終わる世界と、花乙女。

まえ。

文字の大きさ
41 / 74
第一章 終わる世界

王子のたくらみ

しおりを挟む
静かに涙を流す私を、フアニータはびっくりしたように目を丸くして眺めたあと、私の顔を下から見上げながら聞いた。
「何で、逃げたのよ?」
「…逃げた?」
「そう。勝負はこれからだったのに、なんで逃げたの?」
「だって…」
あなたにかなうわけないから、と言いかけて口をつぐんだ。
その通りなんだけど、その通りなんだけど私の中のちっちゃなプライドが邪魔をして、言えなかった。

「あなたは何でも持ってるのに…何もかも勝ってるのに、負けそうになると逃げるのね」
「え?」

何?
どういうこと?
私が、何でも持ってるって?
何もかも勝ってるって?
だって私、フアニータよりずっと年上なのに、花乙女としての力は全然かなわないよ。

「あんたのその、余裕のある顔が気に入らないのよ。ギリギリまで頑張ったことないくせに、簡単に負けを認めるとこが」
「ええっ!? どういう意味? 私、あなたに何かした?」
「そうやって、被害者ぶるところが鼻に付くのよ」

本気で、フアニータが何を言ってるのかわからない。
ただ、私の何かが彼女の神経に触れてることだけはわかる。

「いつか絶対、決着を付けるからね」
捨て台詞を残してフアニータはグラン司令たちの方に歩み去った。

悲しい。
ひたすら、悲しい。
私の何かがフアニータの神経を逆撫でしてる。
でもそれが何かわからないし、教えてもくれない。

ニコニコと笑う、グラン司令とイヴォンヌ夫人。
フアニータは、さっき私を睨んだ時とは別人のように無邪気な笑顔で何か話してる。

やれやれ、といった感じで第三王子が立ち上がった。
(お前と勝負できないのは残念だが、勝った方と勝負するとあの女と約束したからな。それにしても)
私は、まだフアニータの言葉を引きずって落ち込んでいた。
(ジェニファー、さっきの試合の狙いは良かったぞ。なんとも面白い戦いだった)
「エンリケ王子、ありがとう」

フアニータと私の間の実力差がありすぎて、あと一歩どころじゃないことは良く分かってる。
王子が気を使ってくれるのが分かるから、余計に辛い。

「第2試合! フアニータ対エンリケ王子!」

仕切り直して、フアニータと第三王子との試合。
もう一度、闘技場に校長が作った仮想空間が試合場。
もちろん、校長が審判役。

「始め!」

闘技場の二人を上から見下ろすカメラ。
校長の合図と共に、互いに距離を取って向かい合った。

(下らん。すぐに終わらせる)
王子がパチン、と指を鳴らすと地面から大量の泥水が吹き出し、王子とフアニータを飲み込んだ。

金色の力エル ポデール デ オーロ!」
フアニータの身体の周りに、金色に輝く竜巻が巻き起こりフアニータを泥水の水面に持ち上げた。

あの技だ。
前にシガル校長と対決した時に、フアニータが使った技。
狂った太陽エル ソル ロコ」を使った時には泥水に沈められていたフアニータだけど、「金色の力」を使って自分の周りの全てを蒸発させ、遠心力で弾き飛ばしてる。
弾き飛ばすことによって自分を沈めようと押さえ付ける王子のプレッシャーも跳ねのけ、水面に立っている。

すごい。
水面を走るフアニータ。
左の掌を空に向け、その上に「狂った太陽」を掲げている。
確か3ヶ月前は、両方を同時に使うことはできなかった。つまり彼女は、確実に成長している。

鬼気迫る表情で水面を駆け、フアニータは第三王子の正面に殺到した。
以前、簡単に跳ねのけられた「狂った太陽」を、至近距離で直接王子にぶつけるつもりだ。

(ほう。なかなかやるな)

王子は、初めてフアニータに興味を持ったように微笑んだ。
いや、笑ってる場合じゃないって。
あんな、光の竜巻と太陽の塊みたいなエネルギーを同時にぶつけられたら、絶対タダじゃ済まないって。

ぐわっしゃあん!

フアニータが、渾身の力をこめた光の玉を王子にぶつけた。
王子は、するり、と光の玉を自分の左に受け流した。

すごい!

王子は泥水の流れを身体のすぐ横に作り出し、フアニータの攻撃をかわす。
すごい身体能力。
フアニータがどんなに攻撃しても、絶対に直撃させない。
それにしても。

おかしい。
何かがおかしい。
今のフアニータの攻撃をあんなに近くで受けられるなんて、絶対におかしい。

王子とフアニータ、両方と戦った私にはわかる。
王子がどんなに強くても、フアニータの攻撃をあんなに近くで受けたら、絶対に無事では済まない。
シガル校長がそうなったように、確実に大火傷を負う。

なのに、王子は平気な顔で、フアニータの攻撃をのらりくらりとかわす。
そう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...