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09 無気力
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彼に出会った日から4日過ぎて、だんだんと香月は落ち着いていった。
香月は今日もいつもと何も変わらずに、工場へ向かう。
結局、工場でお金が無くなった事件は解決してなく、香月に向けられる視線は未だにきついものばかりだったが、もう香月にはどうでもよかった。
ずっと長い間願っていた夢が叶ってしまい、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が続いていた。
彼にもう一度会いたいという願いは叶い、番になりたいという願いはどう考えても無理だったと彼を見て納得してしまったため、香月には今後何を目標に耐えて、生きていけばいいのか分からなくなったのだ。
「山本さん、お金かえしてくれない? 5万円」
自分の定位置について作業の準備をしていた時、背後から冷たい声をかけられた。
「小林さん、本当に僕は取っていません。お金も持っていないので返せません」
「あのお金がないと困るのよ」
「……本当に持ってないんです」
詰められて何とか返事を返すが、なかなか相手は引き下がってくれない。
5万円なんて大金を、香月は今まで持ったことすらなかった。父親から渡される2万円が実際に持ったことのある最高金額だ。その3回近い金額を言われても、どうしようもなかった。
その時、言い合っていることに気づいた工場長が話しかけてきた。
「小林さん、どうしたんだ?」
「あっ! 工場長! 聞いてください」
「なになに」
「山本さんが、私の5万円を盗んだのに返してくれないんです」
「5万円?」
「ええ、この前持ってきてたのになくなったんです」
「そういえば、金庫に5万円の入った封筒が入っていたけど、それじゃない?」
「え! 失くしたらダメだから、金庫に入れてたんだっけ? ちょっと確認してきます」
「始業時間までにはちゃんと戻るように」
工場長と話して解決したようで、そのまま去っていく彼女の後姿を香月は眺めた。
話していた内容だと、お金をしまった場所を勘違いしていただけだったようだ。
香月のせいではないと分かったはずだ。頭を下げて謝ってほしかったわけではないけれど、やるせない気持ちでいっぱいになる。
「香月君。今夜は僕の番だから楽しみにしててね」
「はい」
工場長にかけられた言葉に、ぼんやりとしていた香月は機械的に返事をした。
もう何もかもやめたい、そう思いながら。
香月は今日もいつもと何も変わらずに、工場へ向かう。
結局、工場でお金が無くなった事件は解決してなく、香月に向けられる視線は未だにきついものばかりだったが、もう香月にはどうでもよかった。
ずっと長い間願っていた夢が叶ってしまい、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が続いていた。
彼にもう一度会いたいという願いは叶い、番になりたいという願いはどう考えても無理だったと彼を見て納得してしまったため、香月には今後何を目標に耐えて、生きていけばいいのか分からなくなったのだ。
「山本さん、お金かえしてくれない? 5万円」
自分の定位置について作業の準備をしていた時、背後から冷たい声をかけられた。
「小林さん、本当に僕は取っていません。お金も持っていないので返せません」
「あのお金がないと困るのよ」
「……本当に持ってないんです」
詰められて何とか返事を返すが、なかなか相手は引き下がってくれない。
5万円なんて大金を、香月は今まで持ったことすらなかった。父親から渡される2万円が実際に持ったことのある最高金額だ。その3回近い金額を言われても、どうしようもなかった。
その時、言い合っていることに気づいた工場長が話しかけてきた。
「小林さん、どうしたんだ?」
「あっ! 工場長! 聞いてください」
「なになに」
「山本さんが、私の5万円を盗んだのに返してくれないんです」
「5万円?」
「ええ、この前持ってきてたのになくなったんです」
「そういえば、金庫に5万円の入った封筒が入っていたけど、それじゃない?」
「え! 失くしたらダメだから、金庫に入れてたんだっけ? ちょっと確認してきます」
「始業時間までにはちゃんと戻るように」
工場長と話して解決したようで、そのまま去っていく彼女の後姿を香月は眺めた。
話していた内容だと、お金をしまった場所を勘違いしていただけだったようだ。
香月のせいではないと分かったはずだ。頭を下げて謝ってほしかったわけではないけれど、やるせない気持ちでいっぱいになる。
「香月君。今夜は僕の番だから楽しみにしててね」
「はい」
工場長にかけられた言葉に、ぼんやりとしていた香月は機械的に返事をした。
もう何もかもやめたい、そう思いながら。
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