47 / 74
第一章 終わる世界
艦長 レクシー
しおりを挟む
「ええっ!? どの船の、どの人ですか!?」
「ふふ…2つに1つだけど、多分、あっちはないかな…?」
アニータさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「そんな楽しそうに…教えてくれてもいいじゃないですか?」
「ジェニー、簡単なことよ。グラン司令は優秀な人や船が大好きなの」
「つまり…?」
「『草原の歌姫』は艦隊最強って言われてる。とすれば、司令はこの船の演習の相手に普通の船は選ばない。
最強の船に当てるのは最強の船。だから…」
「だから…黄金の皇帝、ですか?」
歌姫以外で「艦隊最強」と言われてるのは、司令の座乗艦、エンペラー。
「私も一瞬、そうかな?って思ったの。でも、さすがにあり得ないわね」
アニータ副長が肩をすくめた。
「エンペラーは旗艦よ。スペック上は確かに艦隊最強だけど、さすがに演習に出てくるとは思えないわ」
確かにその通り。
旗艦の役割は艦隊の指揮だから、最前線に出てくることはない。つまり、演習の相手としては、あり得ない。
その場の皆が納得しかかったその瞬間、後ろから声が上がった。
「私はエンペラーと闘ってみたいよ」
ええっ!?
勢いよく幹部の輪の中央に出てきたのは、レクシー・メントール艦長。勢い余って、立体映像の「歌姫」を踏んづけてる。
それにしても。
レクシー艦長は、背は低いのにスタイルが抜群!
声も大きくて威厳があって、魅力的な女性。
まだ20代に見えるけど、不思議な貫禄がある人。
「エンペラーなら、相手に不足はないわ。それにグラン司令は、相手の意表を付くのが得意だから、案外本当に出てくるかも」
「司令なら、あり得るわね」
アニータ副長は、くすくす笑った。
「でも、第三夫人あたりが止めるでしょうね。万が一負けたらカッコ悪いじゃない?」
「確かに…」
アニータが静かに言った。
「私は、今回の演習相手は『舞姫』だと思う。ということは、花乙女はアレハンドラ…」
「まさか…」
クルー皆がしん、と静まり返った。
「舞姫」は「歌姫」級の2番艦で、正式名称は「天空の舞姫」。
ネームシップの「歌姫」と全く同じ大きさ、同じスペック、同じ装備で「歌姫」と同じく「艦隊最強」と呼ばれている。
相手が「舞姫」となると、船そのもので強弱は決まらない。
私を含めた、乗組員の質が強弱を決める。
特殊砲艦「歌姫」は、今回の演習に設定された空域に近付いた。
演習空域はアルゼンチン沖の大西洋、100マイル×100マイルの狭い範囲。
空域は海面から10マイル上空までで、それより上空に上がったり、海に潜ったりするのは禁止。
「各自、持ち場に付け! 第一種警戒態勢!」
レクシーが命令して、幹部の皆は艦橋や機関室など、それぞれの持ち場に戻った。
「歌姫」は、光学迷彩と電波撹乱で自分の存在を消し、エンジン出力を最小に絞りながらそろそろと演習空域に侵入した。
「対象空域に敵対反応なし!」
認識装置担当の報告が艦橋に響いた。
「対象空域に敵対反応なし、了解!」
レクシー艦長は復唱しながら呟いた。
「そりゃそうね…」
アニータ副長も呟いた。
「そうね。同じ時刻に演習空域に入ってる筈だから、反応がないわけないよね。とすれば…」
「入った瞬間…いや、入る前から隠れてた」
「そうね」
「でもそれはこっちも同じ」
レクシー艦長は、長いため息をついて、それから命令した。
「総員、索敵モードを強化! あとエンリケ王子、天気と気圧配置に注意を払って!」
今まで他人ごとのような顔でブリッジにいた第三王子は、あんぐりと口を開けた。
「地球人よ、私が誰か分かってるのか?」
「私は『地球人』じゃなくてレクシー。
セクシーでいい女なレクシー。あなたがケダモノのお偉いさんだってことは知ってるわよ。その上で司令がこの船に『特別扱い』で乗せたのも分かってる」
「じゃ、何で!?」
「ヒマそうだから!」
「あぁ!?」
「ヒマそうだから、あなたの仕事をあげたの。やって。今すぐ!」
「…分かったよ」
しぶしぶ手元の認識装置を触ってチェックを始める王子。
あの偉そうな王子が、レクシー艦長に逆らえないのが新鮮。それにしても、何で気圧配置と天気に気を配るんだろう?
そう思った瞬間、指令本部から演習状況の連絡が入った。
合成音声の女性の声がこう告げた。
「たった今、『草原の歌姫』が敵艦に探知されました」
「ふふ…2つに1つだけど、多分、あっちはないかな…?」
アニータさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「そんな楽しそうに…教えてくれてもいいじゃないですか?」
「ジェニー、簡単なことよ。グラン司令は優秀な人や船が大好きなの」
「つまり…?」
「『草原の歌姫』は艦隊最強って言われてる。とすれば、司令はこの船の演習の相手に普通の船は選ばない。
最強の船に当てるのは最強の船。だから…」
「だから…黄金の皇帝、ですか?」
歌姫以外で「艦隊最強」と言われてるのは、司令の座乗艦、エンペラー。
「私も一瞬、そうかな?って思ったの。でも、さすがにあり得ないわね」
アニータ副長が肩をすくめた。
「エンペラーは旗艦よ。スペック上は確かに艦隊最強だけど、さすがに演習に出てくるとは思えないわ」
確かにその通り。
旗艦の役割は艦隊の指揮だから、最前線に出てくることはない。つまり、演習の相手としては、あり得ない。
その場の皆が納得しかかったその瞬間、後ろから声が上がった。
「私はエンペラーと闘ってみたいよ」
ええっ!?
勢いよく幹部の輪の中央に出てきたのは、レクシー・メントール艦長。勢い余って、立体映像の「歌姫」を踏んづけてる。
それにしても。
レクシー艦長は、背は低いのにスタイルが抜群!
声も大きくて威厳があって、魅力的な女性。
まだ20代に見えるけど、不思議な貫禄がある人。
「エンペラーなら、相手に不足はないわ。それにグラン司令は、相手の意表を付くのが得意だから、案外本当に出てくるかも」
「司令なら、あり得るわね」
アニータ副長は、くすくす笑った。
「でも、第三夫人あたりが止めるでしょうね。万が一負けたらカッコ悪いじゃない?」
「確かに…」
アニータが静かに言った。
「私は、今回の演習相手は『舞姫』だと思う。ということは、花乙女はアレハンドラ…」
「まさか…」
クルー皆がしん、と静まり返った。
「舞姫」は「歌姫」級の2番艦で、正式名称は「天空の舞姫」。
ネームシップの「歌姫」と全く同じ大きさ、同じスペック、同じ装備で「歌姫」と同じく「艦隊最強」と呼ばれている。
相手が「舞姫」となると、船そのもので強弱は決まらない。
私を含めた、乗組員の質が強弱を決める。
特殊砲艦「歌姫」は、今回の演習に設定された空域に近付いた。
演習空域はアルゼンチン沖の大西洋、100マイル×100マイルの狭い範囲。
空域は海面から10マイル上空までで、それより上空に上がったり、海に潜ったりするのは禁止。
「各自、持ち場に付け! 第一種警戒態勢!」
レクシーが命令して、幹部の皆は艦橋や機関室など、それぞれの持ち場に戻った。
「歌姫」は、光学迷彩と電波撹乱で自分の存在を消し、エンジン出力を最小に絞りながらそろそろと演習空域に侵入した。
「対象空域に敵対反応なし!」
認識装置担当の報告が艦橋に響いた。
「対象空域に敵対反応なし、了解!」
レクシー艦長は復唱しながら呟いた。
「そりゃそうね…」
アニータ副長も呟いた。
「そうね。同じ時刻に演習空域に入ってる筈だから、反応がないわけないよね。とすれば…」
「入った瞬間…いや、入る前から隠れてた」
「そうね」
「でもそれはこっちも同じ」
レクシー艦長は、長いため息をついて、それから命令した。
「総員、索敵モードを強化! あとエンリケ王子、天気と気圧配置に注意を払って!」
今まで他人ごとのような顔でブリッジにいた第三王子は、あんぐりと口を開けた。
「地球人よ、私が誰か分かってるのか?」
「私は『地球人』じゃなくてレクシー。
セクシーでいい女なレクシー。あなたがケダモノのお偉いさんだってことは知ってるわよ。その上で司令がこの船に『特別扱い』で乗せたのも分かってる」
「じゃ、何で!?」
「ヒマそうだから!」
「あぁ!?」
「ヒマそうだから、あなたの仕事をあげたの。やって。今すぐ!」
「…分かったよ」
しぶしぶ手元の認識装置を触ってチェックを始める王子。
あの偉そうな王子が、レクシー艦長に逆らえないのが新鮮。それにしても、何で気圧配置と天気に気を配るんだろう?
そう思った瞬間、指令本部から演習状況の連絡が入った。
合成音声の女性の声がこう告げた。
「たった今、『草原の歌姫』が敵艦に探知されました」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる