の光が消えちゃう。
「このおっ!」
私は野球用バットを構えて、全力でケダモノに向かって走った。
近付いてわかった。
背が高い。
このケダモノ、足が長くてものすごく背が高い。
そうだ!
このバットで長い足を払ったら、ケダモノは穴の中に落ちる!
たとえ死ななくても、ダメージを与えられる・・・あ、ダメだ。
穴の底にはフアニータがいる。
ケダモノが穴の中に落ちたら、下にいるフアニータにぶつかって、彼女は大怪我をしちゃう。
「ジェニファー、やっちゃえ!」
ええっ!?
何?
ガブリエラがこっちを見て叫んでる。
「速く!」
バットを振るマネをしてる。え?
ええっ!?
(何だ、てめえは!?)
振り返ったケダモノ。
ソフト帽の下には、シワと傷とヒゲだらけの顔。
怖い!
「えいっ!」
私は、無我夢中でバットを振った。
ガツンッ!
手ごたえあり!
え?
当たった!
私のバットが、ケダモノの足の、ちようど膝の裏に当たった。
(のわっ!)
ケダモノは、自分の意志と関係なく膝を折り曲げ、そのままバランスを崩して穴に落ちた。
多分、彼自身が仕掛けた罠の、落とし穴。
次の瞬間、
ゴワアッッッ!
穴から金色の大きな炎が立ち上がった。
(ぐわあああああああああああっ!)
金色の炎に体を焼かれ、空に舞い上がるケダモノ。
逃げ場のない空中で、体をジタバタさせながら身を焦がす。
やがて。
灰になったケダモノの身体はボロボロに崩れ、粉になって宙に舞っていった。
しばらくして、フアニータが何もない空中に足を掛け、見えない階段を昇るように穴から出てきた。
これは花乙女の特技。
仮想空間を足元に小さな箱の形になるように展開して、そこに自分の侵入を拒絶しながら踏めば、空中を歩くことができる。
「フアニータ! 大丈夫!?」
「え? 何が?」
きょとんとした顔のフアニータ。
「大丈夫なの? 怪我とかしてない?」
「別に。あんなのどうってことないわよ。だってアレよ。私は最強の花乙女なのよ。
あんなつららぐらいで怪我するわけ、ないじゃない」
「じゃ、金色の光が弱くなっていたのは?」
「作戦よ作戦。ガブリエラに頭使いなさいって言われて、私なりに演技してみたの。ちょっとムカついたけど」
「何よそれ!? 私、何のためにあなたのこと心配したのよ!」
涙が溢れてきた。
自分だけが空回りして心配して、恥ずかしいしフアニータが無事で嬉しいしで、感情がもう、グチャグチャ。
「別に心配してって頼んでないけど?」
フアニータの、白けた声。
いや、そりゃそうだけど。
「ま、なかなか近付かせてくれないケダモノだったから、あんたが落としてくれて助かった。ありがと」
お礼も言えるんだ、フアニータ。
そっぽ向いてるんですけど。
あと声、ちっちゃいんですけど。
ガブリエラが立ち上がった。
「さ、薔薇に帰るよ。主が死んだら宇宙船は機能停止するから」
私以外のみんなボロボロで、立ち上がりながら返事をする気力もない。
朝日が、オークランドの街並みを照らし始めた。
12月。真夏の太陽が街のぐんぐんと気温を上げる。
私たちは、光に照らされはじめた街を見て、息を呑んだ。
何、これ?
街が、土と泥に埋もれている。
家も道路も車も、何もかもが埋もれて、町全体がひどい津波に襲われたように茶色で覆われている。
そうだ。
これはオークランドに着いた時、薔薇の艦橋で見た風景だ。
人も車も、黒い何かに飲み込まれていた、あの正体こそ、この泥と土だ。
あの泥と土の動きは、自然災害じゃない。
意志を持った動き、ケダモノだ。
ガブリエラが闘った、雷のケダモノ。
フアニータが倒した、つららと霧のケダモノ。
そのどちらでもない、泥と土のケダモノ。
簡単な話。
ケダモノは最初から、三体いた。
次の瞬間、圧倒的な力を持った真っ黒な塊が、私たちの体を奈落の底に突き落とした。
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