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126 バレンタイン 4
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
リビングに入った遥は、光についていきながら辺りを見渡した。
初めて来た前回は、クリスマスパーティーだった。
あのとき飾られていたツリーや飾りは片づけられていたが、壁にはポスターや絵がいくつも飾られており、賑やかだ。
「ほら、届いた荷物」
「あ、ありがとう!」
ダイニングテーブルの上に置かれた段ボール箱を指され、遥はお礼を言いながら駆け寄った。
「生クリームの方は別の箱で届いたから、冷蔵庫に入れてる」
「うん、ありがとう!」
光が小さなカッターを差し出す。遥はそれを受け取り、箱を開けて中身を確認した。
注文した品はすべて入っているようだ。ほっと一息ついた遥は、そこでようやくマフラーやコートを脱ぐ。
「あ、これお昼ご飯だから、冷蔵庫に入れさせてもらってもいい?」
「うん、もちろん。オレのもあるんだろ?」
「そう、サンドイッチだよ! 楽しみにしてて!」
光を見つめて微笑む遥に、光は少し首を傾げながらも冷蔵庫へ向かった
サンドイッチをしまうと、早速今日のメインであるチョコづくりだ。
光から渡されたエプロンをつけた遥は、気合を入れる。
できるだけ綺麗で美味しいものを作りたい。
慎一が笑顔でチョコを食べてくれる姿を想像し、背筋を伸ばして材料の前に立った。
「じゃあ、トリュフを作るか」
「うん! お願いします!」
キッチンで光と並び、材料を確認してから作り始める。
貸してもらった鍋に生クリームを入れて、火にかける。沸騰したら火を止めて、刻んだ板チョコに少しずつかけて溶かす。
2つのコンロをそれぞれ使いながら取り掛かるが、今まで沸騰した鍋を運んだことがない遥は、どうしても動きがゆっくりになってしまう。
それでも、光は急かさず、横で静かに見守った。
溶けたチョコを平たいバットに流し入れ、冷蔵庫で少し冷やす。
「よし、この間に、トッピングの材料を用意しよう」
「うん!」
買っておいたココアパウダー、ミックスカラースプレー、粉糖を小皿に出していく。
光は、ココアパウダーにアラザン、それに小さいドライフルーツを用意した。
「そろそろかな」
光はそう言うと冷蔵庫へ向かい、バットを取り出してチョコの状態を確認する。
「うん、いい感じ! 次は分ける作業ね」
「はーい!」
光の手つきを真似してスプーンでひとつ分を掬って分けて、また冷蔵庫で冷やす。
待ち時間は、話をしていたらあっという間だった。
次は、先ほど分けたものをひとつ分ずつ取り、ラップで包んで綺麗な丸に整えていく。
遥は集中して丸めていたが、段々と形が崩れてきてしまった。綺麗な丸にしたいのに、デロデロだ。
綺麗にしようと手のひらで動かせば動かすほど、汚くなってしまう。
遥は光に助けを求めた。
「光くん、どうしても汚くなっちゃう……」
「ん? ああ、手の熱で溶けちゃったんだ。もう一回冷やしてから丸めれば大丈夫」
光のアドバイスどおりもう一度冷蔵庫で冷やし、手も少し冷やしてから再挑戦すると、今度はうまく丸めることができた。
最後に手で仕上げの丸め直しをして、トッピングをつけていく。
一気に色がついておしゃれになり、少し歪だった形も気にならなくなる。
楽しくなった遥は、次々とトッピングをまぶしていった。
「よし、完成!」
「できたー!!」
完成したチョコを前に、2人は歓喜の声を上げた。
想定より時間はかかったが、無事に作り終えることができた。
少し冷やした後、早速箱に詰めていく。
トリュフが6つ入るシックな紺色の箱、リボンは金色のものを選んだ。
遥は、箱を汚さないように、カップに入れたトリュフを2種類ずつそっと並べる。
蓋を閉め、リボンを結んだら完成だ。
リボンは、チョコの首に何度も結んでいるので、自信がある。
綺麗に結び終えた遥は、嬉しそうに目を細め、箱をそっと撫でた。
トリュフは全部で10個作っていた。味見で1つ食べたので、残りは3つ。それを、別の3つ用の箱に詰めていく。こちらは赤い箱に茶色のリボンだ。
すべて詰め終わり、箱を冷蔵庫にしまう。
チョコづくりが終わったら、片づけの時間だ。
光と一緒にボウルやスプーンに残っていたチョコを舐めたり、残ったトッピングを交換してつけ合ったりしながら、楽しく笑顔で洗い物を終えた。
光もチョコのことは光輝に内緒にしているらしく、証拠を残さないようにシンクや台所の床も綺麗に掃除をして、匂いが残らないように換気までおこなった。
リビングのソファに腰を下ろして時計を見ると、もうお昼の時間だった。
午前中いっぱいチョコづくりに使っていたようだ。夢中になりすぎて、気づいていなかった遥は、慌てて立ち上がる。
「光くん、もう12時過ぎてるし、お昼ご飯食べようよ!」
「ほんとだ。言われてみるとお腹減ってるな」
遥は早足に冷蔵庫へ向かい、声をかけてから中に入れていたサンドイッチを取り出した。
光は、そんな遥の後ろを通り、冷蔵庫横のラックからボックスを引き出す。
「なんかインスタントスープでも入れるよ。換気してちょっと寒くなったし。えーっと……オニオンと、たまごと、コーンがあるけど、どれがいい?」
ボックスの中を漁りながら聞いてくる光に、遥は少し悩みながら答えた。
「えっと、僕はコーンがいいな」
「オッケー! 準備するから座って待ってて」
「うん! ありがとう」
サンドイッチを大切に抱えてダイニングテーブルに向かった遥は、クリスマスパーティーのとき座った席に向かうと、サンドイッチをそれぞれの席に並べ始めた。
かわいいチェック柄の使い捨て容器は蓋が透明で、中身が見える。
大きな黄色いチェック柄の容器の隣に、小さいピンクのチェック柄の容器を並べた。
そして、笑顔で光が来るのを待つ。
しばらくして、湯気の立ったスープカップを両手に持った光がやってきた。
「光くん、ありがとう」
「うん」
遥の席にそっとスープカップをおいた光は、向かい側に座る。
遥はその様子をじっと見つめた。
「おー、サンドイッチおいしそう――えっ、いちごじゃん!!」
「うん! 光くんいちごが好きって言ってたから!」
光の反応に、遥は満面の笑みを浮かべた。
実は、おかず用のサンドイッチとは別に、デザート用のサンドイッチも作った。
こちらはフルーツサンドで、いちごを挟んでいるのだ。
昨夜、夕食の用意を手伝っていたとき、いちごがあることに気づいた遥が、慎一に「光くんがいちご好きだって言ってたから、僕の分を持って行ってもいいですか?」と聞いたことが始まりだった。
慎一が「それなら、フルーツサンドにして持っていこうか」と提案してくれて、今朝2人で作ってきたのだ。
今日チョコづくりで使ったものと同じ生クリームを、今朝はボウルに入れて必死に混ぜてきた。
最初はただの牛乳のようだったのに、10分ほど混ぜ続けるとケーキに塗ってあるふわふわなクリームに変わった。途中途中で慎一と交代しながら混ぜたが、もしかしたら遥の右腕は明日筋肉痛になるかもしれない。
今朝のことを思い出しながら、驚き喜んでいる光を見た遥は、慎一に報告したくてたまらなくなった。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
スープカップを両手でそっと持つと、じんわりとした温かさが伝わってきてほっとする。
ゆっくりと口をつけると、甘く濃厚なコーンスープが口の中いっぱいに広がり、体の奥まで流れていく。
少し温まった後、早速サンドイッチを食べ始めた。
ツナマヨ、ベーコンレタス、たまごサンドをぺろりと平らげ、いちごサンドへ手を伸ばす。
フルーツと生クリームの挟まった、まるでショートケーキのようなサンドイッチを食べるのは初めてだ。並んでいるイチゴの断面が見えており、本当にケーキに見える。
遥は大きく口を開け、期待とともに口を閉じた。
生クリームの甘さにいちごの甘酸っぱさが合わさり、とても美味しい。
それにしっとり柔らかいパンの食感は、スポンジとはまた違う良さがある。
「おいしいね!」
「うん、うまい!」
笑顔でいちごサンドを頬張る光の向かい側で、遥も笑顔で食べ終えた。
食事の後は、勉強をしたり話をしたり、借りていた本を返してまた借りたりしているうちに、気づけば外は暗くなっていた。
机に置いていたスマホが通知を知らせる。
遥は読んでいた本をテーブルに置いて、画面を確認した。
「あ、慎一さんから『仕事終わったから、今から迎えに行くよ』ってきた!」
慌てて光に伝える。
「んー、職場からなら20分くらいか。もう準備しよう」
「うん!」
遥は本にしおりを挟み、トートバッグへとしまう。出していたドリルや参考書も急いで片づけた。
そして、冷蔵庫へ走ると、その前で光を待つ。
光が冷蔵庫を開け、ふたりのチョコを置いているバットを慎重に取り出す。
「遥、サンドイッチが入ってた保冷バックを持ってきて!」
「あ、うん!」
遥は慌てて自分の荷物を置いている場所に行き、保冷バッグを片手に光の元へ戻る。
「はい、これ。保冷剤ちゃんと固まってよかった」
「うん、ありがとう」
朝、保冷バッグに入れていた保冷剤を冷凍庫で再度冷やしてもらっていた。
受け取った保冷剤は、カチコチに固まっており、それを急いで保冷バッグへ入れる。
そして、その横に慎一へ渡す方のチョコの箱をそっと入れ、蓋を閉めた。
遥は、同じようにチョコを保冷バッグへ移し替えている光を確認した後、手元に視線を落とす。
そこには、トリュフが3つ入った茶色のリボンの赤い箱がある。
もう一度視線を上げた遥は、光の傍へ近づくと、それを差し出した。
「光くん、これどうぞ!」
「――えっ、オレに!?」
驚く光に、遥は小さく頷き笑みを浮かべる。
「うん。光くんのお陰でチョコが作れたから、そのお礼!」
「ありがとう……ごめん、オレ、遥の分、用意してないわ」
「え、ううん。お礼だから! もし貰っちゃったら、そのお礼を用意しないといけなくなるよ!」
「そのお礼のお礼でオレが返すと……エンドレスだな……」
笑いながら言う遥につられて、光も笑いながらチョコを大切に受け取った。
「ほんとにありがとう」
「うん! 僕こそ、今日は本当にありがとう」
慎一へのチョコを作れただけでなく、光と過ごせた今日一日はとても楽しかった。
そのとき、光のスマホから通知音が鳴る。
画面を確認した光が、パッと顔を上げ遥を見た。
「光輝が駐車場に着いたっぽい。たぶん慎一さんも一緒」
「あ、うん!」
その言葉に、遥は慌てて荷物を取りに走った。
コートを着て、マフラーをぐるりと首に巻きつける。そしてトートバッグを肩にかけ、保冷バッグを大事に両手で持つ。
「チョコレートは溶けちゃうから、暖房のついてない場所で保管してな」
「うん、分かった! 自分の部屋に隠しておく」
「オレも、明日まで部屋に隠しとこう。それより……遥、その持ち方で帰るつもり?」
「え?」
「どう見ても、保冷バッグの中に『何か入ってます』って感じだけど……」
「あっ……!」
遥は無意識に両手で抱えていた保冷バッグを慌てて片手に持ち替える。
そのとき、玄関の方で音がし、「ただいまー!」と元気な大きい声が聞こえてきた。
「じゃあ、明日、渡すの頑張ろうな」
光が小声で言い、拳を突き出す。
「うん! えっと……」
遥も小声で返しながら、首を傾げる。
「同じように出してみて」
真似をして手を出すと、光が笑顔を浮かべながら、その拳に自分のものを軽くトンっと合わせた。
「どうぞ」
リビングに入った遥は、光についていきながら辺りを見渡した。
初めて来た前回は、クリスマスパーティーだった。
あのとき飾られていたツリーや飾りは片づけられていたが、壁にはポスターや絵がいくつも飾られており、賑やかだ。
「ほら、届いた荷物」
「あ、ありがとう!」
ダイニングテーブルの上に置かれた段ボール箱を指され、遥はお礼を言いながら駆け寄った。
「生クリームの方は別の箱で届いたから、冷蔵庫に入れてる」
「うん、ありがとう!」
光が小さなカッターを差し出す。遥はそれを受け取り、箱を開けて中身を確認した。
注文した品はすべて入っているようだ。ほっと一息ついた遥は、そこでようやくマフラーやコートを脱ぐ。
「あ、これお昼ご飯だから、冷蔵庫に入れさせてもらってもいい?」
「うん、もちろん。オレのもあるんだろ?」
「そう、サンドイッチだよ! 楽しみにしてて!」
光を見つめて微笑む遥に、光は少し首を傾げながらも冷蔵庫へ向かった
サンドイッチをしまうと、早速今日のメインであるチョコづくりだ。
光から渡されたエプロンをつけた遥は、気合を入れる。
できるだけ綺麗で美味しいものを作りたい。
慎一が笑顔でチョコを食べてくれる姿を想像し、背筋を伸ばして材料の前に立った。
「じゃあ、トリュフを作るか」
「うん! お願いします!」
キッチンで光と並び、材料を確認してから作り始める。
貸してもらった鍋に生クリームを入れて、火にかける。沸騰したら火を止めて、刻んだ板チョコに少しずつかけて溶かす。
2つのコンロをそれぞれ使いながら取り掛かるが、今まで沸騰した鍋を運んだことがない遥は、どうしても動きがゆっくりになってしまう。
それでも、光は急かさず、横で静かに見守った。
溶けたチョコを平たいバットに流し入れ、冷蔵庫で少し冷やす。
「よし、この間に、トッピングの材料を用意しよう」
「うん!」
買っておいたココアパウダー、ミックスカラースプレー、粉糖を小皿に出していく。
光は、ココアパウダーにアラザン、それに小さいドライフルーツを用意した。
「そろそろかな」
光はそう言うと冷蔵庫へ向かい、バットを取り出してチョコの状態を確認する。
「うん、いい感じ! 次は分ける作業ね」
「はーい!」
光の手つきを真似してスプーンでひとつ分を掬って分けて、また冷蔵庫で冷やす。
待ち時間は、話をしていたらあっという間だった。
次は、先ほど分けたものをひとつ分ずつ取り、ラップで包んで綺麗な丸に整えていく。
遥は集中して丸めていたが、段々と形が崩れてきてしまった。綺麗な丸にしたいのに、デロデロだ。
綺麗にしようと手のひらで動かせば動かすほど、汚くなってしまう。
遥は光に助けを求めた。
「光くん、どうしても汚くなっちゃう……」
「ん? ああ、手の熱で溶けちゃったんだ。もう一回冷やしてから丸めれば大丈夫」
光のアドバイスどおりもう一度冷蔵庫で冷やし、手も少し冷やしてから再挑戦すると、今度はうまく丸めることができた。
最後に手で仕上げの丸め直しをして、トッピングをつけていく。
一気に色がついておしゃれになり、少し歪だった形も気にならなくなる。
楽しくなった遥は、次々とトッピングをまぶしていった。
「よし、完成!」
「できたー!!」
完成したチョコを前に、2人は歓喜の声を上げた。
想定より時間はかかったが、無事に作り終えることができた。
少し冷やした後、早速箱に詰めていく。
トリュフが6つ入るシックな紺色の箱、リボンは金色のものを選んだ。
遥は、箱を汚さないように、カップに入れたトリュフを2種類ずつそっと並べる。
蓋を閉め、リボンを結んだら完成だ。
リボンは、チョコの首に何度も結んでいるので、自信がある。
綺麗に結び終えた遥は、嬉しそうに目を細め、箱をそっと撫でた。
トリュフは全部で10個作っていた。味見で1つ食べたので、残りは3つ。それを、別の3つ用の箱に詰めていく。こちらは赤い箱に茶色のリボンだ。
すべて詰め終わり、箱を冷蔵庫にしまう。
チョコづくりが終わったら、片づけの時間だ。
光と一緒にボウルやスプーンに残っていたチョコを舐めたり、残ったトッピングを交換してつけ合ったりしながら、楽しく笑顔で洗い物を終えた。
光もチョコのことは光輝に内緒にしているらしく、証拠を残さないようにシンクや台所の床も綺麗に掃除をして、匂いが残らないように換気までおこなった。
リビングのソファに腰を下ろして時計を見ると、もうお昼の時間だった。
午前中いっぱいチョコづくりに使っていたようだ。夢中になりすぎて、気づいていなかった遥は、慌てて立ち上がる。
「光くん、もう12時過ぎてるし、お昼ご飯食べようよ!」
「ほんとだ。言われてみるとお腹減ってるな」
遥は早足に冷蔵庫へ向かい、声をかけてから中に入れていたサンドイッチを取り出した。
光は、そんな遥の後ろを通り、冷蔵庫横のラックからボックスを引き出す。
「なんかインスタントスープでも入れるよ。換気してちょっと寒くなったし。えーっと……オニオンと、たまごと、コーンがあるけど、どれがいい?」
ボックスの中を漁りながら聞いてくる光に、遥は少し悩みながら答えた。
「えっと、僕はコーンがいいな」
「オッケー! 準備するから座って待ってて」
「うん! ありがとう」
サンドイッチを大切に抱えてダイニングテーブルに向かった遥は、クリスマスパーティーのとき座った席に向かうと、サンドイッチをそれぞれの席に並べ始めた。
かわいいチェック柄の使い捨て容器は蓋が透明で、中身が見える。
大きな黄色いチェック柄の容器の隣に、小さいピンクのチェック柄の容器を並べた。
そして、笑顔で光が来るのを待つ。
しばらくして、湯気の立ったスープカップを両手に持った光がやってきた。
「光くん、ありがとう」
「うん」
遥の席にそっとスープカップをおいた光は、向かい側に座る。
遥はその様子をじっと見つめた。
「おー、サンドイッチおいしそう――えっ、いちごじゃん!!」
「うん! 光くんいちごが好きって言ってたから!」
光の反応に、遥は満面の笑みを浮かべた。
実は、おかず用のサンドイッチとは別に、デザート用のサンドイッチも作った。
こちらはフルーツサンドで、いちごを挟んでいるのだ。
昨夜、夕食の用意を手伝っていたとき、いちごがあることに気づいた遥が、慎一に「光くんがいちご好きだって言ってたから、僕の分を持って行ってもいいですか?」と聞いたことが始まりだった。
慎一が「それなら、フルーツサンドにして持っていこうか」と提案してくれて、今朝2人で作ってきたのだ。
今日チョコづくりで使ったものと同じ生クリームを、今朝はボウルに入れて必死に混ぜてきた。
最初はただの牛乳のようだったのに、10分ほど混ぜ続けるとケーキに塗ってあるふわふわなクリームに変わった。途中途中で慎一と交代しながら混ぜたが、もしかしたら遥の右腕は明日筋肉痛になるかもしれない。
今朝のことを思い出しながら、驚き喜んでいる光を見た遥は、慎一に報告したくてたまらなくなった。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
スープカップを両手でそっと持つと、じんわりとした温かさが伝わってきてほっとする。
ゆっくりと口をつけると、甘く濃厚なコーンスープが口の中いっぱいに広がり、体の奥まで流れていく。
少し温まった後、早速サンドイッチを食べ始めた。
ツナマヨ、ベーコンレタス、たまごサンドをぺろりと平らげ、いちごサンドへ手を伸ばす。
フルーツと生クリームの挟まった、まるでショートケーキのようなサンドイッチを食べるのは初めてだ。並んでいるイチゴの断面が見えており、本当にケーキに見える。
遥は大きく口を開け、期待とともに口を閉じた。
生クリームの甘さにいちごの甘酸っぱさが合わさり、とても美味しい。
それにしっとり柔らかいパンの食感は、スポンジとはまた違う良さがある。
「おいしいね!」
「うん、うまい!」
笑顔でいちごサンドを頬張る光の向かい側で、遥も笑顔で食べ終えた。
食事の後は、勉強をしたり話をしたり、借りていた本を返してまた借りたりしているうちに、気づけば外は暗くなっていた。
机に置いていたスマホが通知を知らせる。
遥は読んでいた本をテーブルに置いて、画面を確認した。
「あ、慎一さんから『仕事終わったから、今から迎えに行くよ』ってきた!」
慌てて光に伝える。
「んー、職場からなら20分くらいか。もう準備しよう」
「うん!」
遥は本にしおりを挟み、トートバッグへとしまう。出していたドリルや参考書も急いで片づけた。
そして、冷蔵庫へ走ると、その前で光を待つ。
光が冷蔵庫を開け、ふたりのチョコを置いているバットを慎重に取り出す。
「遥、サンドイッチが入ってた保冷バックを持ってきて!」
「あ、うん!」
遥は慌てて自分の荷物を置いている場所に行き、保冷バッグを片手に光の元へ戻る。
「はい、これ。保冷剤ちゃんと固まってよかった」
「うん、ありがとう」
朝、保冷バッグに入れていた保冷剤を冷凍庫で再度冷やしてもらっていた。
受け取った保冷剤は、カチコチに固まっており、それを急いで保冷バッグへ入れる。
そして、その横に慎一へ渡す方のチョコの箱をそっと入れ、蓋を閉めた。
遥は、同じようにチョコを保冷バッグへ移し替えている光を確認した後、手元に視線を落とす。
そこには、トリュフが3つ入った茶色のリボンの赤い箱がある。
もう一度視線を上げた遥は、光の傍へ近づくと、それを差し出した。
「光くん、これどうぞ!」
「――えっ、オレに!?」
驚く光に、遥は小さく頷き笑みを浮かべる。
「うん。光くんのお陰でチョコが作れたから、そのお礼!」
「ありがとう……ごめん、オレ、遥の分、用意してないわ」
「え、ううん。お礼だから! もし貰っちゃったら、そのお礼を用意しないといけなくなるよ!」
「そのお礼のお礼でオレが返すと……エンドレスだな……」
笑いながら言う遥につられて、光も笑いながらチョコを大切に受け取った。
「ほんとにありがとう」
「うん! 僕こそ、今日は本当にありがとう」
慎一へのチョコを作れただけでなく、光と過ごせた今日一日はとても楽しかった。
そのとき、光のスマホから通知音が鳴る。
画面を確認した光が、パッと顔を上げ遥を見た。
「光輝が駐車場に着いたっぽい。たぶん慎一さんも一緒」
「あ、うん!」
その言葉に、遥は慌てて荷物を取りに走った。
コートを着て、マフラーをぐるりと首に巻きつける。そしてトートバッグを肩にかけ、保冷バッグを大事に両手で持つ。
「チョコレートは溶けちゃうから、暖房のついてない場所で保管してな」
「うん、分かった! 自分の部屋に隠しておく」
「オレも、明日まで部屋に隠しとこう。それより……遥、その持ち方で帰るつもり?」
「え?」
「どう見ても、保冷バッグの中に『何か入ってます』って感じだけど……」
「あっ……!」
遥は無意識に両手で抱えていた保冷バッグを慌てて片手に持ち替える。
そのとき、玄関の方で音がし、「ただいまー!」と元気な大きい声が聞こえてきた。
「じゃあ、明日、渡すの頑張ろうな」
光が小声で言い、拳を突き出す。
「うん! えっと……」
遥も小声で返しながら、首を傾げる。
「同じように出してみて」
真似をして手を出すと、光が笑顔を浮かべながら、その拳に自分のものを軽くトンっと合わせた。
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