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39 慎一のマンションへ
気持ちが少し落ち着いてきたころ、遥は運転席の慎一をチラリと横目で見た。
ハンドルを握り、前を向く慎一。普段は遥の方を見てくれることが多く、横顔を見るのは珍しい。
軽やかにハンドルを回しながら車を操る姿もかっこよく、遥はついついジッと見つめてしまった。
「どうかした? 何か気になることでもあったかな?」
「あ……いえ。何も、ないです」
前を向いたまま問いかけてきた慎一に、遥は慌てて首を振った。
「車酔いは大丈夫かな?」
「はい」
遥は視線を前に戻し、シートベルトを握りしめながら、流れゆく景色を見つめた。
******
「私の家は、ここだよ」
信号で停車したタイミングで、慎一が窓の外を指差した。遥がその先を確認すると、そこには見上げるほどの高さのマンションがそびえ立っていた。
マンションが襲い掛かってくるような感覚に陥り、遥は思わずギュッと目をつぶる。心の底からじわじわと恐怖が湧き上がってきた。
車はそのマンションの隣にある駐車場へと入っていく。
スロープを上がり、車を止めた慎一は、エンジンを切った。
「さあ、降りようか」
「は、はい」
わずかに震える遥の声に、慎一は慌てて室内灯をつけて遥の顔を確認する。その顔は真っ青だった。
「えっ、どうしたの? 気分悪い?」
慎一は遥の額に手を当てて確認するが、熱はない。
「何か、嫌なものがあった?」
「い、いいえ。ないです……」
遥は首を横に振る。
心配そうに覗き込んでくる慎一に、遥は泣きそうだった。
「とりあえず、部屋に行って休もうか?」
「……はい」
声では返事をするが、体は動かない。シートベルトのバックルにかけた手が、止まってしまう。全身が拒否しているかのように、恐怖が体を支配していた。
慎一に心配そうに声をかけられ、ようやく遥はシートベルトを外した。
今から、慎一の家に行くのだ。それなのに、どうしてこんな気持ちになるのか、遥も分からなかった。
車のドアを開き、外へ出る。すると、なぜか足が小刻みに震えだした。
――どうして。
慎一に気づかれないよう、遥はこっそり足を押さえる。
心配をかけたくない。迷惑もかけたくない。
花と荷物を手にした慎一が車を回り込んできて、遥の横に立つと、そっと背中を撫でた。
「抱き上げていこうか? 歩けそうかな?」
「大丈夫、です……」
差し出された慎一の手を取って、遥は歩き出した。
だが、足が重い。先に進むのを拒絶しているようだ。
それでも、慎一の手の温もりに縋るようにしてなんとか通路を進み、エレベーター前までたどり着いた。
エレベーターに乗り込んだ瞬間、遥は息をのむ。
突き当りの壁がガラス張りになっていて、外の景色がはっきりと見えた。
慎一が操作をすると、エレベーターは静かに動き始めた。ぐんぐん上へと上がっていく。
――やっと、降りてこられたのに、また塔の上に戻るんだ。
そう思った瞬間、遥の耳の奥でキーンと不快な高音が鳴り響いた。一気に血の気が引き、視界がチカチカと点滅する。その後、すべてが真っ黒に塗りつぶされた。
遥は、慎一の手を握ったまま、力なくエレベーターの床へと崩れ落ちた。
ハンドルを握り、前を向く慎一。普段は遥の方を見てくれることが多く、横顔を見るのは珍しい。
軽やかにハンドルを回しながら車を操る姿もかっこよく、遥はついついジッと見つめてしまった。
「どうかした? 何か気になることでもあったかな?」
「あ……いえ。何も、ないです」
前を向いたまま問いかけてきた慎一に、遥は慌てて首を振った。
「車酔いは大丈夫かな?」
「はい」
遥は視線を前に戻し、シートベルトを握りしめながら、流れゆく景色を見つめた。
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「私の家は、ここだよ」
信号で停車したタイミングで、慎一が窓の外を指差した。遥がその先を確認すると、そこには見上げるほどの高さのマンションがそびえ立っていた。
マンションが襲い掛かってくるような感覚に陥り、遥は思わずギュッと目をつぶる。心の底からじわじわと恐怖が湧き上がってきた。
車はそのマンションの隣にある駐車場へと入っていく。
スロープを上がり、車を止めた慎一は、エンジンを切った。
「さあ、降りようか」
「は、はい」
わずかに震える遥の声に、慎一は慌てて室内灯をつけて遥の顔を確認する。その顔は真っ青だった。
「えっ、どうしたの? 気分悪い?」
慎一は遥の額に手を当てて確認するが、熱はない。
「何か、嫌なものがあった?」
「い、いいえ。ないです……」
遥は首を横に振る。
心配そうに覗き込んでくる慎一に、遥は泣きそうだった。
「とりあえず、部屋に行って休もうか?」
「……はい」
声では返事をするが、体は動かない。シートベルトのバックルにかけた手が、止まってしまう。全身が拒否しているかのように、恐怖が体を支配していた。
慎一に心配そうに声をかけられ、ようやく遥はシートベルトを外した。
今から、慎一の家に行くのだ。それなのに、どうしてこんな気持ちになるのか、遥も分からなかった。
車のドアを開き、外へ出る。すると、なぜか足が小刻みに震えだした。
――どうして。
慎一に気づかれないよう、遥はこっそり足を押さえる。
心配をかけたくない。迷惑もかけたくない。
花と荷物を手にした慎一が車を回り込んできて、遥の横に立つと、そっと背中を撫でた。
「抱き上げていこうか? 歩けそうかな?」
「大丈夫、です……」
差し出された慎一の手を取って、遥は歩き出した。
だが、足が重い。先に進むのを拒絶しているようだ。
それでも、慎一の手の温もりに縋るようにしてなんとか通路を進み、エレベーター前までたどり着いた。
エレベーターに乗り込んだ瞬間、遥は息をのむ。
突き当りの壁がガラス張りになっていて、外の景色がはっきりと見えた。
慎一が操作をすると、エレベーターは静かに動き始めた。ぐんぐん上へと上がっていく。
――やっと、降りてこられたのに、また塔の上に戻るんだ。
そう思った瞬間、遥の耳の奥でキーンと不快な高音が鳴り響いた。一気に血の気が引き、視界がチカチカと点滅する。その後、すべてが真っ黒に塗りつぶされた。
遥は、慎一の手を握ったまま、力なくエレベーターの床へと崩れ落ちた。
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