【完結】あなたともう一度会えるまで

結城れい

文字の大きさ
9 / 22

09 無気力

しおりを挟む
 彼に出会った日から4日過ぎて、だんだんと香月は落ち着いていった。

 香月は今日もいつもと何も変わらずに、工場へ向かう。
 結局、工場でお金が無くなった事件は解決してなく、香月に向けられる視線は未だにきついものばかりだったが、もう香月にはどうでもよかった。
 ずっと長い間願っていた夢が叶ってしまい、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が続いていた。
 彼にもう一度会いたいという願いは叶い、番になりたいという願いはどう考えても無理だったと彼を見て納得してしまったため、香月には今後何を目標に耐えて、生きていけばいいのか分からなくなったのだ。

「山本さん、お金かえしてくれない? 5万円」

 自分の定位置について作業の準備をしていた時、背後から冷たい声をかけられた。

「小林さん、本当に僕は取っていません。お金も持っていないので返せません」
「あのお金がないと困るのよ」
「……本当に持ってないんです」

 詰められて何とか返事を返すが、なかなか相手は引き下がってくれない。
 5万円なんて大金を、香月は今まで持ったことすらなかった。父親から渡される2万円が実際に持ったことのある最高金額だ。その3回近い金額を言われても、どうしようもなかった。
 その時、言い合っていることに気づいた工場長が話しかけてきた。

「小林さん、どうしたんだ?」
「あっ! 工場長! 聞いてください」
「なになに」
「山本さんが、私の5万円を盗んだのに返してくれないんです」
「5万円?」
「ええ、この前持ってきてたのになくなったんです」
「そういえば、金庫に5万円の入った封筒が入っていたけど、それじゃない?」
「え! 失くしたらダメだから、金庫に入れてたんだっけ? ちょっと確認してきます」
「始業時間までにはちゃんと戻るように」

 工場長と話して解決したようで、そのまま去っていく彼女の後姿を香月は眺めた。
 話していた内容だと、お金をしまった場所を勘違いしていただけだったようだ。
 香月のせいではないと分かったはずだ。頭を下げて謝ってほしかったわけではないけれど、やるせない気持ちでいっぱいになる。

「香月君。今夜は僕の番だから楽しみにしててね」
「はい」

 工場長にかけられた言葉に、ぼんやりとしていた香月は機械的に返事をした。
 もう何もかもやめたい、そう思いながら。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

【完結】あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...