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第一章 終わる世界
王子のたくらみ
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静かに涙を流す私を、フアニータはびっくりしたように目を丸くして眺めたあと、私の顔を下から見上げながら聞いた。
「何で、逃げたのよ?」
「…逃げた?」
「そう。勝負はこれからだったのに、なんで逃げたの?」
「だって…」
あなたにかなうわけないから、と言いかけて口をつぐんだ。
その通りなんだけど、その通りなんだけど私の中のちっちゃなプライドが邪魔をして、言えなかった。
「あなたは何でも持ってるのに…何もかも勝ってるのに、負けそうになると逃げるのね」
「え?」
何?
どういうこと?
私が、何でも持ってるって?
何もかも勝ってるって?
だって私、フアニータよりずっと年上なのに、花乙女としての力は全然かなわないよ。
「あんたのその、余裕のある顔が気に入らないのよ。ギリギリまで頑張ったことないくせに、簡単に負けを認めるとこが」
「ええっ!? どういう意味? 私、あなたに何かした?」
「そうやって、被害者ぶるところが鼻に付くのよ」
本気で、フアニータが何を言ってるのかわからない。
ただ、私の何かが彼女の神経に触れてることだけはわかる。
「いつか絶対、決着を付けるからね」
捨て台詞を残してフアニータはグラン司令たちの方に歩み去った。
悲しい。
ひたすら、悲しい。
私の何かがフアニータの神経を逆撫でしてる。
でもそれが何かわからないし、教えてもくれない。
ニコニコと笑う、グラン司令とイヴォンヌ夫人。
フアニータは、さっき私を睨んだ時とは別人のように無邪気な笑顔で何か話してる。
やれやれ、といった感じで第三王子が立ち上がった。
(お前と勝負できないのは残念だが、勝った方と勝負するとあの女と約束したからな。それにしても)
私は、まだフアニータの言葉を引きずって落ち込んでいた。
(ジェニファー、さっきの試合の狙いは良かったぞ。なんとも面白い戦いだった)
「エンリケ王子、ありがとう」
フアニータと私の間の実力差がありすぎて、あと一歩どころじゃないことは良く分かってる。
王子が気を使ってくれるのが分かるから、余計に辛い。
「第2試合! フアニータ対エンリケ王子!」
仕切り直して、フアニータと第三王子との試合。
もう一度、闘技場に校長が作った仮想空間が試合場。
もちろん、校長が審判役。
「始め!」
闘技場の二人を上から見下ろすカメラ。
校長の合図と共に、互いに距離を取って向かい合った。
(下らん。すぐに終わらせる)
王子がパチン、と指を鳴らすと地面から大量の泥水が吹き出し、王子とフアニータを飲み込んだ。
「金色の力!」
フアニータの身体の周りに、金色に輝く竜巻が巻き起こりフアニータを泥水の水面に持ち上げた。
あの技だ。
前にシガル校長と対決した時に、フアニータが使った技。
「狂った太陽」を使った時には泥水に沈められていたフアニータだけど、「金色の力」を使って自分の周りの全てを蒸発させ、遠心力で弾き飛ばしてる。
弾き飛ばすことによって自分を沈めようと押さえ付ける王子のプレッシャーも跳ねのけ、水面に立っている。
すごい。
水面を走るフアニータ。
左の掌を空に向け、その上に「狂った太陽」を掲げている。
確か3ヶ月前は、両方を同時に使うことはできなかった。つまり彼女は、確実に成長している。
鬼気迫る表情で水面を駆け、フアニータは第三王子の正面に殺到した。
以前、簡単に跳ねのけられた「狂った太陽」を、至近距離で直接王子にぶつけるつもりだ。
(ほう。なかなかやるな)
王子は、初めてフアニータに興味を持ったように微笑んだ。
いや、笑ってる場合じゃないって。
あんな、光の竜巻と太陽の塊みたいなエネルギーを同時にぶつけられたら、絶対タダじゃ済まないって。
ぐわっしゃあん!
フアニータが、渾身の力をこめた光の玉を王子にぶつけた。
王子は、するり、と光の玉を自分の左に受け流した。
すごい!
王子は泥水の流れを身体のすぐ横に作り出し、フアニータの攻撃をかわす。
すごい身体能力。
フアニータがどんなに攻撃しても、絶対に直撃させない。
それにしても。
おかしい。
何かがおかしい。
今のフアニータの攻撃をあんなに近くで受けられるなんて、絶対におかしい。
王子とフアニータ、両方と戦った私にはわかる。
王子がどんなに強くても、フアニータの攻撃をあんなに近くで受けたら、絶対に無事では済まない。
シガル校長がそうなったように、確実に大火傷を負う。
なのに、王子は平気な顔で、フアニータの攻撃をのらりくらりとかわす。
そう。
まるで、王子は泥水でフアニータの力を吸収してるみたい。
「何で、逃げたのよ?」
「…逃げた?」
「そう。勝負はこれからだったのに、なんで逃げたの?」
「だって…」
あなたにかなうわけないから、と言いかけて口をつぐんだ。
その通りなんだけど、その通りなんだけど私の中のちっちゃなプライドが邪魔をして、言えなかった。
「あなたは何でも持ってるのに…何もかも勝ってるのに、負けそうになると逃げるのね」
「え?」
何?
どういうこと?
私が、何でも持ってるって?
何もかも勝ってるって?
だって私、フアニータよりずっと年上なのに、花乙女としての力は全然かなわないよ。
「あんたのその、余裕のある顔が気に入らないのよ。ギリギリまで頑張ったことないくせに、簡単に負けを認めるとこが」
「ええっ!? どういう意味? 私、あなたに何かした?」
「そうやって、被害者ぶるところが鼻に付くのよ」
本気で、フアニータが何を言ってるのかわからない。
ただ、私の何かが彼女の神経に触れてることだけはわかる。
「いつか絶対、決着を付けるからね」
捨て台詞を残してフアニータはグラン司令たちの方に歩み去った。
悲しい。
ひたすら、悲しい。
私の何かがフアニータの神経を逆撫でしてる。
でもそれが何かわからないし、教えてもくれない。
ニコニコと笑う、グラン司令とイヴォンヌ夫人。
フアニータは、さっき私を睨んだ時とは別人のように無邪気な笑顔で何か話してる。
やれやれ、といった感じで第三王子が立ち上がった。
(お前と勝負できないのは残念だが、勝った方と勝負するとあの女と約束したからな。それにしても)
私は、まだフアニータの言葉を引きずって落ち込んでいた。
(ジェニファー、さっきの試合の狙いは良かったぞ。なんとも面白い戦いだった)
「エンリケ王子、ありがとう」
フアニータと私の間の実力差がありすぎて、あと一歩どころじゃないことは良く分かってる。
王子が気を使ってくれるのが分かるから、余計に辛い。
「第2試合! フアニータ対エンリケ王子!」
仕切り直して、フアニータと第三王子との試合。
もう一度、闘技場に校長が作った仮想空間が試合場。
もちろん、校長が審判役。
「始め!」
闘技場の二人を上から見下ろすカメラ。
校長の合図と共に、互いに距離を取って向かい合った。
(下らん。すぐに終わらせる)
王子がパチン、と指を鳴らすと地面から大量の泥水が吹き出し、王子とフアニータを飲み込んだ。
「金色の力!」
フアニータの身体の周りに、金色に輝く竜巻が巻き起こりフアニータを泥水の水面に持ち上げた。
あの技だ。
前にシガル校長と対決した時に、フアニータが使った技。
「狂った太陽」を使った時には泥水に沈められていたフアニータだけど、「金色の力」を使って自分の周りの全てを蒸発させ、遠心力で弾き飛ばしてる。
弾き飛ばすことによって自分を沈めようと押さえ付ける王子のプレッシャーも跳ねのけ、水面に立っている。
すごい。
水面を走るフアニータ。
左の掌を空に向け、その上に「狂った太陽」を掲げている。
確か3ヶ月前は、両方を同時に使うことはできなかった。つまり彼女は、確実に成長している。
鬼気迫る表情で水面を駆け、フアニータは第三王子の正面に殺到した。
以前、簡単に跳ねのけられた「狂った太陽」を、至近距離で直接王子にぶつけるつもりだ。
(ほう。なかなかやるな)
王子は、初めてフアニータに興味を持ったように微笑んだ。
いや、笑ってる場合じゃないって。
あんな、光の竜巻と太陽の塊みたいなエネルギーを同時にぶつけられたら、絶対タダじゃ済まないって。
ぐわっしゃあん!
フアニータが、渾身の力をこめた光の玉を王子にぶつけた。
王子は、するり、と光の玉を自分の左に受け流した。
すごい!
王子は泥水の流れを身体のすぐ横に作り出し、フアニータの攻撃をかわす。
すごい身体能力。
フアニータがどんなに攻撃しても、絶対に直撃させない。
それにしても。
おかしい。
何かがおかしい。
今のフアニータの攻撃をあんなに近くで受けられるなんて、絶対におかしい。
王子とフアニータ、両方と戦った私にはわかる。
王子がどんなに強くても、フアニータの攻撃をあんなに近くで受けたら、絶対に無事では済まない。
シガル校長がそうなったように、確実に大火傷を負う。
なのに、王子は平気な顔で、フアニータの攻撃をのらりくらりとかわす。
そう。
まるで、王子は泥水でフアニータの力を吸収してるみたい。
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